7-2
誰かに蔑まれる。
そんな幻聴から逃れるようにここまで歩いてきた。
僕は朽ちて倒れている大木に寄りかかると休憩をした。
もう何度もチェストやカーペットを見た。椅子は四脚から数えなくなり貴婦人の肖像画は全く同じものが十枚以上見つかった時点で数えなくなった。それらはすべて岩の上や草木の上、枝の上など当たり前のように置かれていた。
カーネーションも見かけたが、何かにすり潰されて粉のようになっていた。
そして疑問が生まれる。
どうして僕は粉を見ただけで、それがカーネーションであると分かったのか。
答えが出ない。
しかし歩みを止めるわけにもいかない。
インラ遊園区画の森の中。苔と鬱蒼とした木々。いつの間にか日が暮れてきた闇の中に沈みつつある場所。いや、空間。もうどうでもいい。
道に迷っているとは思ったが、そもそもインラ遊園区画の中にまともな案内板などないのだ。入ったことで迷ったのではない。ここに入ると決めた時点で既に迷っていたのだ。
今、僕は一人だ。小雀も消えてしまった。
何故あの時、ホテルマンの言葉を鵜吞みにして進んでしまったのか。公園に戻って小雀を探す道もあったはずなのに。
それはオーパーツを探すことに熱中していたというよりもホテルマンと話すこと、そして前に進むことに熱中していたからかもしれない。
小雀の優先順位が僕の中で明らかに下がったのだ。
寂しい感じがした。
だから、ああいう幻聴が聞こえるのか。
母親の愛がどうとか。
母親のストーカー行為がどうとか。
母親の飛び込み自殺がどうとか。
そのすべてが事実であるから余計に幻聴がよく聞こえてしまうし心に刺さる。
薄暗い森の中を歩くと誰しも聞こえてくるものなのか。
内容が内容なだけに気分が悪くなる。数歩歩いて首を左右に強く振る。不安や心配が取り除かれなくてもいい、ただほんの少しでも薄まってくれることを祈るばかりである。
あのホテルマンが言っていた基準であれば、ここは何号室あたりなのだろう。
確か二〇なんとか号室とか五〇なんとか号室とか。
もう、ここまで歩いたのだ。できれば半分には到達していて欲しい。
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