爺ちゃん、婆ちゃん
|_ポムの街東門_|
「着いたな」
「ですの〜?」
ギムの一言にマーガレットが腑抜けた声で返す。
「次ッ!」
衛兵がギム達が乗っている馬車に指示を出す。
「ん?身分証が無いと仰られたか?」
衛兵が怪訝な目を浮かべる。
「そ、それは…わたくしは農村の出身でしてよ…」
絶対にそんな喋り方の農民は居ない為、衛兵は更に目元を険しくする。
「いやぁ、すまねぇな、彼女は俺の妻で、仕事の関係で農村の老夫婦から嫁に貰ってきたんだ」
ギムは震えるマーガレットの肩に手を回し、自分の胸に頭をつけさせながら話した。
「っ…!」
マーガレットはバクバクと心臓を鳴らしながら口から熱い吐息を漏らし、ギムの胸に顔を埋める。
そしてギムはマジックバックから黒と赤で彩られた光り輝く傭兵ライセンスを取り出し、衛兵に差し出した。
「これは、失礼を」
受け取った傭兵ライセンスを一瞥した後、直ぐにギムに返却し、衛兵が軽く頭を下げる。
「いや、大丈夫だ。頭を上げてくれ。すぐに理解を示してもらい此方こそ感謝する」
ギムは軽く頭を下げ、感謝を口にする。
「それと少ないかもしれんがこれを受け取ってくれ」
するとギムはマジックバックから財布を取り出し、中から銀貨数枚を取り、衛兵の手に握らせる。
「これは…!ありがとうございます。
すぐにお通りくださいッ!」
衛兵がこれで息子に魔術本を買ってやれる、と大喜びしながらギムとマーガレットを通す。
過去に、ギムは賊から助けたが、家族が殺されて孤独になってしまった女性の知り合いが居る街に通す時に使った手を使った。
その時は友達と呼んで紹介したのだが、マーガレットの場合は特別な関係の為、嫁と言ったのである。
この国、いや世界の国々は戦争で忙しい為、正規の軍は征伐で出せない。
なので流れの実力者である傭兵に賊やモンスターを討伐させたり、戦争の欠員を傭兵で補うため、傭兵ギルドには頭が上がらないのである。
基本的には中立の立場ではあるが、傭兵を金で雇うというのは推奨している。
「あの…なんであの衛兵さんは急に態度が変わったんですの?」
まだドキドキと心臓が跳ねているマーガレットは不思議そうに首を傾げながらギムに問いかける。
「あぁ、そういえばマーガレットには言ってなかったな」
とギムがいそいそとまたもやマジックバックから傭兵ライセンスを取り出す。
「俺は、実はダイヤモンドランク一歩手前のルビーランクの傭兵なんだ」
ギムは嬉しそうに傭兵ライセンスを持ちニヤける。
「ええぇえええっっ!ですわーッッ!?」
マーガレットはめちゃくちゃ驚きながらギムを見上げる。
「よし、まあ傭兵ライセンスの話は置いといてよ、宿を探そうか。マーガレット」
ギムは嬉しそうにニカっと笑いながらマーガレットを強く抱き寄せる。
「ですわ…ッ!そうッ!宿といえばベッド、ベッドといえば夜の格闘ですわよね!さぁて、張り切って探しますわッ!」
マーガレットはテンションの高い声で拳を天に掲げて走り出した。
「はぁ…張り切ってる姿も可愛いな。マーガレット」
ギムは嬉しそうに屋台の店主におすすめの宿屋を聞いているマーガレットを見つめていた。
(爺ちゃん、婆ちゃん、天国から見てっかー!1年前はあんなに絶望してた俺は今じゃこんな素敵な女性と出会えたんだ。いつかは爺ちゃんや婆ちゃんみたいに年食っても仲睦まじい夫婦になりてぇよ。まあ、爺ちゃんが尻に敷かれてたような気がするが…とにかく、天国から暖かく見守っていてください。安らかに)
ギムは手を合わせる。
もし、日本人がこの場に居たのであればすぐに言うだろう。あれっ?あの人"合掌"してね?と
_______
こんばんは。黑兔です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今回はなんと無くしんみりする回でした。多分、次話くらいからマーガレットが魔界の瘴気より濃い
作者から一言
傭兵ギルドは此の世界では冒険者ギルドより支部が多い。
傭兵ギルドの人間は過去に辛い思いをした人間が多く、冒険者ギルドと比べて比較的温厚な人間が多い。
ギムの師匠(此のキャラも老夫婦に助けてもらった過去があり、ギムの武の師匠を務めた。登場予定はあります。)
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