第3話純粋な好青年か……カモだな!

 俺は東条屑。幼馴染の居眠り運転原因で死んだ俺は異世界へと転生した。


 俺と和と詩織の三人はギルドの机を囲むように座っている。


「今日はどうする?」


「任務だ。お前らのせいで絶賛金欠だからな」


 そう俺達三人は金欠である。理由は和と詩織の二人が一晩にして全財産を散財したからだ。


「そうかそれは大変だな」

 和は、他人事のように清々しく言った。


 こいつまるで他人事のように言いやがって……。


 そこに一人の男が近づいて来た。見た目はどこにでもいる高校二年生程度の若い男性強いて言うなら

優しそうな見た目をしている。


「あのパーティー募集の張り紙を見たんですけど」


 おお!昨日張っておいた張り紙で早速人が来た。


「お名前と役職はなんですか?」


「リョウ、冒険者です。」

 リョウ君は冒険者ライセンスを手渡してきた。


 職業が冒険者?冒険者職業の冒険者ってことか?紛らわしいな。まあ前衛さえできれば何でもいいか。


「冒険者ですかでは前衛出来ますか?」


「出来ます!」

 リョウは元気に答えた。


 ほう随分と良い感じの好青年か……カモだな!どうせ人に強く言われたり頼まれたりしたら断れないだろ。


「では今から任務行くのでお試しという形で行ってみて判断させてもらいます」


「やったわ、これで囮引退よ」

 詩織は勢いよく立ち上がった。


「リョウが採用されればな」


「簡単そうな任務選んでくるわ!」

 詩織の後を追いかけ俺達は掲示板に向かった。


 ぜひともそうして欲しいものだ。折角来てくれたかもなのだから逃したくはない。


「これなんてよくない?ウルフドッグ討伐任務なんと報酬は五万ギラ」

 手に持っている任務依頼の紙を指差した。


「これでいいですか?」


「はい問題ないです。」


「やったわ」

 詩織はガッツポーズをとり受付嬢に向かった。


「この任務受けます。馬車もお願いします」

 詩織は任務依頼の紙と千ギラを受付嬢に手渡した。


「分かりました。任務頑張ってください」

 受付嬢は任務依頼の紙を受け取った。


「早速任務に向かうわよ」


「了解」

 和が元気よく答えた。俺達はギルドから出て馬車乗り場に向かった。


「これだな、早速乗っていくか」

 俺達は馬車に乗った。


「あれ御する人いないのか?」


「はい、ギルドの馬車は基本的に自分たちで御します。」


「じゃあ誰が御す?」

 和がこちらに質問した。


「私は無理よ!もし私になったら居眠りして全員で死ぬわよ!」


 は⁉この女……、俺と和を殺したこと本当に反省してんのか?いつか絶対俺を殺したことを後悔させてやる。とはいえ和には無理だろうしリョウ君は未青年っぽいから俺がやるしかないのか。


「分かった、俺がやる」


「屑いいのか?帰りは俺が御すか?」


「お前昔車運転したとき人格変わって墓場に突っ込んだだろ」


「そうだったな」


 『そうだったな』じゃねえよ!ハンドルを握った瞬間に『いやん、あなたとなら死んでもいいわ』とかオネエ人格に変わって墓地にアクセル全開で突っ込んだくせに!


「それにしても馬車に乗るのは初めてね」

 詩織は馬車の中を見回した。


「え⁉馬車乗ったことないんですか?」


「ここの馬鹿二人がお金を全部使ったので馬車代払えなかったんです。」

 と、和と詩織を指差した。


 この二人がバカみたいな金の使い方をしたせいでこの前は何時間も歩いて疲れた。


「え?なんで詩織さんはお酒飲んでいるんですかこれから任務ですよ」

 リョウは詩織が酒を飲んでいることにドン引きした。


 はぁ⁉何でこいつ酒飲んでいるんだ、金はどうしたんだ?


「大丈夫だよ。こいつ僧侶だから酔っても治せるんだよ」

 和がリョウ君に説明した。


 そういう問題じゃないだろ、このバカ共が!今はリョウ君がいるから出来ないが宿に着いたらしっかり説教してやる。


「そういう問題なんですかね……。」


「着いたぞ」

 俺の言葉で全員が馬車から降りた。俺も馬車から降りて馬の手綱を木に結び付けた。


 目の前にはどこまでも綺麗な黄緑の地平線が続く草原だ。そんな草原にポツンと巨大な狼がいる。


「見つけたあれがウルフドッグか」

 和は離れた場所にいる体長三メートルほどの赤目の巨大な狼を指差した。


 は⁉楽そうな任務選ぶって詩織言ってたよな、昨日のグリズリーベアより明らかに強そうだろ……。どうやって倒すかなとりあえず様子見するか。


「試しに打ってみるかフレア!」

 俺は杖先からウルフドッグに向かって火の玉を放った。ウルフドッグは何事もなかったかのようにしている。


 え……、全く効いてないんだけど……、また集中砲火すれば倒せるだろ。


 ウルフドッグは俺達に気づきこちらに向かって走って来る。


「それじゃリョウ君前衛お願いします」


「分かりました詩織さん見ていてく……え?」

 と、リョウ君詩織のほうを向き詩織がまだお酒を飲んでいることに気づいた。


 やはりそうか……、とは言えアル中女が何まだ酒飲んでるんだよ。この任務が終わったら必ず後悔させてやる。


「え?らに?」


「詩織さん見ていてください」

 と、言いウルフドッグの方を見た。気が付けばウルフドッグは目の前に来ていた、ウルフドッグが前足で和を切り裂こうとするがリョウは剣を抜き前足を受け止めた。


「おぉ!」


 ちゃんと前衛出来て強いな、これはますますパーティーに欲しい。


 俺と和は数歩歩下がった位置からフレアで攻撃する。ウルフドッグが弱り吠えた、すると奥からウルフドッグの群れが走ってくる。


「やばい、僕もう少し離れた位置からサポートしますね」


 俺は後ろを向きウルフドッグとは反対方向に走る。


 あれは無理だ!一匹なら頑張って討伐しようと思えるが十数匹いるのに討伐はしようなんて思えない。こっちが討伐されてしまう俺だけでも逃げるんだ、気が向いたら墓参りしてやるからな。


「僕もそうします」

 和は俺を追いかけるように走る。


「コンディションリカバリー私もそうする」

 詩織はスキルで酔いを醒まし俺達を追うように走る。


「了解です」

 ウルフドッグの群れがリョウの目前まで来ている。


「なんでそんなに遠くに行くんですか早く攻撃してくださいよ」

 と、遠くに離れた俺達に聞こえるように大声で言った。


 嫌だ、前衛手に入れるためだけに命張りたくない。前衛についてはまたギルドで募集を掛ければいいだけの話だ。


「気付いていないふりをしろ、どう考えてもあの群れには勝てる訳がない」


「屑同感だ。リョウ君彼は実にいい奴だったただ相手が悪かった」


「仕方のないことよ、忘れなさい」

 俺達は足を止めることなく走り続ける。


「まさか僕を置いて逃げる気じゃないのか、待ってくださいよ」

 リョウ君は俺達三人を追って走り出す。


 何でこっちに逃げるんだよ!危ないだろ。十分離れたらテレポートでリョウ君のところに移動してまたテレポートで助けてあげようと思ってたのに。


 十分後、俺たち全員は街まで戻っていた。ウルフドッグについては俺達が街に近づいたことで諦めて草原に戻って行った


「はぁ……はぁ……酷いですよ。はぁ……僕一人置いて逃げるなんて。やっぱり僕パーティー加入辞めます」

 リョウ君は疲れ果てて両手を膝についている。


 まじか……、リョウ君優秀だし前衛に欲しかったのだが、何とか交渉しなければ……。


「それはダメ、お願いパーティーに入ってもう囮は嫌なの」


「囮?」

 リョウ君は首を傾げて眉間に皴を寄せて問い返した。


 あのバカ……、余計なこと言いやがってもう交渉は無理だ。これから先どんな前衛が加入してもあいつを囮にしてやる。


「気にしないで下さい。」

 俺は会話を遮り終わらせようとした。


「この二人が動けなくなった私を囮にしたのよ。おまけに前衛が加入するまでは私に囮をやらせる気なの」


 このバカ!そんなこと言いやがってもしその話が広まったら俺達のパーティーに加入する人はいなくなるのに、こうなったら黙らせるしかない。


 俺は詩織に静かに近づいた。


「お願い。絶対パーティーに入……」

「サンダー」

 俺は詩織が言い切るその前に電撃で詩織を気絶させた。


「な……仲間じゃないんですか?」


「詩織は虚言癖があるので黙らせました。」

 和が適当な嘘でごまかした。


「リョウ君は何のためにパーティーに志願したんですか?」


「張り紙で詩織さんの写真を見て一目ぼれしたからです。ですがその詩織さんは任務中にお酒を飲んでいる。そしてお二人は人を囮にして敵前逃亡するので加入したら命がいくらあっても足りないと感じたから加入をやめます」


 まあそうなるよな、討伐も諦めて今日は野宿か……いや待てよ。


「そうですか。加入をやめるならギルドクラブに戻ったら惚れた女をみすみす見逃し怖気づいて逃げた腰抜けと噂を広めますがいいですか?」


 リョウ君の顔色が青くなっていく。



「そんなそれは困りますそうなったら誰もパーティーを組んでくれなくなる」


「ですよねぇ~、困りますよねぇ~。これから先腰抜けと馬鹿にされ一人で討伐任務を受け続けることになるのですから、ここで相談ですが言いふらされたくなかったら今回の任務達成まで手伝ってください」

 俺はリョウ君の肩に腕を回し圧を掛ける。


「分かりました。ただし僕一人を囮にするのは辞めてください」


「分かりました。」


 俺達は再びウルフドッグを討伐すべく草原に向かった。


 とは言え本当なら任務をキャンセルしたいところだが俺達は金が無い、おまけにたった二回目の任務を中断するなんてしたらギルドから信頼されなくなって任務を受けられなくなるかもしれない。どうやったらウルフドッグの群れを討伐出来るのだろうか……。


「屑、言い忘れてたけど今回の任務はウルフドッグの群れのボスだけ倒せばいいぞ」


「そういう大事な説明は最初に言うんだよバカ!とは言え群れのボスってどうやって見分けるんだ?」


「それなら簡単です群れのボスは目の色が違います通常は青ですがボスは赤です」


 は?


「じゃあ最初に会った個体がボスだったってことか?」

 和はリョウ君に質問した。


「そうです」


「マジか……、最悪じゃん。」

 と、両手で撫でるように顔から頭頂部に動かした。


 お前が最初に言っていたらこうなってなかったんだよ、バカ!……いや運がいいまたあいつがいる。


「そうでもないぞ。またあいつがいるぞ、赤目のウルフドッグが」

 と、奥にいるウルフドッグを指差した。


「今度は僕一人置いてかないでくださいよ」


「勿論、ちょっと待っていて下さい」

 俺は詩織に近づいた。


「ちょっ、何する気よ、変態」


「キャプチャー」

 俺はスキルを使って詩織を縄で縛った。詩織は縛られ体勢を崩し倒れた。


「これって女神の使っていたスキルか」


「あぁ便利そうだから覚えた」

 俺は自慢げに答えた。


「これを持って行って下さい、そしたら一人じゃなくなります。では僕達は後方から支援しますので」

 と、俺と和はリョウ君と詩織を置き少し離れた。


「嘘よね、もうほんとに無理!」


 可哀そうだな……、気持ちいい!


「それではリョウさんお願いしますね」


「分かりました…」


 詩織は暴れるが両手両足縛られていて身動きが取れない。


「助けてー!死ぬ!死ぬ!あいつら絶対にぶっ殺してやる!ちょっとあんたウルフドッグ倒せるの?」

 と、リョウと目を合わせるために必死に上を向いている。


「屑さんたちの援護なしだと相打ち出来るかどうかって感じです」


「ならよかったプラスステータス、これで3分間だけ普段より段違いに強いはずだからとっとと倒してよ」

 詩織はリョウ君の全ステータスにバフを掛けた。


「ありがとうございます」

 と、剣を抜いてウルフドッグのボスに斬りかかった。反撃されそうなタイミングで俺と和がフレアで援護し討伐した。しかし他のウルフドッグに気づかれて追いかけられる。


「よし目標達成だ。逃げるぞ!」


 俺は離れた位置から叫びテレポートでリョウ君たちに近づき再びテレポートで馬車まで逃げた。俺達は急いで馬車逃げた。


 はぁー……、毎回こうなるのか?普通転生者にはチートスキルを渡すものだろ。あの女神何で渡し忘れてんだよ。


 俺達は馬車に揺られボーっとしているとギルドに着いた。


「任務達成しました」

 俺は受付で任務達成を報告した。


「お疲れさまです。報酬の五万ギラです」

 受付嬢は五万ギラを俺に手渡した。


「ありがとうございます」


 あれだけ命を危険に晒して五万ギラか……、人生は過酷だ。


「あの……、僕の分け前は?」


「二万ギラです」

 俺は二万ギラをリョウ君に手渡した。


「私の分は今回も囮にされた分しっかりと貰うわよ」


「二万ギラやるから怒るなよ」


「やったー」


「俺のは?」

 和は自分も貰えるのかと期待して聞いてきた。


「無いよ。俺も無いんだ、諦めろ」


 五万ギラ稼いでも分け前で四万飛び残り一万は宿代で無くなるのか……、俺達この先やっていけるのだろうか。


「あの思ったんですけど、最初から真面目にやってれば簡単に討伐出来たんじゃないんですか?」


「いやー群れが来てたら倒せなかったと思うよ。二回目はあいつが吠える前に倒せたからうまくいっただけだし。」


 和の言う通りだが詩織が真面目に戦えば間違いなく簡単に倒せたはずなのだ。


「やっぱりそう簡単な話じゃないんですね。あの最後に聞きたいんですけどなんで皆さんはその職業を選んだんですか?」


「死にそうになったらテレポートで逃げられるから」


「透明化で逃げたり覗きが出来ると思ったから」


「二日酔い治せたら毎日好きなだけお酒が飲めると思ったから」


「ダメだ。この人たち本当にクズなんだ」


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