31.Come Back/Coming Soon…【Day31・またね:read i Fine】

「はい、さんはい、どうも──」


 鮮やかな青の空と、調和する自然。下に広がる海の色は穏やかな青と緑が混ざり、砂浜の白さを際立たせていた。それらを背景にし、白を基調とした服を着た青年が九人、横一列に並んでいる。妙な密着加減だ。

下手寄りにいた短髪で華奢な青年、月島滉太つきしまこうたが声を上げると残りの八人も一斉に声を上げる。


read i Fineリーディファインでーす!』


 ヤギリプロモーション所属、九人組男性アイドルグループ『read i Fine』。彼らは現在新曲のMV撮影のためハワイへ赴いているのだが、つい先ほど撮影が完了したそうだ。

奇跡的に晴天となった空の下、一台のカメラに向かって月島は話し始める。


「今回は新曲『Place Of Origin』のMV撮影として、リファインでは初めての! 海外ロケをやらせてもらいました! 拍手~! で、この『Place Of Origin』ってどういう曲なんですか?」

「はい!」


 月島からの問いかけに手を挙げたのは南方侑太郎みなかたゆうたろうだ。月島は首を右に向け、すぐ隣の南方の顔を窺う。南方は一瞬だけ月島の方を見、すぐさまカメラへ視線を戻した。


「この『Place Of Origin』という曲は誰しもが持っている『居場所』や『故郷』について歌った曲になります。『居場所』や『故郷』というものは具体的にここ! と決めなくてもいい、自分がいちばん自分らしくいられるところが『居場所』であり『故郷』なんだという想いを込めました」


 言い切ると南方は月島と目を合わせる。それを合図に月島は再度口を開いた。


「オレ的にはすごく曲とMVがマッチしていたというより、曲の良さがMVのおかげでもっと引き出されていたと思うんやけど、透は好きなシーンとかある?」


 月島が問うたのは上手側いちばん端にいた高梁透たかはしとおるアレクサンドルだ。高梁は少し困ったように笑って「沢山あり過ぎて」と一呼吸置く。


「でも、やっぱり全員でおどるところですね! 自然に囲まれながら、みんなで遊ぶようにおどったコレオグラフィーはこれが初めてだと思うので。良かったら“&YOU”みんなでおどってみてください~!」

「なかなかシビアなこと言うなあ……」


 高梁の三つ隣に立っている桐生永介きりゅうえいすけが目を見開いて、少し驚いたようにツッコむ。今回の振り付けは確かに遊ぶような楽しいものだったが、気軽に「踊ってね」と言えるほど簡単ではないのだ。


「お、じゃあ永介の好きなシーンでも訊いてみよか。どこが良かった?」

「俺はー、やっぱり個人カットだな。夕暮れに佇むリファインの、普段は見せないアンニュイな表情、どことなく寂しげな雰囲気、そういったものが見られるのはこのMVだけかなと思います!」

「せやな、今まではもっと『苦しい!』って感じのが多かったもんな」


 今までのコンセプトは苦難に対して向かって行く、といったものが多かったが、今回は所在がないような儚げなアクティングがメインだったのだ。新機軸と言えばその通りである。


「逆に、ここしんどかった……みたいなエピソードあったりする? 亜樹、どう?」

「そうだなあ」


 月島の左隣にいる土屋亜樹つちやあきは腕を組み、上を少しだけ見て話し始める。


「やっぱりスケジュールが……」

「パンパンやったもんな」

「撮影自体は楽しかったんだけど全然ゆっくりはできなくて、二日で全部のシーンを撮らなきゃいけなかったんだよね。だから天候にハラハラして、機材にハラハラして……。今度はプライベートでゆっくり来たいです!」


 みんなで行きましょう! と高梁が声を張り上げれば、メンバーは全員で笑い出す。


「そういえば、なんやけど、次のCDはちょっと特別なんよね?」

「そうなんですよ~、特別というか、なんだけど~」


 そう話し始めたのは桐生の左隣にいる佐々木水面ささきみなもだ。そう、今回CDに入っているとある曲は水面が作詞をし、CDジャケットには佐々木水面の絵が使われている。


「今回のこのCDに収録されてる『キャンバス』はぼく、佐々木水面が作詞した楽曲になります。そしてCDジャケットもぼくが描いた絵が使われてまして、ぼくの大学生活の集大成って感じになってます~。みんなに迷惑かけまくった大学生活だったからね~」

「そんなことないよっ」


 合いの手を入れる御堂斎みどういつきは下手のいちばん端、南方の影に入るように囁いている。


「斎は今回の水面の作詞、どう感じた?」

「滅茶苦茶良い歌詞だな、とまず聴いて最初にそう思ったかな。歌詞がすんなり入ってくるし、多分こういう経験、みんなしてるんじゃないかなあって共感がすごかった。歌番組とかでも歌ってみたくなる、しっとりとしたバラードですね」

「オレ、初めて歌詞見た時泣きそうになったもん」


 嘘だろー、と野次が飛び交うが月島だけは「ほんまや!」と抵抗している。一対多数で言い返している月島を横目に、中心にいた佐々木日出ささきひのでが言葉を紡いだ。


「という訳で新曲『Place Of Origin』そして佐々木水面作詞楽曲『キャンバス』、その他三曲が収録されたread i FineセカンドEP『シキサイゲン』は十二月二日に発売予定となっております。みなさん是非、一人当たり五枚ほど」

「多いよ!」

「……五枚ほど、ご予約をお願いします」

「真に受けちゃうから! みんな真面目だからそういうこと言っちゃだめ!」


 日出の無茶苦茶な物言いに、水面が必死にツッコミを入れる。そんな双子を微笑ましく眺めて、締めの言葉は末っ子である森富太一もりとみたいちが高梁と水面の間から発する。


「read i Fineの二年目も折り返し地点に来ようとしています。これからも音楽へ真っ直ぐに、“&YOU”のみんながくれる愛にちゃんとお答えできるよう、日々健康に気を付けて頑張っていきます! どうぞ、何卒、新しいCDも愛してください! よろしくお願いします!」

「それではー、以上、」

『read i Fineでした!』

「またねっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

watch i Fine ~7月の彼の日常~2巡目 @kuwasikuki_temo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ