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「お達者でえ」
僕と小雀は遠ざかっていく船。いや、遠ざかっているのは汽車なので僕らの方か。
まぁ、ともかく。
汽車の最後尾であるベランダのような場所で船頭に向かって手を振った。
小雀の髪の毛が横で揺れているのが見える。
良い風だ。
よく見ると汽車はすべてが黒いわけではなく、細かいパーツに関しては金色であった。木目の美しい床は靴越しで触れているにも関わらず滑らかであることが伝わってくる。
「紅区画のオーパーツってなんなんだ」
「面白いものですから秘密ということで。お楽しみです」
「ふうん、まぁ、いいけど。で、どこにあるんだよ」
「先頭です。というか運転席ですね。そこにあります」
「そんなところに入れてもらえるのかよ」
「さあ、どうでしょうね」
僕は扉を開けて、車両の中を進んでいく。
天井や壁は木製であり、汚れないようワックスのようなものでコーティングされて、それが木々の照りのようにも見え高潔さを感じられる。天井には一定の間隔で大きなランプが設置されている。床はレッドカーペットで両端にはその下に敷かれている薄い緑色のカーペットも見える。正直、上品さを出すためなのか装飾は少ない。うっすらとかかっているクラシックはラフマニノフのピアノ協奏曲第二番であった。
通路は、八人ほどが並んで歩けるほどの幅があり、左側にそれぞれの部屋へ入るための扉が並んでいて扉の向こうから笑い声が聞こえてくる。車両の数が千八十あるため、右側には移動用に三人乗りのリフトがある。乗ると外の景色を眺めながら進むことができる。リフトは自動なので、乗るタイミングを逃しやすいリズム感のない人は苦しむことになるのではないだろうか。
朝早いため人通りは少ないが、皆、黒のスーツか黒のドレスを着て顎をあげて素早く歩いている。挨拶は軽く頭を下げるだけで言葉はない。
「ここって、なんか上品な感じがするな」
「紅区画は紳士淑女の区画ですからね」
「せっかく来たし観光してぇなぁ」
「分かりました。少し寄り道をしましょう」
「何をするんだよ」
「お腹、空きませんか」
「めっちゃ腹減ってる。死にそうなくらい。今なら牛丼の特盛、九杯いける」
「いいところがあります」
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