2-5

 テントから出て二十分ほど人ごみの中を歩き、三十分かけて階段を上って地上に出るとまた二十分ほど歩いた。

 その間、ずっと無言だった。

 教会の尖った屋根が見えてくる。

 外壁の塗料は剥がれ、スプレーで落書きがされている。ステンドグラスが割れていて、まるで所々が黒く塗りつぶされているように見える。見ていて気持ち悪く、あの中に入っていくと思うと恐怖もあった。

 当然、地下とは違って地上には誰もいない。

 僕と小雀の足音しか聞こえない。

 それもまた、浮足立ってしまう要因となる。

「なぁ、その、悪かったな。変な占いに連れて行っちまって」

「気にしないでください。そういうことを言われる可能性も考えていましたから」

「でも人を生き返らせるなんて、結構ぶっとんでるっていうか」

「えぇ、僕もそう思いました」

「なんか比喩的な意味だったんじゃねぇのかな」

 僕は鼻で笑った。

 だとしても中々に不快でしたね。

 口には出さなかった。

 母親に会いたい気持ちは強い。僕の母親は僕と関係のある母親なのである。これは反復されたことで見える事実だ。何度も嚙み締めなければいけない現実だ。

「なぁ、あの教会の中ってさ、どんなオーパーツがあるんだよ」

「羽です」

「めっちゃでけぇ鳥の羽とか」

「いえ、クリスタル製の羽です」

「すげぇじゃん」

「売ったら、ほかの六つのパーツの合計売却価格を軽く超えると思いますよ」

「本物だな」

「歴史的価値も高いかと」

 小雀が笑顔のまま歩行速度を上げる。

 僕も上げる。

 小雀がまた上げる。

 僕もまた上げる。

 小雀がとうとう走り出す。

 僕は笑った。

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