10.姿を歪めず、大輪【Day10・散った:月島+南方】
どぱん、という独特の破裂音。鳴った瞬間から広がる色とりどりの火の粉が、さながら菊や牡丹のごとく花びらとしてその身を広げている。音楽に合わせて二発、三発と繰り広げられ、時折流星群のように一方向へ流れていく。──そんな動画に、
動画の花火大会は来月頭に行われるもので、月島と南方はある音楽特番のためにその花火大会へロケに行くことになっていた。花火に合わせて歌を歌う、そんな音楽特番の企画のひとつのために。
「せやけど、なんでオレらなんやろな」
「企画に選ばれたのが?」
動画を停止し、おもむろに月島が口を開いた。ヤギリプロモーション本社の会議室にて、先程までプロデューサーとマネージャーがいたが一旦離席して別の会議に出席しているそうだ。それまでの間、月島と南方は選曲作業をすることとなっている。
月島はこう考えている。企画ものの選曲作業がいちばん難しい、と。
「曲数多いからね、『
「せやねん。一応曲をアーカイブ化しとるけど、夏曲、花火に合う曲、お祭り曲で分類してもえらい数が出てくんねん。やから、どうしようかなあと」
「ちゃんとアーカイブ化してくれてるの本当に有り難いです……」
「お前も亜樹もそういうの何もやらんもんな!」
月島からずっしりと圧を掛けられ、普段は尊大な態度を取っている南方も流石に委縮した。南方も、もうひとりの楽曲製作担当である
そこをテコ入れしたのが月島だ。パソコン関連に明るい訳でもないのに必死に勉強し、曲やトラックを検索して探せるくらいには管理できるようになった。現在のペースでCDが発売できているのは、月島の功績がかなり大きいのである。
「まあ分かりやすく花火にまつわる曲言うと『
「あれってのでさん主演ドラマのタイアップだから、俺らだけで歌うのは微妙だよな。……なるほど、だから『なんで俺らが』か」
「日出が出るなら分かるんやけどな。永介が出るのも分かる、メインボーカルやから」
しかし今回は番組側から月島、南方をピックアップされ、加えて『曲は持ち歌で』という条件までつけられている。大分謎な編成だ。
「なんか腕試しでもさせられてるのか?」
「一理あるかも知れんな。……うーん、オレらが選ばれた理由なあ」
そこを考えないことには選曲なんてできない、と月島は思っていた。
正直なところ、こういう企画もので最も大事なのは『話題性』だ。話題になっているアーティストでスケジュールが合うなら誰でも良い、と言っても過言ではない。だから選ばれた理由を考えることすら無駄である可能性もある。
だが逆に考えると、そこで差別化もできるということだ。今いちばん流行っている歌を歌う、という無難な案を捨て去って、わざとコケるかも知れない方面へ足を踏み出してみる。これによって得られるものがあるはずだ。
「負担かけるからほんまは嫌なんやけど」
「? うん」
「二、三曲マッシュアップして、ラップと歌をするってのもアリよな?」
「……それは、かなりアリ、だね。負担すごいけど」
「そうなんよなあ」
だけど楽しそう、と南方ははっきりと感想を口に出した。
『read i Fine』の強みは曲のほとんどが自作であること。そして、そのため曲への理解が深く、コンセプト消化が上手いこと。曲の本質を見失っていないままでアレンジができるのも強みのひとつだ、特に南方は編曲やクロスフェード、マッシュアップなどが得意だ。音を扱うことが得意なのである。
「持ち時間を考えて、夏曲、お祭り曲を三曲くらいリミックスして一曲にする。……うん、『read i Fine』にしかできなさそうだ。いいね」
「良さそうやろ、でもオレその間何もできへんから、侑太郎の負担すごない?」
「まあつっきーにはその間に歌詞を決めてもらって、あと歌を死ぬほど練習してもらう形で良いと思う」
「あれ、オレもなかなか負担でかいな?」
オリジナルのラップ詞は俺がやる、という南方の言葉に、当たり前やろ、と月島はジト目で応対した。作詞要員で存在している月島も、ラップ詞はあまり作れない。
「味があって俺は好きだけどなあ」
「韻が大分堅いから、面白みがないねん。オレのラップ詞は」
「そこが味だよ。でもまあ、今回は歌唱・つっきー、ラップ・俺みたいな歌割になるだろうから俺が書きます。あと曲なんだけど、」
「『情無』はなし、やろ」
「一曲で滅茶苦茶強い曲にしたから混ぜると絶対変な風になると思うんだよ。あそこまで強い曲だと、初期のタイトル曲くらいしか合わないだろうし」
『情無』──花火をモチーフにした別れを起点とするラブソングは先述の通り、佐々木日出主演ドラマのタイアップ曲だ。かなりインパクトのある曲にしたくて作ったのだが、その結果インパクトが強すぎてシングルのタイトル曲にできなくなってしまった曰く付きの代物である。現在はデジタルシングルになっており、配信でしか聴く術がない。
「まあそれでもやるなら、やりようはあるけど」
「あんま冒険し過ぎて花火みたいに散りたくはないんやけど」
「大丈夫、冒険し過ぎたら花火みたいな綺麗な散り方には百なんないから」
「余計嫌なんやけどそれ⁉」
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