第8話 カフェで休憩
カフェに入って休憩中。
「冨貴さん、なかなか決まらなくてすみません。」
「どうして桃子さんが謝るんですか!私が振り回しているのに。」
「いえ、全然良いアドバイスができてない私が悪いので。ほんとすみません。」
もっと早くいい感じに決まるかと心のどこかでは思っていた。
でも、なかなか思い通りの衣装に巡り会えない。いや、妥協すればそれなりに形にはなる。でも、職業柄か妥協したくない私がいるのだ。
「クラゲってイメージは決まってますけど、なかなかドンピシャって見つからないものですね。」
あはは、と困ったように笑う冨貴さん。
「そうですね。服の素材は良くても求めている色じゃなかったりとか…。っていうかそもそも私がこだわりすぎなのも決まらない要因の一つではあるのですが。」
「いいえ、妥協せずに真剣に考えてくれてるってことが、とっても嬉しいですよ。」
にこっと笑う冨貴さん。
なんだか照れくさくて思わず俯いてしまう。冨貴さんの顔が見れない。
「あれ、桃子さんどうしたんですか?」
「気にしないでください。」
「そうですか?」
冨貴さんはそう答えると、ポツポツと単語を言い始めた。
「ふわふわ、キラキラ、ひらひら。青色、水色、泡の色、透明。」
「冨貴さん、どうしたんですか?」
「改めてクラゲのイメージを考えていたんですよ。」
「オーガンジー、サテン、ジョーゼット…。」
「桃子さん、それは呪文ですか?」
「いえ、冨貴さんのイメージに合わせるならどんな生地が良いかなって。」
「ああ、生地の種類ですか。」
冨貴さんはなるほど、と手をポンと小さく音を鳴らした。
「あ!そういえば桃子さん。この近くに個人店の小さな手芸屋さん知っていますか?」
この近く?そんなところあっただろうか。
生地屋や手芸店は大体把握しているが、この近くにあっただろうか。
「ちょっと路地裏に入るんですけど、おじいさんが一人で経営されてるとても小さな店で、営業も気まぐれなんです。だから今日やってるかもわからないんですけどね。」
ふふッと笑う冨貴さん。
「多分桃子さんも気にいると思いますよ。」
路地裏の個人店、その言葉になんとなく惹かれてしまう。
「ぜひ行ってみたいです。」
「良かった。じゃあ、この後行ってみましょう。定休日だったらすみません。」
「いえいえ。そういえば、冨貴さんはその知る人ぞ知る、みたいなお店をどこで知ったんですか?」
「ああ、たまたま大道芸を披露していた時に、みにきてくれたお客さんがそのおじいさん、つまり店主だったんですよ。披露したついでに少しお話して、手芸屋さんをしているって教えてもらったんですよ。」
なるほど。お客さんだったんだ。
「最近お店に行ってなかったので、私も久しぶりです。おじいさん私のこと覚えているかなー。」
「流石に忘れることはないんじゃないですかね。」
「そうですかね?」
「はい。大道芸って結構印象的なので。」
「そっか。それなら嬉しいですね。じゃあ、行きましょうか。」
「はい。」
私と冨貴さんはカフェを出て、その店に向かうことにした。
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