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 久十字路町は七つの区画に分かれている。

 革命期のごたごたで分断されたそうである。そのせいか七つの区画はそれぞれが強い個性を持っている。一目見て分かるほどだが、住人たちは今以上の個性を求めたがっている。

 豊島区は基本的には平和な場所である。しかし、その中にある久十字路町には険悪な空気が漂っている。強すぎる個性は一枚岩であることを拒否するため、仲間意識が限りなく薄いのである。

 僕の住んでいる三ツ星区画の一番北側には、三ツ星スクエアというマンションがある。

 この中に一つ目のオーパーツがある。

 三ツ星スクエアは、赤い木綿豆腐のような建物で、窓は一切ない。表向きは誰でも住めるということになっているが、羽角(はねかど)教団に入信している者でなければ相手にしてもらえない。無理にでも住もうとすれば危害を加えられる。

 僕は授業を終えて、高校の制服のまま三ツ星スクエアの前に立っていた。

 手には学食で買った、クリームパンと生クリームパンを持っていた。ビニールから生クリームパンを少しだけ外に出して齧る。生クリームが口の端に付いたことが分かり、舌で舐めとる。パンのお尻の方から少しだけ生クリームが出てしまったが、こんなものは許容範囲だ。最悪、ビニールを裏返して全部舐めればいい。意地汚いかもしれないが、生クリームが美味しいのだから致し方ない。

「では、先に行きますね」

 僕は横へ顔を向ける。

「当たり前だろ。なんで、あたしが先に行かなきゃいけねぇんだよ」

 口の悪い僕の親友がため息をついてこちらを睨んだ。

 名前は、小雀 青香(こすずめ せいか)

 性別は女性である。

 同級生である。

 身長は百八十五センチ。

 髪の毛の色は金色。ちなみに地毛である。

 目つきが鋭く手足が長い。

 喫煙者である。

 口が驚くほど臭い。

「あたし、帰ってもいいか」

「いや、よくないです」

「いやいや、あたし関係ねぇだろ」

「でも来てくれたじゃないですか」

「ついては来たよ。お前が来いって言うから。どこまで行くんだ、とか聞いても答えねぇから途中で帰ることもできねぇし」

「有難う御座います」

「お前さ、なんか電話で言ってたよな。なんかを一緒に探して欲しいとか」

「まぁ、色々ありまして。それより、ここに来るまでに随分と時間かかりましたね」

「まぁな。探すって聞いてたから、家に帰ってスニーカーに履き替えてきたぜ」

 小雀は律義な性格をしている。

「で、なんでこれに入る予定なんだよ」

「デッドバーストふれあい祭りのために、オーパーツを貸してもらおうと思っているんです」

「てことは、待てよ。え、お前、実行委員に選ばれたってことかよ、おい」

「はい」

「いいなあ。めっちゃいいなあ。なんだよ、じゃあ、あのピンクとゴールドの法被を着られるのかよ」

 あんな名前だけのしょぼくれたお祭りを楽しみにしている女子高生など中々見つかるものではない。小雀は少しばかりセンスがずれている。

「法被ですか。まぁ、着るのは強制みたいですね」

「あれ、あたしによこせよ。そしたら手伝ってやるよ」

「いいんですか」

「くれるんだろうな」

 まぁ、失くしたということにすれば大丈夫だろう。本番前に新しい法被の一着や二着くらいは用意してくれるだろうし。

「新品のやつじゃねぇと嫌だからな」

「えぇ、約束しましょう」

 僕と小雀は固く握手をした。

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