8.一致団結ハプニング【Day8・雷雨:read i Fine】

「うわああ~、めっちゃ降られた~」

「あかん……ずぶ濡れやん……」

「なんで誰一人として傘持ってきてなかったんだよ……」


 事の発端はミーティングついでの食事会でのことだった。

 九人組男性アイドルグループ『read i Fineリーディファイン』では月に一度、もしくはそれ以上の頻度でミーティングを兼ねた食事会が行われている。今日はその月に一度の日で、全員仕事終わりや宿舎から予約された店に赴き、プロデューサー、マネージャーグループと一緒に食事をとって、メンバーたちは本社に送迎されて来た。(マネジメント陣はまだ仕事があるという。ご苦労様なことである。)

 が、本社と宿舎の間で道のりにて土砂降られたのである。

 現状九人全員、濡れネズミである。そして玄関に立ち往生中だ。


「はあ、しゃあない。明日朝早い奴誰やった?」


 声を上げたのはリーダーの月島滉太つきしまこうただ。ぎっしりと詰まった玄関で、はいはい、と手を挙げるのがふたりの青年。最年長で双子の弟の方・佐々木水面ささきみなもと、楽曲製作担当の土屋亜樹つちやあきだった。


「同じ仕事なん?」

「ううん~、でも出る時間一緒だよ。八時入りだよね、あきさま」

「うん。八時入り、さっさと寝たい」

「分かったわ、じゃあふたり、真っ直ぐ風呂場行きな。なるべく長く入っとって、着替えは持ってくから」

「わかった~」

「よろしくね」


 そう言って水面と亜樹はずぶ濡れのまま風呂場へ向かう。さて、これで七人。更に月島は声を上げる。


「いっちゃんとえいちゃん、先にランドリールーム行って服脱いで、タオルと雑巾持ってきてくれへん?」

「いいけど、裸で?」

「ズボンと靴下さえ脱いでくれれば」

「ああなるほどね、僕はおっけー。えいちゃんは?」

「俺はパンツだけでもいいけど、大変見苦しいですが」

「見慣れてるからいいよ、もう」


 むしろ若干うんざり、という風に返したのは最年長で双子の兄の方・佐々木日出ささきひのでだ。宿舎生活四年目を突破している、互いの裸や下着姿は(見たくて見ているものではないが)とっくに見慣れたものだ。


「じゃ、よろしく。で、あとのメンバーはタオル来るまで待機な!」

「えー、風邪引いちゃいますよー」

「そんなすぐには引かないと思うよ」

「透はそこそこ馬鹿だから大丈夫でしょ」

「ゆうくん! ライン越えてます!!!」


 ロシア人とのクォーターな高梁透たかはしとおるアレクサンドルが、もうひとりの楽曲製作担当である南方侑太郎みなかたゆうたろうから暴言を吐かれ彼を掴みかかる。するりと避ける南方に、最年少で最高身長の森富太一もりとみたいちが「暴れないでよ!」と大きな声を出した。


「ただでさえびっちゃびちゃなのに、暴れたらよりびちゃびちゃになるわ!」

「でもこれに関しては私悪くないです。ゆうくんがずっと悪い」

「ごめんね太一、これに関しては俺が悪いってことにしておいて」

「そういう言い方が透を怒らせるんだよ……?」


 憂慮している森富だが、早速二ラウンド目が開始しそうになっている高梁であった。

 若い子は元気だなあ、と日出が高身長トリオを見上げつつ見守る。そうしているとやっとタオルを持って御堂斎みどういつき桐生永介きりゅうえいすけが駆け付けた。


「ちゅっ、見苦しくてごーめーん」

「いっちゃんもえいちゃんも見苦しくないよ! ナイス筋肉!」

「太一の琴線が未だに謎。あ、いっちゃん、頭拭いて」

「ええ……自分でやりなよ……」


 と言いつつも南方の頭を拭いてあげる御堂である。ちなみに御堂と桐生だが、流石にパンイチということはないが下はパンツだけ。上は、御堂の場合は辛うじて浸水をまぬかれたインナーのタンクトップ、桐生は重ね着をしていたおかげで無事だったTシャツという出で立ちだ。


「やっと家に上がれる……」

「各々足拭いてから上がるんやで。上がったらランドリールーム行って服脱いで来い、オレはちょっと亜樹とみなもんの服取ってくるわ」

「あの子たち、のぼせてそうですもんね。ね、日出くん」

「うん、……ごめん透、今日はちょっとこっち見ないでもらって」

「え⁉」


 高梁から話を振られた日出だが、昼間に何故か高梁よりでこちゅーをされたことを思い出し、ミーティング中も彼の顔を上手く見れなかったのだ。


「透がのでさんから嫌われてる?」

「嫌われてないですう! ゆうくんの意地悪! 嫌いになってないですよね⁉」

「太一、背中に俺を隠して」

「露骨すぎない? なんで?」

「え、私なんかしましたか……?」

「あれでしてない、っていうのは無理があるだろお前……」


 本格的に自分が何をやったか思い出せない顔をしている高梁、昼間のことを思い出し更に顔が険しくなる日出、間に立っている南方と森富はきょとんとしていた。

 そんななかでようやく風呂から帰還してきた水面と土屋は、その様子を見て更なるきょとん顔を披露している。


「どうしたの~、お兄ちゃん、般若みたいになってるよ~」

「水面……、『般若』って『にゃ』ってつくのに全然猫っぽくないよね……」

「そんな険しい顔して言うようなことじゃないよ⁉」

「あきくん……、私、日出くんに嫌われちゃいましたかー……?」

「風呂上がりで訊かれても何も分かんない。あ、次はいっちゃんとえいちゃんが風呂入ったから」

「あーい」


 結局、昼間のことは高梁に直接言えず、少し溝を深めた日出。そんな日出から珍しく甘えられ、少し嬉しい水面。日出が何に引っ掛かっているのか分からない高梁。この三名で宿舎は混迷を極めたのである。もちろん、翌日になれば雰囲気は元通り、なのだが。

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