君のために

学生初心者@NIT所属

君のために

 水。それは生きるために必要なもの。地球上のあらゆる生命が必要としている。

 そんな水は私にとって嫌いなものであり、肌に触れることは許されないものであった。



             ♢     ♢



 彼と会ったのはいつのことだっただろう。もう記憶にしっかり残っていない。でも、こんなにも私のために頑張ってくれているのは彼だけだった。

 そもそも、私は日本で唯一の水アレルギーの発症者。無理をして学校に通わせてもらっていました。しかし、人間の習性からなのでしょう、避けられ、いじめられるような学校生活を過ごし、引きこもるようになりました。

 そんなときにはもうすでに彼はいました。ずっと私のために動いてくれていたことをよく覚えています。

 今でも私は引きこもり生活を送っています。そんな中でも、彼は私の部屋を毎日訪れてくれます。そのとき、彼はいろいろな話をしてくれます。その話をいつも楽しみにしています。

 それでも、皆とは違うからこそ、家でも最低限勉強をしないとと思っています。だからこそ、引きこもり始めてから、勉強をやめたことはないです。

 そんな生活を送っていました。そして、小学五年生くらいのときに、彼が日に日に疲れていくようになりました。

 そのときに、私は毎回

「ねえ。大丈夫なの?」

 そう聞いていました。

 しかし、彼は

「大丈夫だよ。」

としか言ってくれませんでした。

それでも、日に日に疲れていくように見えますし、明らかに体調は悪くなっているように見えました。

毎回、こんな会話をするような日々。私は日に日に心配になっていきました。

そうして、三か月くらいが経ったある日。彼はいつも通りに私の部屋を訪れていましたが、きっと限界が来たのでしょう。倒れてしまいました。

私は、そのあとすぐに看病を始めました。とにかく急がなきゃという気持ちで動きました。とはいえ、疲れていっている姿を見るからには疲労の蓄積と思い、すぐに寝かせることが大切と考えて行動し、それから、よく寝られるようにどうしたらいいか調べ始めました。

その中で一つ気になったこと。それは、膝枕だ。創作でよく見られるこの行為は、寝ている最中の人に効果があるのかということを気になってしまった。

こんな考えをしていた私は、すでに恋愛感情を持ち始めていたのかもしれない。しかし、女性の感情の成長を考えると、このような関係を続けていたら、芽生えてくるのも普通だったと思えてくる。

そうして、少し、いや、だいぶ考えてから私は膝枕を始めた。悩んだのは、膝枕をしたら幸福感が得られるという情報と、膝枕は居心地が悪く感じるという情報があったからだ。実際、いやそうな表情をし始めたら、すぐに辞めるつもりがあった。

しかし、不安を打ち消すように彼はよい顔をしていた。そして、私はとても安心した。最近は疲れている表情しか見ていなかった彼の久しぶりの顔だったからだ。

そんな時間も気が付けばあっという間に過ぎていき、彼は目覚めた。

「あれ? なんで天井。」

 そんな彼の楽観的で馬鹿げた発言を聞いて、私は泣き始めていた。

「もう。 バカ。」

 そんなこともつぶやいていた。

 彼は彼で、私が泣く姿を見たからこそ思ったのだろう。

「お、おい。泣くんじゃねえよ。」

 水アレルギーだから。泣いたりしたら大変なことになる。これは間違ってはいないだろう。

 でも、私の気持ちを分かっていないのだろう。そして、言った。

「これで、君が無理をしなくなるのなら、別にいい!」

 これは、私なりの覚悟だった。

 言われた彼は、気まずそうな顔をしていた。彼は彼で何か思惑があったのかもしれない。でも、それが自分の身体を傷つける行為なら、私は二度と受け入れることはない。そんなことを考えていたら。

「心配かけてごめんな。少しは自分の身体のことも考えて生活するわ。」

 そんなことを言った、でも、私はこんなのではやってしまいそうと感じ取ってしまった。

「少しじゃなくて、しっかりやって!」

「わかったよ。」

 そんな会話をしてやっと安心することが出来た。


 それからの日々は、彼を怒るようなこともありながら、何年も何年も経ちながらも、ほとんど同じような日々が続いていた。この日常は私の恋愛感情を高めていた。

 でも、私は告白から逃げていた。やっぱり、水アレルギー持ちなのにいいのかなという思いが離れなかった。そんな苦悩もある日々は、高校三年の終わりごろに私は思ってもいなかった形となった。

「少し、真面目な話がある。」

 彼がそんなことを言い始めた。大学が少し遠いから入れる時間が減るということかな? なんて気軽なことを考えていた。実際、近くのある程度の学力の大学となると少し遠い場所にあるからだ。私は、通信制の大学に通う予定なので、移動時間なんてないのだが。

 そうして繰り出した言葉は、想定のしていないことだった。

「遠い大学に通うから、寮暮らしをすることになる。だから、しばらく会えない。」

 信じたくない言葉だった。遠くに行ってしまう。そのことだけが頭の中で駆け巡る。

「でも!」

 その言葉が一度冷静にさせてくれた。そして、何を言うんだろうと思った。

「俺は、香澄と関係を終わらせたくない。いや、進めたい。しばらくは遠距離にはなってしまうけれど、付き合ってもらえますか?」

 私は嬉しかった。何かが違えばこんなことになれなかったと思う。恋愛なんてできなかったと思う。そんな可能性があった私にこんな経験が出来たから。

「もちろんです。」



             ♢     ♢



 あの後、彼は医学部がある大学へ行った。彼がずっと勉強を頑張っていたのはこのためだった。

 今は、医師となり、皮膚科のクリニックをやっている。彼は、大学の在学中に、私も協力して、水アレルギーの症状を緩和する方法を見つけた。この技術は水アレルギーの症状をほぼ無くすことが出来る革命的な方法であった。水アレルギーの症状を持つ人はこの世に少ない。だからこそ、あまり進んでいなかったこの研究を進めた旦那を誇らしく思っている。

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