おひとり様ツアー

 今回の旅行では7泊8日のツアーに参加した。全行程に専属のガイドと運転手が付く。と言っても、参加者は私一人だけという「おひとり様ツアー」だ。私が個人旅行ではなくツアー旅行を組んだのにはブータン特有の観光事情が関係している。

 ブータンを訪れる外国人旅行者は観光ビザを取得する必要があるのだが、その際ブータン政府に旅程表を提出しなくてはならないようなのだ(インド人やモルディブ人はビザ不要)。▲▲月■■日、ティンプー滞在(●●ホテル宿泊)、▲▲月■■日、ブムタン滞在(●●ホテル宿泊)、といった具合に入国日から出国日までのスケジュールを明示する必要がある。そのため、旅行中にブッキングドットコムなどを使ってホテルを予約し、その日の気分のおもむくままに名所を回るというような旅行はできない。

 それでもビザ取得だけなら自分でもどうにかなりそうだと思うのだが、ひとつの町から別の町への移動手段を見付けるのがまた難しい。国際空港のあるパロからブータン中央部のブムタンまでは長距離バスが一日に2往復しているが、その他の地域を訪れようとしたらタクシー以外の移動手段はない。町中の移動はもっと困難で、市内に路線バスが運行している首都ティンプーを例外とすれば、普通はバスどころかタクシーも存在しない。

 極めつけとして、各地でゾンや寺院を訪れても観光客だけでは基本的にチケットすら買えず、施設内を見学できないようなのだ。これでは完全にお手上げである。

 つまり、個人旅行を手配したとしても、どのみち国内移動や市内観光のためにはタクシー(ドライバー)やガイドが必要ということだ。だったら最初からツアー旅行を組む方がよい。観光ビザの手配に煩わされることもない。

 ブータン政府が観光客の旅程を知りたがるのは、観光ビザの発給にかかる観光税をきちんと徴収するためという理由が大きいと思われる。ブータンを訪れる観光客には1日当たり100ドルの観光税支払いが義務付けられているのだ。

 ブータンの歳入を支える2本柱は売電と観光業で、観光税はブータンの重要な収入源だ。コロナウイルス感染症のパンデミックにより2021年は鎖国状態だったが、2022年9月にブータンは外国人観光客の受け入れを正式に再開した。その際、観光客に対する観光税を1日当たり100ドルから200ドルに引き上げた。日本でもNHKが観光税の引き上げを報じたが、引き上げの背景にはかつてのオーバーツーリズムに対する反省がある。しかし現場からの反対もあり、観光税は再び200ドルから100ドルへと引き下げられた。私がブータンを訪れる半年ほど前の話だ。

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