第2話友情の囮大作戦
俺は東条屑。幼馴染の南詩織の居眠り運転で轢き殺された。あの世に行った俺達は女神に地獄に行くか魔王を討伐するかの二択を迫られ転生することにした。
朝日が部屋の中に差し込み小鳥のさえずりで俺は目を覚ました。
「ふわーぁ……、朝か。」
やはり夢じゃないか……。まあいいやお腹すいたな食堂に行くか。
俺はお腹を摩りながらベッドから起き上がり部屋を出た。食堂には和と詩織がいた。俺達は一つの机を囲むように座った。そこに宿主の女性が近寄って来た。
「おはようございます疲れは取れましたか?」
「はい。あの冒険者ってどこで任務探したら良いんですか?」
「それでしたら冒険者ギルドへ行くといいですよ」
「ありがとうございます」
へえギルドか異世界っぽくて良いな。
俺達は朝食を取り終え宿主に聞いたギルドの場所に移動した。冒険者ギルドの中には掲示板がありそこには任務が書かれている張り紙がたくさんあった。
「へー結構あるな、どれにする?」
と、和が眠そうに聞いてきた。
「初心者おすすめ任務でグリズリーベア討伐っていうのがあるけど、これなんかいいんじゃない?」
詩織は掲示板の張り紙の一つを指差した。
初心者おすすめか、安全そうだしこれで良いか。
「よし、じゃあそれにするか」
俺はその張り紙を手に取り受付のお姉さんの所に向かった。
「すいませんこの任務受けたいんですけど」
「グリズリーベア討伐任務ですね分かりました。ここから少し遠いですね千ギラお支払い頂ければ馬車をお貸しできますがどうしますか?」
千ギラでいいのか馬を借りるにしては随分と安いな。
「安いですね、是非お願いし」
「無駄使いは良くないぞ。屑。」
和が俺の発言を遮るように言った。
「全くその通りよ。屑」
詩織は和を後押しするように言った。
「確かにそうだが成功報酬は三万ギラだぞ。今いる宿は二部屋で一万ギラ馬車代は千ギラだから今日この任務を済ませれば一万九千ギラ増えるんだぞ。それに昨日詩織が稼いだ分もあるし任務達成すれば三十六万九千ギラ残るしいいだろ」
「ダメだ。勿体ない」
「そうよ、勿体ないものは勿体ないのよ」
何故こいつらはここまで節約に拘るんだ?おかしい別に普段のこいつらなら絶対止めないはずなのに……、何かあるな。
「お前らなんかおかしいぞ、何か俺に隠してないか?」
俺の一言で和と詩織の顔に汗が流れ始めた。
なんて分かりやすい奴らなんだ。でも一体何したんだ……、まさか……。
「お金を勝手に使ったんじゃないだろうな?」
俺は財布を手に取り中身を確認した。
「何もないじゃねえか!お前ら何勝手に全部使ってんだよ!」
と、二人の額をチョップした。
三十五万ギラもどうやって使えんだよ、このバカどもがマジで何考えてるんだ?
和と詩織は額を両手で押さえる。
「実は昨晩のことなんだけど……」
詩織が訳を説明し始めた。
時間は昨日の夜に戻る。
詩織は財布を持って宿を出て酒場へ向かった。酒場に着くや否や詩織はカウンターに座った。
「日本酒下さい。瓶で」
「あいよ。1本1万ギラね」
「10本下さい」
「あいよ。」
マスターは日本酒の栓を抜き詩織の手前に置いた。それを詩織が勢いよく飲み始めた。
「おぉ、飲むねー」
酒場の扉が開き和が入って来た。
「ブー……、ゴホッゴホッ和⁉」
詩織は口に含んでいた酒を噴き出した。
「あれー?詩織ぃ何を飲んでいるのかなぁー?」
と、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「え……あ……日本酒……です。あ……あの和さんも飲みますか?」
詩織は冷や汗が滝のように流れ机が濡れた。
「勝手にお金を使ったことが屑にバレたら今度こそ見捨てられるかもなぁー?」
「そんな‼ひどい」
と、返品されないように急いでお酒を飲む。
和はこいつこの期に及んでも酒かよ!と思い呆れた。
「安心しろ。俺があそこのカジノで稼いでやるよだから十万ギラ渡寄越せ」
「和ぅありがとぉ」
詩織はすぐ和にお金を渡した。すでに日本酒を五瓶飲んでいた詩織は考えることを放棄していた。
「ありがとう、絶対に助けてやるからな」
和は嬉しそうに急いでカジノに向かった。
和はポーカーで十万ギラ全てオールインし見事和は無一文となった。一文無しになった和はカジノを出てトボトボと詩織のもとに向かった。
「そうだ、減ってるのがばれるといけないのなら全部使おう!」
和はカジノで一文無しとなりやけくそになっていた。
「いいられ!マスター日本酒十六本追加れ!」
詩織の酒にやられた頭はお酒が飲めるならどうでもいいと考えることをしなかった。
「まいど!」
時は現在に戻る。
「というわけです。チャンチャン」
詩織は申し訳なさそうに言った。
「何がチャンチャンだ!金がないなら今日の宿どうするんだよ⁉」
俺は怒りに任せて詩織の胸ぐらを掴み揺らした。
はぁ⁉こいつら一晩であれだけ使ったのかよ、信じられない。どんな頭してんだ。
「すいません」
「すいません」
「すいませんじゃあねえよ!このバカーお前ら本当にバカだ。よし決めた、詩織お前にはまた握手会をしてもらう」
「えぇー嫌よ、昨日握手する前に手に鼻くそや唾つけるような人がいたんだからーお願い他のことなら何でもするからー許してよー。」
詩織は俺に泣きつき懇願する。
泣きついたって許す訳がないだろ、このバカだよぉ‼
「ダメだ。他にお前に金を稼ぐ術なんてないだろ。和お前は今日一日奴隷だ、分かったな」
「はい」
和と詩織は下を向いて答えた。
こいつらはしょんぼりしやがってこっちが悪いことをしているみたいじゃないか、ならいっそのこと悪いことをしてやろう。
「あのすいません。やっぱり馬車はキャンセルで……。」
「あははは……大変ですね。」
ギルド受付嬢は苦笑いで答えた。
辛い!この苦笑いが辛い!絶対今俺達異常者だと思われている、このバカ二人はしょうがないが俺まで勘違いされるのは嫌だ!
俺達はギルドを後にした。グリズリーベア討伐のために森に向かって俺と詩織は並んで歩いているが和はその少し後ろを大荷物を持ち歩いている。
「はぁ……はぁ……屑少し待ってくれ……荷物が重くて」
「屑?屑さんだろ?」
「はぁ……屑さんなんで……こんなに荷物重たいんですか?」
うーん、奴隷に好き勝手文句言うのは気持ちいいな。
「お前の部屋の荷物を全て持って来ているからだ」
「屑さん、なぜそのようなことを?」
「俺の杖だけじゃあ重たくないからな。それに俺の荷物や詩織の空の酒瓶だとしたら捨てるっていう選択肢をお前が取るかもしれないからお前の荷物にしたわけだ」
俺は振り返って答えた。
ふふふ、どうせ荷物を運ばせるならより重い荷物を運ばせる方が楽しいのだ。
「えぇー……。」
和の声から力が感じられない。
いいぞ、ざまあみろ、このバカが!勝手に金をすべて使った罰だ。次は何を命令してやろうか……、楽しくて、楽しくて仕方ないな。
「もう二度と勝手にお金を使うのはやめるわ」
「俺もだ」
「どっち道そんなこともう出来ないぞ。俺がお金を管理するからな」
「もっと早くそうして欲しかったわ、屑が管理するのが遅いからこうなったのよ。はぁー最悪だわ。」
何で俺のせいなんだよ……、握手会の時間を長くしてやろう。
「着いたな」
俺達は街外れの森の入り口に辿り着いた。目の前には深い緑の山が広がっている。
「やっとか」
和は荷物を置いた。
「ご苦労奴隷では森の中に進むぞ。奴隷お前は荷物を持って来い」
「え~、今置いたばかりなのにですか?」
「そうっ!今置いたからだっ!」
「あっ……。」
和は絶望のあまり口から言葉が漏れた。
フッフッフ、やっと和も理解したようだな。俺は和を奴隷のように扱き使いたいわけではない、ただただ嫌がらせをしたいだけなのだ。
「やりすぎじゃない?私は本当に握手会だけで済むの?もしかしてエッチなことまでする気じゃないでしょうね?冗談じゃないわよ」
と、詩織は自分自身のことを抱きしめる。
「顔だけ女勝手に決めつけんな、そんなロリガキみたいな体に興奮するかよ。」
「うるせえ!殺すぞ!」
「ゴハッ!」
詩織は一撃で俺を殴り倒した。
「おかしい濡れ衣を証明しようとしただけなのに」
なんて理不尽な奴なんだ、このクソ女が俺は殺されたことも許してやったっていうのに……、握手会だけじゃダメだ。もっともっと復讐してやる。
「人の体を馬鹿にした罰よ」
「あのー屑さん、荷物重たいので早くいきませんか?」
ふむふむ、和の方は辛そうだな。よし少し元気出てきた。
「それじゃ森に入っていくか」
俺達三人は深い緑の森の中に進む。
「でもグリズリーベアってどれぐらい大きいいの?」
「屑さんヒグマサイズなら俺達殺されてしまいますよ」
「初心者おすすめだし子熊ぐらいじゃないか?」
全く、初心者おすすめでヒグマサイズが出てくるわけないだろ、スキルを習得したとはいえ勝てる気がしないぞ。
俺達は更に一時間程森の中へと歩いた。そして出会ってしまった体長が三メートルはあろうかという巨大な熊に。
「あれがグリズリーベア……、あんなの勝てる訳無くね?」
俺は体長三メートルほどの熊、グリズリーベアを指差した。
「勝てるでしょだってあんた達今魔法使いでしょ?」
詩織は杖を指差した。
は?いやいや魔法なんか簡単に防がれそうだろ。転生二日目で死ぬとか馬鹿らしくて嫌だ。そうだ……。
「よしっ、和攻撃してみろよ」
「えっ……、分かった。フレア!」
和の杖の先から火の玉が飛び出した、グリズリーベアは火の玉が当たり少し悲鳴を上げた、その後怒ったように吠えた。
「あまり効いてなさそうだな」
やば……、攻撃一発じゃ意味なさそうだな。たくさん当てないと倒せないのか、え?無理じゃね?
グリズリーベアは俺達に気が付きこちらに向かって走ってきた。
「あっやばい、あとよろしく!テレポート」
俺の姿はその場から消えた。
「はぁぁぁぁ⁉あいつ何一人で逃げてんのよ!」
と、怒りに震えている。
「すまん詩織あとは任せた、信じてるぞ!クリアー!」
和の姿は見えなくなった。
「和、ちょっと待ちなさいよ!か弱い乙女一人置いて行く気?私も透明にしなさいよ!」
「無理あいつ鼻良さそうだし匂いで追われると困る、だから囮になってくれ。」
「だからって私を囮にしないでよ!」
グリズリーベアは唸りながら詩織に向かって一目散に走る。
「あーもう!プラススピード!」
詩織はバフを自分に掛けて走って逃げた。
場面は再び森の入り口にまで戻る。詩織が走ってこちらに向かって来た。
「やっと来たか」
「はぁ……はぁ……あんたら何私一人置いて行ってんのよ」
詩織は息切れしている。
フハハハ!バカがざまあみろ、まだまだ置き去りにしてやる。
「そんなことより作戦を思いついたから戻るぞ」
「えぇー、私今戻ったばかりでへとへとなのに……。」
と、詩織はその場に座り込んだ。
「俺だって今戻ったばかりだから文句言うなって」
「あんたはグリズリーベアに追いかけられてないからゆっくり歩いて戻れたでしょ」
「ハイハイそこまでにしろ。疲れてるのはみんな同じなんだから行くぞ」
俺は手を叩いて、歩き出した。
さてさてあと一回置いて行けばちょうどいいか?一応見とくか。
「あんたは最初にテレポートで逃げたから疲れてないでしょ」
「ついてこないなら置いて行くぞ」
和は俺を追いかけ、森の中へと再び歩き始めた。
さてさてあと一回置いて行けばちょうどいいか?一応様子見とくか。
「……あーもう!分かったわよ」
詩織は俺達を追い付こうと走った。俺と和は追い付かれないように走り出した。
「はぁ⁉ちょっと待ちなさいよ」
詩織はより必死に走った。一時間ほど走って俺達は再びグリズリーベアを見つけた。
「はぁ……はぁ……そういえば作戦って何?」
追い付いた詩織は杖に寄りかかっている。
「すぐ分かる、フレア!」
屑はグリズリーベアに向けて杖から火の玉を放った。火の玉は見事的中しグリズリーベアは怒り走って来る。
「このあとはどうすんの?」
「俺は逃げるテレポート」
その場から俺の姿は消えた。
「ちょっと待って私もう本当に走れないんだけどあのバフ三分しか持続しないし使った後はものすごく疲れんのよ」
「そうかドンマイ。なら防御魔法でも使えば?俺は逃げるから、クリアー」
和の姿が見えなくなった。グリズリーベアは残った詩織に向かって走る。
アハハハ!この前は仕方なく俺を殺したことを許したが勝手に全員の軍資金を使うからだ、このバカがよぉ‼アハハハ!
「バリアー、あいつらマジで何なのよ。仲間なのに魔物を前に置いて行くなんて、私一人じゃ死ぬに決まってるのに……。あの世で必ず絶対ぶっ殺す!」
詩織は疲れ果てて座り込み防御スキルで身を守っているがグリズリーベアは構わず攻撃をしようとする。
「今だ‼フレア!フレア!フレア!フレア!」
「フレア!フレア!フレア!フレア!」
俺の掛け声に合わせて俺と和はグリズリーベアを挟んで姿を現し火の玉を集中砲火下した。集中砲火を受けたグリズリーベアは必死に暴れて抵抗するが抵抗空しく倒れた。
「大丈夫か?」
俺は座り込んでいる詩織に手を伸ばした。
随分と哀れな姿だな、復讐出来てスッキリしたわ~。
「大丈夫か?じゃないわよ、ぶっ殺すわよ」
詩織は俺の手を取り立ち上がった。
「そう言うなよ。挟み撃ちで強襲するあの友情の囮大作戦か攻撃しては逃げるピンポンダッシュ作戦しかあの化け物に勝つ方法はなかっただろ?」
「最初はピンポンダッシュ作戦のつもりだったが詩織お前が走れないってなったから屑が急遽変更してくれたんだぞ?」
その通りだ、この顔だけ女は思いやりの心を持つべきだ。というか詩織なら普通にグリズリーベアを倒せたんじゃないのか?
「でもどんな作戦があるか聞いたときに説明しないさいよ!」
「あぁー、それはだなー面倒くさかったんだよ」
と、俺は右手の人差し指で右耳裏ポリポリと掻いた。
本当はただただ怯えている姿を見て楽しみたかっただけなんだけど、これ言うと怒るだろうな。
「はああ⁉マジで覚えてなさいよあんたら体力が回復したら絶対にボコボコにしてやるわ!」
詩織の俺達を見る目に殺気が乗る。
やばい!どうする?どうすれば俺だけは詩織に怒られないようにできるんだ?そうだっ!
「そう怒るなって握手会やらなくていいからさ」
「言ったわね⁉それなら許す」
詩織の目から殺気が消えご機嫌で答えた。
「握手会は本当に嫌なんだな……、じゃあ帰るか。」
俺達はギルドに向かって歩き始めた。
あー、本当に疲れた。何時間も歩いてそれもこいつらが勝手に金を使ったせいで……。転生二日目からこんなことになって本当に魔王に討伐できるのだろうか?先が思いやられるな。
二時間程歩きギルドに到着した。
「お疲れさまです。こちら報酬の3万ギラです」
受付嬢は俺に報酬を手渡してくれた。
あの化け物みたいな熊を討伐しても三万ギラしか貰えないのか……、やはりあいつらの使った額は異常だな。
「ありがとうございます。あのすいませんパーティーメンバー募集したいんですけどどうしたらいいですか?」
「あそこの壁に条件を書いた紙を張っていれば入りたい方が来ます。」
受付嬢は任務掲示板の横の壁を指差した。
「ありがとうございます」
「メンバー募集?どうしてだ?」
和は本当に不思議そうに聞いてきた。
「今日任務に行ってみて感じたけどこのパーティーのアタッカーは魔法使いしかいないだろ、だから距離を詰められたら逃げることしか出来なくなるからな」
それも詩織が戦えばいいだけの話なのだが……、あの無能の説得は大変そうだから諦めている。
「確かにそうだな。まあ新メンバー加入までは詩織を囮にするか」
「そうだな」
「ムリムリ、あんな思いもう無理だから!」
詩織は全力で首と手を振っている。
そうこいつは一切戦おうとしないのだ。
「じゃあ新メンバー連れてくるか、任務に行かなくていいようにお金稼いで来い」
こいつは本当に顔が良いのだからその顔を活かして金を稼いできて欲しいものだ。
「囮なら屑でも和でもいいじゃない。」
「ダメだ。そうしたら今回みたいに挟み撃ちができないしアタッカーの数が半減して倒せず反撃される可能性が格段に上がる」
和が分かりやすく説明した。
「というわけだ。早く人が来るように祈るんだな」
「えぇぇ……。」
詩織は項垂れた。
「お前の唯一の長所の顔を使って勧誘して来いよ」
「その通りよ!私のこの顔があれば一人ぐらい入って来るでしょ」
詩織は手当たり次第ギルド内にいる冒険者に勧誘するが断られる。
「顔がいいのに断られてるな。」
「当たり前だ。あいつは顔が良すぎるから美人局だと思われてるんだろ」
そう、顔があまりに良すぎる人に一緒に何かしない?と聞かれれば多くの人が美人局と感じてしまうのは当然だ。
そこからも詩織は断られても、断られても色々な人に声をかけ続けた。
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