29.白磁に染みは許さない【Day29・焦がす:日出+水面+高梁】
「はい復唱! 日焼け止めは三度塗りー」
「ひやけどめは、さんどぬりー」
「日焼け止めは三度塗り~」
「はいもう一回、日焼け止めは五度塗りー」
「ひやけどめは、ごどぬりー」
「日焼け止めは、ん? あれ、増えた?」
「駄目押しもう一回、日焼け止めは十度塗りー」
「ひやけどめは、じゅうどぬりー」
「日焼け止め、や、そんな塗らなくていいでしょ⁉ っていうか何言わせてんのお兄ちゃん……」
東京都にある国際空港に集結した『
現在は待機時間。リーダーの
「マジでなんでこんなこと言わせてんの……」
「そりゃあ透のこのお肌を見てくださいよ」
「いきなりキャラどうした。……透、もっとこっち来て~」
「はぁい」
「待って、近すぎる。もうちょっと離れて」
高梁の肌をまじまじと観察し、水面は首を傾げた。ただの綺麗で真っ白な肌だけど? とでも言いたげに。実際言っていないけど。しかしそこは双子パワー、日出は「そう!」と相槌を打った。何が、そう! なんだろうか。
「このスラブ系の血が入った美しい肌を見てよ! こんなの日焼けさせちゃ駄目だろ?」
「……ああ、そういう話なの?」
「どういう話なんですか?」
「サーシャの肌が綺麗すぎて、日焼けしたら大変なことになるんじゃないかってお兄ちゃんが気を揉んでるんだよ~、っ脇腹揉むな!」
「お前また太った?」
高梁から脇腹をむぎむぎと揉まれた水面は大きな声を上げる。それに反応するのは日出だが、何とも失礼な言い草だ。水面は目を怒らせて威嚇する。
「むしろ絞ったんだけど~? 絞ったからないはずの脇腹揉まれてるから悲鳴上げてるんだけど~?」
「これはモツです!」
「モツはモツだけど一気に食材感増したな……、食べないでね?」
「じゅるり」
「えっこわ、ガチ飯の方じゃん」
冗談ですよ~と満面の笑みを浮かべている高梁。その笑顔が逆に怖い、実はゲテモノ食いも余裕な男である。人肉だって平気で食べるかも知れない──と評するのはいささか可哀想だが。
「よっ、透! 流石バラエティ的リアクションが全部不発で終わる男! バラエティ的の天丼潰し!」
「あれってほめてますか?」
「わりと罵詈雑言に近い賞賛だと思うよ~」
「ばりぞうごんに、ちかい……⁉」
近いとは、と顔を強張らせる高梁に、変な言い方しないの、と日出がやんわりと咎める。口ではやんわりだが、手は思いっ切り水面の耳を捻っていた。水面が暴れたため、すぐに日出が手を引っ込める。
「暴力反対! あと話がどっかに飛んでったんだけど」
「そこら辺に落ちてるでしょ、あ、あった」
「お話ってひろえるんですか⁉」
「そんな訳ない」
「要するに、透の肌を綺麗に保つため紫外線対策は必須ということだよ。透、サングラスは持った? 日傘は? 帽子もかぶるよね?」
過保護だ。水面は口やかましい日出を見て苦笑する。確かに我らがビジュアル担当の顔を焦げさせる訳にはいかないが、彼の心配性ぶりにはそれ以外の理由を感じる。感じるだけで分かる訳ではないけれど、双子でもそこまでの理解はできないのだ。
「水面くん、水面くん」
「どうしたのサーシャ~。お兄ちゃんのこと、うざいって思うなら言ってやってよ~」
「言いませんよ。うざいかもですけど、今日は言いません」
「……それはそれで、まあいいんじゃない?」
双子の弟ですら感じ取り切れていない何かを、この人の感情に敏感な男は感じ取っているらしい。高梁が良いというなら良いのだろう、と水面は頷いて日出の演説を連続再生モードにした。
恐らくだが気を紛らわせたい、ということなのだろう。こういう時は、いつもなら月島の出番だが現在は生憎席を外している。そこで目を付けたのが高梁、というのが不思議ではあるが。最近高梁絡みで何かあったのだろうか。こんなだる絡みも外では珍しい。
「という訳で、透はそのお肌を守ること」
「分かりました。でも日出くんのお肌も守らないと、ですよね?」
「俺のことは良いんだけど」
「いや~お兄ちゃんもアイドルなんだから気は遣わないと~」
「アイドルとしての気は遣うけど、俺はまあ肌強い方だし」
日焼けはやけどですよ! と元気溌剌に宣う高梁に日出はたじろぐ。いきなり矛先がこっちに向かって驚いたのだろう。いいぞもっとやれ、と水面はほくそ笑んだ。
「日焼け止め、私がぬりましょうか?」
「えっ⁉ いい、いいよ、大丈夫」
「ぬりづらいところもあるじゃないですか! 私がだめなら、あとで滉太くんに言ってきますね」
「滉太に言うのはもっとだめ!」
その線引きはなんなんだ、と思いがけず真顔になる水面。この直後に月島が帰ってきてまた一悶着、そしてその裏では森富が行方不明になり何人かが探しに走っていたという。出発前から騒がしい『read i Fine』なのであった。
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