公爵令嬢


  鬱蒼と覆い茂る不快な森がまるで未来の自分の心の色を表しているのかの様。

 

 ミシェル公爵家第三令嬢ミシェル・マーガレットは外の様子を忌々し気に見つめていた。

 

 まさに今すぐに賊に襲われてほしいと思いながら。

 


 幼い頃、嫁いだ時から公爵に愛されず、腫れ物として扱われていた母、ミシェル・マーテルは良く私に第一夫人が居る本館から遠く離れた場所にある別邸でにこやかに恋愛物のお話を聞かせてくれた。


 母、マーテルは政略結婚をさせられた身であり、尚且つ病弱であったため、出会うたびに咳こんでいた。

 だが、唯一の愛娘であるマーガレットには自由恋愛の良さを咳き込みながら身振り手振りで解説していた。


 それは粗雑な冒険者による底辺からの成り上がりであったり、勇者パーティーを追放された前衛タンクの話であったり、色々な話を聞かせてもらった。

 

 そのどれもに共通するのは、見た目の割に心が優しい筋骨隆々な大男の話であった。


 話を戻そう、幼い頃より恋愛物だけど、恋愛物…じゃなく、ちょっとマイナーな恋愛物ハーレム物を愛した彼女は領内の筋肉が逞しい男性を毎日視姦していた。

 

 馬車の中から、或いは労いの場で、ちょっとずつではあったが冒険者や傭兵という職種の人間を視姦する範囲と時間を増やしていった。

 

 そしてこれは彼女に視姦をされた男の話である。

 

 

♦︎

 俺はなんの変哲もない低ランク冒険者だ。


 ココ最近、悩みというか、ちょっと不思議な、視線を感じるんだ…普通に街のメインストリートを歩いていたら、ひゅっと視線を感じた。


 初日はなんだろう?と思ったが気にせず過ごしていた…だが、ここ最近はずっと見られている。


 まるでライオンが子猫に睨みを効かせるくらいの恐ろしい圧だ。


 俺が何をしたんだ…暗殺者を送り込まれたのかな?というこの身に無相応だが今現在の中では結構深刻な悩みである。

                   ♢

 

 そう。マーガレットは無意識のうちにスキル『遠視』を獲得していたのである。領内の様子が手に取るように分かり、楽しくなって毎日部屋から外の様子を観察していた。主に男の上半身を、だが。


 

 彼女、マーガレットは色物伯爵として王国では有名な女、しかも生娘好きのモノー伯爵のところに向かっていた。


 

 頭の中では走馬灯の様に今までの男性の筋肉や筋肉、筋肉を思い出していた。


 

 (あぁ…わたくしはまだこんなにも男性の立派な筋肉を見たいのですね…母様が亡くなってから、嫌な事ばかりですわ…)



 マーガレットの母は、1年前に床に臥し、その半年後には亡くなった。その間、父である公爵は一度たりとも別邸に足を運ぶ事はなかった。



 (父は最低最悪ですわ、筋肉もないし、ヒョロイ格好してる癖にイきがりだし、あんなの真の漢じゃないですわっ!)



 馬車が激しく揺られる中、マーガレットは心の中で悪態をついていた。荷物は僅かな金品と服、そして母の絵であった。



 (見ていてください、母様、わたくしマーガレットは伯爵に汚されようとも心までは屈せず、必ず美しい恋愛を、逞しい筋肉さんを捕まえてみせますわっ!)



  と、意気込んだ矢先に怒声が聞こえてきた。



 「おいっ!なんだあいつら、賊か?な…に…A級賞金首の『処女殺し』だ!嫌だあやめてくれえぇ。ぐば」


  (え…?)


 直後、護衛の1人であり、御者も兼任していた騎士が斬り殺された。


 「おいおいこりゃ公爵家の紋章じゃねぇか」



 「おい、お前ら女が乗ってるかもしれねぇ、探せや」



 「いやあああ」



 賊の頭領が声を発した途端に公爵令嬢、マーガレットは馬車から飛び出した。



 「おっとぉ、逃げれると思うのか?」



 飛び出したは良いが、ジリジリと四方を囲まれ、森の方へと寄らされていく。



 (いやいやいやいやいやいやいやいや)



(わたくし、ケツアゴのヒョロガリとか嫌なんですのおお)


筋骨隆々の男性に襲われるのは嬉ションしてしまうかもしれないが、流石のマーガレットであっても、ケツアゴのヒョロガリは無理である。



 (な、なんとか隙を窺って逃げなきゃですわ…)


 だが、世は常に無常。



「なんか逃げ出そうとか考えてねぇよなぁ?そうなったらこうだぞぉ」



 と賊Aは持っていたブロードソードを馬車の車輪へと叩きつける。



 バリッ





 車輪がヒビ割れ、そして取れて転がっていく。





「ふんっ、そうやって大人しく女は黙って股開いときゃあ良いんだよ」


 

 マーガレットは黙って股を開いていた。



「グスッ、汚らしい賊ごときが、ふぅ…ふぅ…グスッ…この私に触れたらただじゃおきませんことよぉ…」








  .

.

.






そして




…ガサッ





「お、やっと見つけたぜ…ゴミがよ。なんでこんな街の近くに居やがんだよ、、俺ァわざわざお前らの住処まで行ったんだぞ?ふざけんなよ?あァ?ったく、手間かけさせやがって…死んどけやッ!」


「あァ?なに言ってんだァ?てめ」


 

 ……


 (なんですの…?)



 マーガレットは絶望の瞬間を見たく無く、閉じていた目を見開く。

 目の前には先程まで自分を襲おうとしていた賊の肉片と頭部の無い死体が散らばっていた。






 「いやああああああああああッですわッ!……」







 そして目の前に立っている人物に目を向けたその瞬間、マーガレットは目の前の男の裸体、上半身を見てアヘ顔で気絶する。

 



 だってめちゃくちゃ理想的な筋肉だったから。










「んだよ…ってすげえ匂いだな。強い香辛料の様な香ばしい様な鼻を刺す匂いだな。なんだぁ?…へ…?」












 ギムの視線の先、絶頂顔で気絶していた金髪縦ロールの女、マーガレットの足元には追加の嬉ション痕が広がっていた。










_________


どうも。黑兔です。


最後まで読んで下さり、感謝です。



今回はマーガレットさん視点のお話です。


ギムとの邂逅はマーガレットがイロ・モノー伯爵に嫁がされる最中に起きた話でした。


ギムはA級賞金首の『処女殺し』、主に10代から20代の女の初物を奪うのが好きなゴミケツアゴを追っていました。そして見つけたので殺しました。


R.I.P.ケツアゴ


























 



 

 

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