第4話ルールを守ってるんだから文句言うな!

 俺は東条屑。幼馴染の居眠り運転によって死んだ俺達は地獄行きを避けるため異世界に転生した。


 俺と詩織と和は現在ギルドの机を囲う様に座り話している。


「さっき受付のお姉さんに聞いたんだけど闘技場があるらしいから行ってみない?」


 闘技場か……、こいつがニヤニヤしている時点であまり気が進まないな。よし、金が無いから断ろう。


「ダメだ、今日も任務だ。絶賛金欠で無一文なんだから」


「それなら必要ない昨日俺が詩織から一万ギラ借りてカジノに行ってきてから今は三十万ギラある」

 和は限界までギラの入った袋を机の上に出した。


「またギャンブルしてたのかよ、まあそれなら行くか」


 本当にこいつは……、この前は十万ギラギャンブルして大負けしていたのに……本当に救えないな。


「やった!」

 と、詩織はガッツポーズをした。


 こいつ普段は戦いたがらないくせになんで闘技場に行きたがるんだ?何か隠してるな、不安だ。

 俺達はギルド中からと闘技場に移動した。


 ここらで一つ探りを入れてみるか。


「でもどうして闘技場に来たかったんだ?」


「へ⁉ま…まあ別に特別な理由は無いわ」

 詩織は滝のような汗を垂らしながら言った。


 何という分かりやすい奴なんだ……。もう少し努力して誤魔化せよ。


「剣道関連だろ詩織はいつも剣道に関連のこと知り合いに知られること嫌がってるからな」

 和が言った。


「そっか。ごめん言いにくいこと聞いちまったな」

 俺は手を合わせて謝った。


「別にいいわよ」


 怒らないだと……、本当に何を企んでいるんだ?


「剣道関連のこと知られることが嫌なんじゃなくて和の妹ちゃんに強いと思われるのが嫌なだけなんだけどね」

 詩織はボソッと小声で呟いた。


「でも闘技場なんて争いのないこの国で何のためにあるんだ?」


 そこに男が近づいて来た。見た目は輝くような金髪に深く透き通るような蒼色の目をしている。見るからにボンボンのような服装だ。


「それは相手の使うスキルを見て実際に習得するか決めるためです。要はスキルポイント節約のためです。」


「へぇーライセンスに書いてあるスキル覚えるか悩んでいるときに覚えている人と戦って実際どんな感じか見れるってことか便利だな」


「まさにその通りです。そしてもう一つ理由があって冒険者ポイントというものがあってそのポイントを道具と引き換えるなど複数の用途に使えるためポイントを集める手段が決闘というわけです。」


「へぇーなら積極的に参加したほうが良そうだな」

 と、和が俺の顔を見て言った。


「ここで会ったのも何かの縁です。一戦どうですか?」


「いいですよ。」

 俺は快諾した。


 この人は優しそうだし俺が初心者ってことも理解してるからきっと負けてくれるだろう。楽してポイントゲットだぜ!


「私の名前はローレン・ノースです」

 ローレンさんは手をへその前に添えて、お辞儀した。


「俺は東条屑」

「俺は西宮和」

「私は南詩織」


 俺に続くように二人も自己紹介した。俺はローレンさんに案内されてステージに上がった。


「まずルールですが決闘ではお互いの合意が必要です。ステージ外からの攻撃は禁止です。違反した場合はジャッジゴーレムが違反者を取り押さえます。決闘では自分の感覚を共有したゴーレムを使って戦います。だからどんな怪我を負っても大丈夫です。そして両者がステージに上がった時点で決闘開始です。最後にマナーですが最初にお互い頭を下げて後ろに三歩進みその後対戦開始です」

 決闘にもマナーってものがあるのか、面倒くさいな。


「それではよろしくお願いします。」

 と、ローレンさんはお辞儀した。それに合わせて俺もお辞儀した。


「フレア!」

 俺は杖先からローレンさん目掛けて火の玉を放ったしかしローレンさんは高く飛び火の玉を躱した。


 え?初心者の俺に勝たせてくれるわけじゃないのか?だとしたらやばいな。


 ローレンさんは右手で剣を抜き、

「エンチャントフレア」

 と、左手の人差し指と中指を立て刀身をなぞりに言った。なぞったそばから剣は炎を纏った。

「フライングスラッシュ」

 と、ローレンさんは剣を屑の方角に振ると炎を纏った斬撃が飛び屑の胴を上下に二つに斬った。屑のゴーレムが粉々に砕けた。そして闘技場ステージ横に屑の姿が現れる。


「熱い!痛い!やばい、死ぬ!マジ死ぬ!」

 俺は地面でのた打ち回った。


 熱い!熱い!熱い!痛い!痛い!痛い!この人俺が初心者だからポイント渡そうとした訳じゃないのかよ!


「大丈夫か?」


「怪我こそしてないものの全然死ねる」


 大丈夫そうかそうじゃないか一目で分かるだろ、バカ!


「アハハハハ!普段私を囮にしてる罰よ!」

 と、俺を指差して笑う。


 そういうことか俺を熟練の冒険者と戦わせることが目的だったのかこのクソ女が!必ず、必ずこの痛み以上の苦痛を与えてやる!


「すいません大丈夫ですか?」

 ローレンさんはステージ上から俺に駆け寄ってきた。


「ま……まあ大丈夫です」


 大丈夫な訳ねえだろ、こっちは初心者冒険者なんだよ。頭使えよ!


「返してください大事なものなのです」

 どこからともなく女性の声が聞こえてきた。


「ダメだよ~お嬢ちゃんルールはルールだからさぁ勝負の結果だから諦めなよ」

 今度は男の声だ。声からしてこちらに向かってきているのが分かる。


「そんな勝負も何もあんなの卑怯ですよ」


「知らねえよ。ちゃんと考えなかったお前が悪いんだろ?」

 ここで初めて声の主の女性が見えた。女性の見た目は十七歳ほどで輝くような金髪に深く透き通るよう綺麗な蒼色の目、見るからにボンボンのような服装をしている。どうやら女の子は俺達に気が付いたようだ。


「……あのすいません助けてくれませんか?」

 女の子は俺達に助けを求めてきた。


 うわ……、面倒くさいな。この人確かに金持ってそうだけど子供助けたって大した恩返ししてくれないだろうし。


「喜んで」

 詩織は反射的に答え、女の子のもとに走った。


「ちょっと待てよ」

 詩織は俺の静止を聞こうとしなかった。


「兄貴どうします?」

 男三人組大中小の小が俺を無視して話を進めた。


「いいぜ、三人がそれぞれ一対一の決闘をするルールは闘技場と同じだが勝った側は負けた側からなんでも一つ貰う」

 と、大中小の中が分かりやすく指の本数で表現した。


「ちょっと待て、俺はまだやるとは言ってない」

 今度は無視されないように大きな声で言った。


 勝手に話を進めようとしやがって、こんなチンピラ関わらないのが一番に決まってる。


「何言ってんの?あんな可愛い娘助けない訳ないでしょ」


「その通りだ、美人を見捨てようとは男の風上にも置けないぞ」


「なんでなんだよ。俺たちは駆け出し冒険者だぞ?勝てる可能性より負ける可能性のほうが断然高いだろ」


「だけど負けても失うものがないだろ?失うものが無いっていうのはギャンブルにおいて無敵状態なんだよ。ノーリスクハイリターンだからな」

 と、俺の左肩に手を置いた。


 確かにそうだが、チンピラに負けて有り金全部取られたら今日宿に泊まれなくな……。そうかその手があったな。


「確かにそうだな…分かったその勝負受けよう」


「決まりだな、俺はダズだ」

 大中小の中のダズは顎を出し見下すように見てきた。


「俺はカルロスだ」

 大中小の小のカルロスはポケットに手を突っ込みオラオラ揺れなながら下から見上げてきた。


「俺はジェイだ」

 大中小の大のジェイはムキムキで圧倒的肉体美をしている。三人とも俺達と同じくらいの歳の見た目で同じ黒髪黒目だ。


 ジェイはでかいしムキムキだな、ジェイとだけは戦わないようにしよう。


「俺は屑だ。こっちの男は和だ。そしてこっちの女が詩織だ決闘の前に作戦を話し合いたいから少し時間をくれ」

 と、俺は和と詩織をそれぞれ指差した。


「いいぜ、せいぜい考えるんだな」

 ダズがニヤニヤして言った。


 ムカつく顔だな、後悔させてやる。


「ご迷惑をかけてしまい申し訳ありません。私はレベッカです。」

 と、レベッカが深々と頭を下げた。


「ハァハァレベッカちゃん歳は?」

 詩織は真面目な顔して聞いた。


 キモッ!何でこいつ息が荒くなってるんだ?そういえば女神が何か言ってたな、何だったっけ?


「え?十七です」


「ビンゴー‼可愛いわねレベッカちゃん私のことは詩織お姉ちゃんもしくは詩織姉って呼んで」

 詩織は後ろからレベッカに抱き着いた。


 ダメだ、これは完全にダメだ。変態だ、これは世にはなってはならない紛うことなき生粋の変態だ。


「え?は?招致しました」

 レベッカは眉を寄せて分かりやすく困惑している。


「詩織暴走するな、自分を強くもて母性に飲み込まれるな!」

 と、和はレベッカに抱き着いている詩織を引き剥がす。


 俺は目を細め困惑の表情を浮かべた。


 母性に飲み込まれるって何なんだよ、聞いたことない言葉の組み合わせだな。


「はー…はー…危なかったわ、あと少しで完全に飲み込まれていたわ」

 詩織は息切れを起こした。


 詩織はギリギリのところで正気に戻ったらしい、俺には正直意味が分からない、母性に飲み込まれるって言葉そんなに普及している言葉なのか……ってずっと関係ない話だな。


「話が進まないから黙ってろよ。どうしてレベッカはあいつらと揉めたんだ?」


「実は…」


 場面は三十分ほど前の闘技場に変わる。


 レベッカがきょろきょろと見渡しながら立っているところにダズ達三人が近づいて来た。


「どうしたんだ?嬢ちゃん?」

 と、ダズは物腰柔らかく言った。


「どこかのパーティーに入れて貰うために来たのですが人に中々声を掛けられなくて……」

 と、レベッカは不安そうなか細い声で言った。


「そいつは大変だな。そうだ俺達と勝負してもし勝てたらパーティーに入れてあげるよ」


「本当ですか?」

 レベッカの表情が明るくなった。


「ああ、ただし俺達が勝ったら嬢ちゃんの物を一つ貰う」

 突如としてニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「えぇ……、その賭け事のようなことは私やったことがなくて……。」

 レベッカは負けた時のことを考え不安になり下に俯いた。


「大丈夫だって負けてもたった一つ失うだけだから、それにここでやらないと一人でここに立ち尽くして帰るだけになっちゃうよ?」

 目力を込めて表情が怖くなっていった。


「それは困ります…分かりました、勝負します!」

 レベッカは覚悟を決めて前を向いて答えた。


「いいね」


「嬢ちゃん頑張ってくれよ」

 ジェイが優しくレベッカの肩を叩いた。


「仲間になれるって信じてるぜ」

 カルロスが右手でグッドサインをした。レベッカは二人の行動を応援と感じ勇気が湧いて来た。ダズとレベッカはステージの上に移動してレベッカが挨拶しようと頭を下げたその時……。


「キャプチャー!」

 ダズはお辞儀をしていたレベッカに拘束スキルで奇襲を仕掛けた。


「きゃあ!」

レベッカは手足を縛られ体勢を崩し倒れた。ダズは腰につけていた剣を右手で抜き一振りでレベッカの首を真っ二つに切った。


「俺の勝ちだな、じゃあその金のペンダントをよこせ」

 と、ダズは薄気味の悪い笑みを浮かべた。


「お辞儀中に不意打ちなんて卑怯ですよ。それにこれは家宝なのでお渡しすることは出来ません」

 レベッカは闘技場ステージ横から姿を現して言った。


「それはダメだろ嬢ちゃんルールに無いことでいちゃもんつけるなんてさ」

 と、ジェイが一歩一歩レベッカに向かって詰め寄った。


「素直に渡しなよ。そんな大事なもの持ってるならそもそもこの勝負を受けるなって話だろ?」

 と、カルロスはレベッカの背後に一歩一歩詰め寄った。レベッカはじりじりと詰め寄られるたびに恐怖心が高まった。


「ジャッジゴーレムやれ」

 ダズはレベッカを指差しジャッジゴーレムに命令した。ジャッジゴーレムは抵抗するレベッカから無理やりペンダントを奪い取りダズに渡した。


 場面は元の俺達が話し合っている控室に戻った。


「ここから先は皆さんも見た通りです」


 え?ダズって人あんな偉そうにして強そうなのにやること不意打ちってダサいな。


「そういうこと、お姉さんに任せなさい。絶対に取り返してみせるわ」

 と、詩織はレベッカの手を取り目を見て言った。


「相手は随分と卑怯ですね真面目に勝負をすればあなた達ではまず勝てないでしょう」

 と、ローレンさんは壁に寄りかかり頬杖をついて言った。


 ローレンさん随分とハッキリと言ってくるな、もっと優しくオブラートに包んで言って欲しいものだ。


「相手が卑怯だろうとそうでなくても真面目に戦うつもりは無いからそこは大丈夫です。それじゃあ作戦会議だ。」

 俺達は五人で輪を囲んで話し始めた。


「作戦も何も相手の戦い方がわからないぞ。三人全員剣を持っていたから冒険者か戦士かぐらいしか見当がつかないぞ」

 和が一番に言った。


「確かにどんなスキルを使うのかわかれば対策が取れるのだがレベッカスキルまでは見てないのか?」


「拘束スキルを使っていました。だからダズさん達の職業はハンターか荒くれ者だと思われます。」


「ハンター?荒くれ者?聞いたことのない職業だな。」


 あの酒場のマスター面倒くさいからって説明を省いてやがったな。


「説明不足でしたね。冒険者職は変化するのです。変化するとその職によってステータスが上がりその職のスキルが覚えられるようになります。」

 ローレンさんが俺達の分からないところを補足説明してくれた。


「え?でも俺は魔法使いですけど盗賊のスキルの透明化を使えますよ。」


 確かに和の言う通り和は魔法使いでありながら盗賊スキル使っているな。


「たまにそういう人もいます。逆に職についてもその職用のスキルを使えない人もいます。」

 ローレンさんが言った。


「荒くれ者やハンターのスキルって他には何がありますかお兄様」

 レベッカがローレンさんに言った。


「すまないレベッカ荒くれ者やハンターは闘技場に来ることは基本的に無いから分からない」


 お兄様⁉確かに見た目似ているなとは思っていたけど本当に兄妹だったんだ。だったらローレンさんもっと怒れよ、妹が酷い目に合わされたんだからさ……ローレンさんドライだな。


「そうですか」


「まあこっちは取られて困るものは無いし気楽に順番だけ決めるか」

 俺と和と詩織はより小さな輪を囲んだ。


「私一番。一番に勝ってレベッカちゃんの家宝取り返していいところ見せたい!」

 と、詩織は小学生のように元気に手をあげて言った。


 絶対それ本人がいる目の前で言ったら意味なくなると思うんだけど、バカなのか?


「なら和は二番いってくれ。作戦がある」

 俺は和の顔を見て言った。


「了解だ、屑。」

 俺達は小さく囲んだ輪を解いた。


「本当に巻き込んでしまって本当に申し訳ありません」

 再びレベッカは、俺達の目の前に来て深々と誤った。


「気にしなくていいのよ。ただ戦うのに使うからレベッカちゃんの剣借りてもいい?」


「どうぞ」

 レベッカは快く腰につけていた黄金の剣をレベッカに手渡した。


 場面は闘技場ステージ横に変わる。ダズ、カルロス、ジェイの三人は長椅子に座って話している。ダズが俺達に気が付いた。


「やっと来たか、一番手は俺だ」

 カルロスが立ち上がって言った。


「雑魚じゃん、ハァー、レベッカちゃんにかっこいいところ見せたいから強そうなのと戦いたかったのに……、仕方ないわね」

 と、詩織は対戦相手がダズパーティーの中で一番弱そうな男と分かりため息交じりに頭を掻いて言った。


 なんでこいつは相手を無駄に怒らせるんだ、勝てるからって調子に乗り過ぎだ。


「てめ……」


「ここで怒るな、今から戦うんだからステージの上で分からせてやればいいだろ」

 ダズが半歩前に出てカルロスの顔の前に腕を伸ばして発言を制止した。


「その通りですな、兄貴。やっぱ兄貴は天才だ。」


 どこがだ、バカ。ここで怒ったお前がバカすぎるだけだろ。


 カルロスと詩織は闘技場ステージ上に移動し数メートル距離を取った位置で対峙している。


「世間知らずな田舎者らしいから教えてやるよ。まずお互いにお辞儀をするんだぜ」


「詩織さん勝てるのでしょうか僧侶は攻撃魔法を苦手としています。いくら私の剣を貸したとはいえ僧侶がアタッカー職業の人に勝てるとは思えません」

 闘技場ステージ横で緊張感に耐えられなくなったレベッカが俺の顔を見て言った。


「そうです僧侶がアタッカー職業に勝ったという話は一度も聞いたことがありません」

 ローレンさんもレベッカに便乗する形で俺に尋ねた。


「大丈夫、あいつは勝つよ」

 俺は自信満々に答えた。


 確かに詩織のことを知らない人からしたら不安だろう、だがしかし俺と和はあの顔だけアル中女の強さをよく理解しているから微塵も不安は無い。


「そんなしょうもない手が効くと思ったの?早いところ終わらせてレベッカちゃんに感謝されたいからさっさとやるわよ。プラスステータス」


 詩織は自分自身に全の力上昇のバフを掛けた。そして手に持っていた杖を地面に投げ捨て左手に持っていた剣を鞘から抜いた。


「バフ魔法掛ければ僧侶が冒険者に勝てると思ってるのかよ、それに僧侶は教えで刃物を振るうことを禁止されてること知ってんだよ、ざまあみろ、マヌケ!」

 カルロスは詩織に向かって飛び掛かった。対して詩織は背後から吹いて来た追い風に乗り目にも止まらぬ速さで動き剣を一振りしてカルロスの体を上下で二つに切り分けゴーレムを破壊した。後からゴーレムを切った『ザンッ‼』という音が闘技場内に響き渡った。


 レベッカは驚き口をポカーンと開けている。


「言ったでしょあいつ剣道八段つって俺らの国では最上位の剣道の資格持ってるぐらいには強いから」


 そうあいつは滅茶苦茶強いのだ。だがあいつはウルフドッグの時も、グリズリーベアの時も戦おうとしなかった。あいつの怠慢な行動にはいずれ後悔させてやる。


「ケンドウ……?良くわからないですがすごいですね」

 レベッカは首を傾げ、困惑の表情を浮かべた。


 おいおい、ここにはアイドルオタクばかりが転生したのか?何故アイドル文化を広めて剣道を広めてないんだよ。ここは魔王によって脅かされているんだから戦力アップにつながる剣道を広めろよ。


「音が行動の後からするとはすごいものですね」

 ローレンさんは口元を手で隠し呟いた。


「レベッカちゃん見てたー?どうだった私?惚れた?惚れた?」

 闘技場ステージ上から聞こえるように大きな声で言ってピースサインをした。


「かっこよかったです」


「ドュハハハ、お礼なら体で払ってくれればいいわよ」

 詩織は自分自身の体を弄りビクビクと体を痙攣させる。


 キモッ!こいつとんでもない下心をもって助けたんだな。


「僧侶が剣使うなんて卑怯だろ」

 と、カルロスがステージ横から叫んだ。


 どこがだ、バカ!


「うるさいわね!誰が何使おうと自由でしょ雑魚!」


「くそっ‼」

 カルロスは地面を何度も蹴った。


「ショウシャハシオリセンシュデス」

 ジャッジゴーレムが詩織サイドの旗を上げた。


「それじゃあ雑魚共まずはレベッカのペンダントを返してもらうわよ。」

 詩織はダズの持っている黄金のペンダントを指差した。


 ふー、これであと一勝すれば目的完了だな。もしかしてこれ余裕なのでは?


「チッ、ほらよ、ジェイ次頼むぞ」

 ダズは首を素早く捻り、舌打ちしてペンダントを詩織に投げた。


 あいつ感じ悪いな、あとで泣かしてやる。


「あぁカルロスの分は俺が取り返してやる!」

 ジェイは強い覚悟を胸に手を力強く握った。


「すまねえ…」

 カルロスは下を向き申し訳なさそうに言った。


「気にするな。僧侶あそこまで強いなんて誰も想像できないだろ?」

 ダズはカルロスの肩に腕を回し励ますように言った。


「ほらレベッカ取り返したわよ」

 詩織はステージ上から走り降りてレベッカにペンダントを手渡した。


「詩織さんありがとうございます」

 レベッカは詩織に頭を下げてペンダントを受け取った。詩織はレベッカが頭を下げている内にレベッカの背後に回り抱き着いた。


「あの詩織さん?」

 このバカは何やってんだ?


「気にしないでレベッカちゃん可愛いわね。和この勢いに乗りなさいよ」


 気にするに決まってんだろ、バカ!和が止めないから俺が止めないといけないのか……。


「はなれろーしおりーぼせいにのみこまれるなー」

 俺は面倒くさそうに棒読みで言い、詩織をレベッカから引き剥がした。


「和作戦は分かってるな?」

 と、俺は人差し指と中指で自分の両眼を指し次に和の両眼を指した。


「勿論だ」

 和はそう言い残しその場を後にし、ジェイは覚悟を決めステージに上がった。


 五分後


 ジェイは一向に対戦相手が来ないことに少し苛立っている。


「まだか、まさかビビって逃げたんじゃないだろうな」

 ジェイは腕を組み、指でとんとんと、二の腕を叩きながら言った。


「トイレに行くって言ってたからもう少し待ってくれ」

 と、俺は苛立っているジェイをなだめた。そしてジェイの背後に突如として、和の姿が現れた。


「フレアフレアフレアフレアフレア」

 と、和はジェイの後頭部に杖先を当てて杖先からジェイの後頭部にゼロ距離で火の玉を連続で放った。ジェイの姿をしたゴーレムの頭は丸焦げになった。


「いよっしゃー!」

 和は嬉しい感情を前面に表しガッツポーズをした。


「ナイス和」


「よくやったわ、和」

 と、俺と詩織は和の見事な勝利に拍手を送った。


 よしっ、俺の言った通り和が動いて勝った。これで俺達の完全勝利だ。


「え?なんか卑怯じゃないですか?」

 レベッカは不安そうに俺と詩織の顔を見た。


「いやルールは守ってるから」

 俺は手を振り全く問題ないことをアピールした。


「そうよ、ルールを守って戦ったんだから問題ないわ」

 詩織がレベッカの肩に腕を回し安心させた。


「ふざけんな‼ルール違反だろこんなの無効だ‼」

 と、ジェイはステージ横からジャッジゴーレムに訴えた。


「ルール違反だぁ⁉どこにスキルを使った状態でステージに入ってはいけないってルールがあるんだよ。えぇ⁉」

 和はチンピラのごとくオラ付いた口調で言った。


「ルール守ってるからってやっていいことと悪いことがあるだろ⁉」

 ジェイはチンピラっぽい和に対してチンピラな口調で言い返した。


「お辞儀してる女の子の首切ったことを許容してるくせに何言ってんのよ、筋肉バカ」

 と、詩織が右手を口に添えステージ横から野次を飛ばした。


「そうだぞ、筋肉馬鹿」

 俺も楽しそうなので右手を口に添え、野次を飛ばした。


 それにしても詩織の言う通りだな自分たちも似たようなことやって勝ったくせに無効になると思ったんだ?バカなの、ねえバカなの?


「ショウシャハカズセンシュデス」

 とジャッジゴーレムは和サイドの旗を上げた。


「ジャッジゴーレムが言うんだ仕方ねえ何取られても俺が取り返してやるから安心しろ」

 ダズが励ますように力強くジェイの肩を叩いた。


「そうしようぜ。俺らは二人とも負けちまったんだからな」

 カルロスがもう片方のジェイの肩を叩いた。


「取り込み中悪いが今回はダズお前を貰う、それで次の試合は不戦勝でこっちの勝ちだ」

 と、俺は勝利の笑みを浮かべてダズを指差した。


「な⁉」

 ダズパーティー、レベッカ、ローレンさんは俺の発言に驚きを隠せず口から言葉が漏れた。


「お前をこっちのパーティーにスカウトするだから次の試合に出場者がいないよって俺たちの勝ちっていうことだ」


 ダズは俺の言葉を聞き絶望して倒れこんだ。


「ということは屑さんたちの完全勝利ですね。なんだか卑怯な気がしますが」

 ローレンさんは首を傾げいまいち納得は出来ていない様子だ。


「それじゃ可哀そうだからダズお前は要らないから元のパーティーに戻っていいぞ」

 俺は手でしっしっと払いのけるジェスチャーをした。


「は⁉」


「兄貴」


「ダズさん」

 倒れているダズにジェイとカルロスが駆け寄る。


 まだだ……俺を小バカにしていた復讐はここからだ!


「そして三戦目の勝利で貰うものはこっちが貰うものはダズお前の家だ」


「は⁉家?そんな生きていけなくなる頼む別のものにしてくれ」

 と、ダズは俺に頭を下げて懇願した。


「何言ってるんだ?何でもって言ってただろ」

 俺は腰を落としダズと目線を合わせて言った。


 フッフッフこの俺に勝負を挑むからこうなるんだよ、このバカがよぉ‼


「でも家は…」

 ダズは絶望で頭が回らなくなり言葉を詰まらせた。


「そうだぞ、卑怯な手を使って勝ったくせに」

 カルロスが言葉に詰まったダズを庇って言った。


「何言ってんだ?お前らだって卑怯な手を使ってレベッカに勝ってペンダント取ったんだろ?ジャッジゴーレム頼む」

 と、俺はダズを指差しジャッジゴーレムに命令し鍵を奪い取らせた。


「あ…あぁ…」

 ダズは絶望で言葉を失い座り込んだまま点を仰ぎ見ている。


「それじゃ行くか」

 俺達はダズに背を向けて歩き出した。


「いくらなんでも卑怯だったのではないですか?」

 レベッカは立ち止り俺の袖を掴んで言った。


 この子は随分と道徳的な人間だな。人に騙されることが多くて大変そうだ。


「そんなに心が辛いなら卑怯な人間に対して相手の得意な分野で戦って勝っただけだと思えばいいんだよ。」

 俺はレベッカの手を袖から離した。


「確かにそうですね。相手の得意分野で勝負して勝ったと思うと悪いことした気分になりませんね。」

 と、レベッカは手を顎に当てた。


 この子は本当に大丈夫か?将来とんでもない詐欺に引っかかるんじゃないのか?


 俺達はギルドの外に来た。空は薄い橙色に染まり太陽は真っ赤になって地平線に沈み始めている、すっかり夕暮れだ。


「またどこかでお会いしましょう」

 ローレンさんとレベッカは口をそろえて言い、俺達とは反対の帰路に就いた。その後すぐ後ろから誰かが走って来る足音がした。


「あの皆さん!」

 振り返ると後ろにはレベッカがいた。


「私を仲間に」


「勿論いいわ」


「黙れバカ!今明らかに感動的なシーンだっただろ。レベッカもう一度言ってくれ」

 と、俺は詩織の額をチョップしどうぞ喋り下さいと言わんばかりにレベッカに手を向けた。


「えぇ……、恥ずかしい。あの私を仲間にしてもらえませんか?今回のことで分かったのです。真面目な人のままでいたら大事なものを失うだけなのだとだから皆さんの下で勉強させてください」

 レベッカは腰を折って深々と頭を下げて、頼み込んできた。。


「夜の学習は私がしてあげるわ」

 詩織はレベッカに手を差し伸べた。


 相変わらずこいつは空気読めないやつだな……。レベッカは剣持ってたし前衛は出来るのだろうから仲間に加えることは文句はないが人に騙されて金を騙し取られたりしないのかが心配だ。

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