第14話

 話し終えてようやくサインをし、病室に戻り、ベッドの上での入院生活が始まった。

 時刻は夕方を過ぎて夜になっていたから、出歩いたりはできなくて、ベッドの上で過ごすしかなかった。朝から準備や最終確認で、ろくにスマホを触っていなかったから、ここぞとばかりゲームにログインをして時間を潰した。

 病院の消灯時間は場所にもよるけど、私入院した市民病院は22時だった。消灯されても、眠れなくても目を瞑っていよう。ここ最近遅寝遅起きをしていたから、病院くらい規則正しい生活する方がいいに決まっている。

 とは考えつつ。ここ最近は、1時前に眠っていたから、22時に電気を消されても、全く眠気がない。スマホももうすることはなくなったし、暇だ。自分のところだけ電気は付けれるけど、他のも入院している人がいるから、下手に電気は付けられない。

 何で昨日もあんな遅くまで起きていたんだろうか。こうなることが分かりきっていたのに。

 そんな後悔をしながら、何もない天井を眺めていた。

 とりあえず目を瞑ろうか。そうすれば、いつかは眠られるはず。

 右に向いたり左に向いたり仰向けになったりしたけど、眠るのは至難の業だった。意識しているからこそ、眠れないのかもしれなかった。

 結局何時に寝たのかは分からないけど、起床時間の7時には、うるさいチャイムで起こされたけど、寝不足でまだ寝ていたかった。朝食は8時。それまで1時間眠れる。と思っていたが、朝のバイタルチェック(主に、体温、脈拍、血圧を測定。)が始まった。

 バイタルチェック自体はものの数分で終わる。ただ、腕を締めつける血圧を測定されたら目が覚める。外もすっかり朝日が昇って、私のところの窓から特に綺麗に見えた。海から出たばかりのオレンジ色に輝く太陽が。7階だから周りがよく見渡せた。

 日差しが強いわけではないけど、半分ほどカーテンを閉める。が、時はもうすでに遅し、今から寝ろと言われるのが苦なくらい目はぱっちりと覚めていた。そして、いつも朝起きてほぼほぼ1番に朝ごはんを食べていたから、30分以上待たされるのは腹が持たなかった。

 8時の朝食を待っている間、ずっとお腹をぐーぐーと鳴らしていた。

 幸いにも、隣の人に聞こえるような大きな音は鳴ってなかったからよかった。大きな音を鳴らすと恥ずかしいから、本当によかった。

 今まではギリギリまで寝ていたから、いつもご飯とおかずを少々。それだけしか食べてこなかった。目の前には一汁三菜のザ・和食の朝食があった。

 こんな朝食久しぶりだ。小学生以来な気がする。小学6年生の修学旅行以来。10年振りだ。ただ、カロリーをしっかりと計算されているのか、量は少なかった。

 全然足りずに、持って来ていた間食を食べた。初めは持ってこようか少し悩んでいたけど、やっぱり持って来てよかった。なかったら、手術前に腹を鳴らすところだった。手術の待ち時間に腹を鳴らすなんて、とんだ醜態晒しだ。そうならないためには必要なことだ。

 朝食を終えて1時間。

 朝にバイタル測定をしてからそんなに時間がたっていないと言うのに、血圧計と体温計を持った看護師が現れた。手術前にもう一度測るんだとかで、またバイタル測定を行った。今回は朝食を食べたばかりだったから、体温も血圧も高めだった。それから看護師はこう言った。

 

「10時以降は飲食厳禁でお願いします」

 

 と。その衝撃的な一言に、私は唖然として、はいの一言も言えなかった。

 この看護師が悪いわけじゃないけど、そう言うことはもっと事前に言ってもらわないと。10時って、もう30分もないじゃんか。今から腹が満たされるほど、水分を摂取しようか。手術の時間は12時半だから、2時間半も飲食厳禁なのか。それはきついな。間食を食べて正解だったけど、これはこれで食べてよかったんだろうか。まあ、カーテンを閉め切っていたから、誰にも見られていないし、ゴミも自分のカバンに入れているから、見つかることはないけれでど。罪悪感はあった。押しつぶされそうなほどではないけど、あった。

 10時になってからは、飲みたくならないように、ペットボトルごとロッカーに片付けて、見えないようにしていた。

 11時ごろ。またしても看護師が来て、手術用の衣服に着替えるように言われた。着替えが終わればナースコールを押すようにとも。

 着替え終わってナースコールを押す。

 看護師は点滴台と共に姿を現した。

 

「昼食を摂れないので点滴をします。手術前に終わりますので、アラームが鳴ればナースコールを押してください」

 

 私の点滴が終わる前に、病室を同じにしている3人の方の昼食が運ばれてきた。

 昼食のメニューはカツカレーだった。

 いくら点滴をしているからといって、目の前でカツカレーを食われたら、空かない腹も勝手に空いてくる。せっかくお腹が鳴らないように間食を食べたのに、カツカレーを見せられて、お腹はなっていた。

 本心から食べたかった。

 そんな最中に点滴がなくなったアラームが鳴り、私はナースコールを押した。点滴を取りに来た看護師も、「カツカレーはお腹空くなあ」と笑いながら言っていた。

 早く手術室に運ばれないかな。この場から離れたいな。本心からそう思っていた。

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