第2話 中島おじさんの世間常識講義
女性のヌードや性交渉が、男性にとってはクライマックスであり、それを過ぎると下山を降りる如く、冷めていくのがオチである。
売れなくなったアイドルが、最後の手段としてヌードになるのも頷ける。
しかしいくらヌードになって、女優に転身したとしても、演技力のない元アイドルは干された挙句の果て、消えていく。
そういえば、私も昔、若い男性同士のこんな会話を聞いたことがあったなあ。
「セックスすると飽きてくる」ー一見イケメン風の男性の会話。
それに同調するかのように
「飽きてくるな。だから、僕は結局中絶させちゃった。
でも、中絶って女ばかりじゃなくて、男の方も傷つくんだよ」ー万年ボケ担当の漫才師のようなイケメンとは程遠い男性の絶望的なため息
私は若い男性じゃないけど、わかる気がする。
セックスに飽き、愛情がなくなった時点で、新しい命を闇に葬ってしまう。
つらい現実である。
私は他人事とはいえ、それを聞いた時点で、ため息がもれた。
セックスって残酷だなと痛感させられた。
中島おじさんは言った。
「男女共に、自分の身体を守るのは自分しかいない。
女性の場合、彼氏からのセックスを断ったら嫌われ、捨てられ、別の女に乗り換えられるんじゃないかなんて理由で、ついつい言いなりになってしまうケースが多いけど、そんなことをしても無意味なだけ。
セックスというのは、お互いを知る手段でしかないんだ。
いくら、女性があなたに心身を赦したなんていっても、それは男性にとっては無意味なことであり、重荷でしかないんだよなあ」
まあ、中島おじさんの意見もわかる気がする。
そうだなあ。男性の言いなりになったら、飽きられるだけかもしれないなあ。
人はどんな美味しい食べ物でもドラマでも、飽きたら遠ざかっていき、二度と見向きもされなくなる。
人の愛ほど移ろいやすいものはない。
中島おじさんは、このことをテーマに小説を書いていた。
現在は、本は売れないというが、もしこの小説が公けになったら、中島おじさんはマスメディアから注目を浴びていたかもしれない。
話を現実に戻そう。
私が刑務所の四人部屋に入れられたときの最初の悲惨な出来事は、就寝時、毛布でグルグル巻きにされて、あとの三人からアザができない程度の殴る、蹴るの暴行を受けることだった。
しかしこのことは、バレると連帯責任で全員が懲罰の対象になるから、きつく口留めされていた。
残ったのは、今までのしてきたことの自分の罪の重さを思い知らされる痛みだけでしかなかった。
いや、今から思えば私が、同じ部屋の女性受刑者に害を与えないための、防御策だったかもしれない。
それほど、刑務所の規則は厳しく、それに負けて人に迷惑をかけるという行為に至らないための、訓練だったのかもしれないーというのは、こじつけのような善意の見方でしかないが。
刑務所の規則は、細部にわたり厳格である。
たとえば食事のとき、おかずを人のご飯の前に置いたとする。
すると、おかずを置いた方も、また自分の前に置かれた方も、授受禁止という超罰の対象となる。
バナナも三分の一に斜めに切って、食卓に出される。
いわゆる自慰行為に使われるのを、防御するためであり、陰部摩擦罪防御のためでもある。
女性受刑者というのは、全員が男がらみ、半数は離婚歴も含めた既婚者だという。
自慰行為によって、再犯することがないための配慮である。
また、刑務官の目を盗んで、レズまがいで胸を触ってくる女性受刑者もいた。
しかし、私はレズではないので、相手もあきらめた様子だったが、このことも立派な懲罰対象の一つである。
女性受刑者は、男性受刑者の約七分の一である。
だから、刑務所の数も少ないが、罪状は覚醒剤、窃盗、詐欺、道路交通法違反、殺人である。
さすがに、殺人は一割未満である。
やはり、男性の方が女性よりも体力があるからであり、いくら女性が刃物を振り回しても、男性が刃物を取り上げてしまうからであろう。
窃盗、詐欺、道路交通法違反は、覚醒剤が原因になっているケースが多い。
その覚醒剤も、売人は男性である。
外国では、勇気ある母親が自分の子供を守るため、覚醒剤の売人から覚醒剤を取り上げようとして、命を狙われたというケースもある。
それだけ、覚醒剤は人を廃人にしてしまう。
「ダメ、絶対」とは言われているが、地方出身の孤独な人が、身近な人に勧められてつい手を出してしまうというパターンが多い。
覚醒剤の特徴は、集中力が身につくことである。
人の集中力は、一日に二、三時間しかない。
たとえ一日十時間以上勉強している人でも、そうでない人でも、集中力は一日に二、三時間続かないのが、体力の限界である。
しかし、覚醒剤を打つと集中力がなんと、七十二時間継続するという。
そして、不安感や恐怖感からも逃れられるという。
気づいたときには、辞められなくなっているというのが現実である。
勿論、覚醒剤の売人も、反社組織に尽くし、自らも金が儲かってシメシメと思っていると、自分も知らず知らずに覚醒剤中毒になってしまう。
役にたたなくなった時点で、組から破門されてしまう。
女性が殺人を犯す場合は、DVの加害者である男性である。
しかしなかには、我が子を守るため、元夫が寝ている間に、首を絞めて殺したというケースもある。
腕力ではかなわないから、首を絞めるという行動にでたのであろう。
もし相手が男性だったら、一発殴るか、また殴り合いの喧嘩になるが、殺人までは発展しないだろう。
もし殺人に至っても、殺意はなかったということで、傷害罪に終わるかもしれない。
ここに女性のか弱さ故の大罪が、感じられる。
現在では、DVも警察が取り上げてくれるし、相談機関もあるのが救いである。
私、理沙の場合の罪状は、ネット詐欺が暴露したという現実だった。
詐欺という意識はなかった。
ただ、単に目立ちたいという気持ちもあったが、それがこんな逮捕されるほどの大ごとになろうとは、夢にも想像していなかった。
女性受刑者は、全員が男絡み、半数は既婚者であるが、私も例外ではなかった。
あの男にさえ出会えなければ、あの男と出会ったことが、私の人生の下降線をたどる曲がり角だったと思っている女性は多いだろう。
なかには、既婚者や反社を好きになったのではなく、好きになったのがたまたま既婚者や反社だったという声もある。
しかし女性が男性を好きになるパターンは決まっている。
ただ話を聞いてくれ、気のきいた相槌を打ち、いつも自分に寄り添ってくれ、ラインでも決してスルーせず、美辞麗句を奏でる男性に魅かれるのである。
ひとつ話題を振ったら、三言の慰めと励ましの美辞麗句を返す男性に魅かれるのは、女性の性かもしれない。
幸い、覚醒剤にだけは、手を出さなかったので、刑務所のなかでは小説のアイデアが浮かぶのが不幸中の幸いだった。
刑務所の仕事は私の場合は、だるまやお守りの製作だったが、給料はなんと月五百円未満でしかない。
でも、仕上がりが丁寧だから、私の製品は結構人気があったことが、ちょっぴり誇らしい。
女性受刑者は、全員が男がらみ、半数は既婚者であるが、もちろん私の例外ではなかった。
高校を一年の一学期で中退した後、一年契約の工場で単純作業をしていたが、ちょうど一年の契約期間で辞めることになってしまった。
私の両親は、なんとか手に職をつけさせたいという思いから、私は隣の府にある都会の調理師学校に入学することになった。
中学のときは、ヤンキーとして見られ、友達もいない孤独な私であったが、今度こそは普通の真面目な十七歳として見られたいという願望があった。
調理師学校では、意外な出会いがあった。
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