第三章
3-1
羽は非常に力強く空気をかいて風を生み出すと、僕たちを空に連れて行ってくれた。
間一髪というところでなんとか助かった。
花街区画の上空まで飛び上がって見下ろすと、花街区画が中心から弧を描きながら広がっていくような形をとっているのが分かった。その名の通りまるで花のようであったのだ。
もしかしたら、僕の住んでいる三ツ星区画も上から見ることによって何かしらの発見があるのかもしれない。
僕の羽に捕まっている小雀が遠くを見つめながら服を引っ張ってくる。
「クリスタルの羽ってすげぇんだな」
「えぇ、僕に羽が生えているのはオーパーツの力でしょうね。まさか、こんな力があるとは思いませんでした」
「すげぇぞ、久十字路町のほかの区画がよく見える」
森。
とてつもなく大きな穴。
神殿。
目立って面白そうなものはそれくらいだ。
今、見えたところも当然回らなければならないし、それ以外にあと二つの区画も回らなければいけない。それに三ツ星区画の完全なる球体も未だ行方不明なわけで、非常に難航していると言える。
目の前の問題を羽が生えるという奇跡によって乗り越えることができたから安心はしているが、状況を冷静に分析すればもっと焦ってもいいくらいなのだ。
「なぁデッドバーストふれあい祭りの開催日までにオーパーツを集めなきゃいけねぇんだろ。それって何日なんだ」
「特にはないみたいです。できる限り早くとしか言われていないですし。まぁ、冷静に考えて一年に一回は必ず開催しているわけですから今年中というのは間違いないでしょう」
「それはそうだろうけどよぉ。だとしたら、こんなに急いで集める必要もねぇんじゃねぇの」
「面倒でしたので、さっさと終わらせたかったのです。まぁ結局のところ収集員に追われているわけですから急ぐに越したことはないのですけどね」
「そっか。そりゃそうだな」
風が気持ち良い。空を自由に飛ぶ鳥たちは、こんな快感を得ることができたいたのかと嫉妬するほどだった。
涼やかである。
「なぁ収集員たち。また来るかな」
「来るでしょうね」
「仕事って言ってたしな」
「東京都からの命を受けたと言っていましたしね」
「わかんねぇな。変なことに巻き込まれている気がするぜ」
次の目的地は神葬(しんそう)区画である。
その名の通り、神の葬式を執り行うために作られた区画だ。
人は数えるほどしか住んでおらず、そこでは日々、神の葬式をしているという。自分の命を捧げるような残酷な儀式というわけではない。舞い踊ったり作物を供えたりとありきたりな内容だ。ただし、一日の内に何度も行うために神葬区画の人々は神の葬式のために一日を消費していく。もはや自分の人生や自分の時間を捧げているわけであり、命を捧げていることと同義とも言える。
神葬区画は特に秘密が多く、そもそも中へと入れてもらえないことが多い。
羽が生えて空を飛べているため強行突破は可能だが、後々の面倒を避けるためにも検問を通る予定である。急がば回れではない。リスクを冒して近道をとる勇気がないから遠回りをするだけである。
「お前さ。高校卒業したらどうすんだよ」
「一応、別の区にある大学に進学しようと思っています」
「どこの区だよ」
「港区です」
「結構頭いいんだな」
「勉強ができるだけです。頭がいいかは自分では分かりません」
「あたしも、たぶん同じ大学に進学する予定」
「暗に自分の頭がいいと言っていませんか」
「言ってねぇよ結果的にそうなっただけだって。頭悪いぞ、お前」
「確かに自覚はあります。すみません」
「頭悪いのは病気だからな。さっさと直せよ。でも大学も一緒だったら、これからのことを考えても毎日楽しいな」
「別れたら苦痛になると思います」
「口に出すなよ」
「お互いのことを嫌いになったら別れると思います」
「いや別れねぇよ」
「何故ですか」
「あたしがお前のことを嫌いになっても、お前はあたしのこと嫌いにならないでいてくれたら大丈夫だろ」
「まぁ、その。そうですかね」
「だから絶対にあたしのことを嫌いになるなよ。約束だからな」
「嫌いになるまで好きでい続けることをお約束します」
「ありがとう」
「いえいえ」
小雀が僕の背中を強めに四回叩き、僕の頭を二回撫でた。
「セックスしてぇなぁ。寂しさが子宮にガツンとくるぜ」
僕は神葬区画の検問近くにある鬱蒼とした森に向かって飛んでいく。
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