第13話

 そうと決まれば、と言わんばかりに裏方にいる事務の人や看護師が慌ただしくなっていた。「とりあえず2つ隣の部屋へ」そう言われて、使われていない診察室のような部屋へ移る。

 中に入ると誰もいなかった。どうしていいのか分からず立ち尽くしていると、奥から看護師がやって来て、「お掛けください」と、診察室に置いてある椅子と全く同じ椅子を指差した。

 診察室とは違って、荷物を持ったまま椅子に座る。

 座ったと同時に、持って来ていた透明なクリアファイルから、手術について、入院の手引きと書かれていた紙を取り出した。そして、それを読みながら説明をしていた。書かれていたことをまんま読んでいただけだけど、人の声があることでわかりやすくなった。

 手術や入院に関しては、病院ごとに違うことがあるだろう。私が経験した市民病院の場合は、手術を決めたこの日に、手術の日程決めて、説明と入院に関してこんなものが必要だとかそれだけ終わった。

 診察が終わって、すぐさま会社に連絡した。手術の日程がちょうど仕事の日だったから、上司に相談して、変わってくれる人を募ってもらった。それから、手術後にどうなるか、まだ分からないから、1週間の休みを仮で設けてもらった。休みを無理やりねじ込んで年休が4日で済むようにしてくれていた。完全週休二日制じゃない利点がここで初めて発揮された。と言うか、単なる週休二日制に利点なんてあったんだな。

 手術は、12月16日金曜日に決まった。

 何とか今年内に復帰できるかギリギリのところだった。今年中に復帰できなかったら、新年の挨拶を併せて休暇のお礼もしないといけなくなる。ただでさえ言葉数が多いのだから、これ以上増やしてくれるなよ。

 仕事をこなしながら、休みの日には必要なものを買いに集めた。

 まず言われたのは、食事の際の箸やスプーン。これはついてこないので自分で用意して欲しいとのこと。短い期間になるから数は揃えなくていい。使い捨てのものを買った。次に入浴の際のタオル類。家で使っているバスタオルは小汚い感じのものだから、この際に新調しよう。そしてシャンプーとボディソープ、家で使っているものはごく普通に店で売られているサイズのもの。長居はしないのにカバンにあんな大きなものを入れるわけにはいかない。小さな容器に移し替えるか、お試しサイズの小さなものを買おうか。

 容器に移し替えるのが面倒だったから100円少々の小さなものを買った。

 あとは手術中に使うという紙おむつ。大人用のものもあるけど、袋で売られてもそんなに大量にいらない。単品で欲しい。でも単品で売っているところなんてない。仕方ないお金ももったいないけど袋のまま買うか。そう言えば、じいちゃんが最近尿漏れを起こしているとかでかみおむつをつけて寝ているとか。余ったものはじいちゃんにあげよう。大きいだろうけど、そこはどうにか使ってもらって。

 多分、それならじいちゃんに貰えばいいのにって思っているんだろうけど、身体のサイズが根本的に違うから、入らないんだよ。試しにつけてみたけど、テープが届かなかった。

 そんな事はさておき、他に必要なものといえば、着替えにスマホの充電器関係。飲み物や間食の類。病院内にコンビニはあるけど、入院する場所は病院の5階以上。対してコンビニは1階。買いに行くのが面倒だから、多めに持っていっておこう。あとは歯ブラシと歯磨き粉その辺のものだけだ。

 結構な大荷物だけど、私はコロナが始まる前までは趣味で1人でキャンプによく出かけていた。ある程度の荷造りはすでにできていた。

 キャンプの時に使っていたカバンは、テントとかも入れる想定で大きめだけど、今回も多めに荷物を持って行くからこのカバンを使おう。

 キャンプ用のカバンの中から、入院に不必要なものランプやバーナー、椅子やブルーシートを取り出して、着替えに始まり、飲み物間食、歯磨きセットを入れた。それと、重みが増すけど、暇を持て余すだろうから読めてなかった漫画を数巻。用意した。

 初めての入院だったから、お金の支払いに関してどうするのか知らなかったから、一応財布には8万円入れて行った。

 なぜ8万円なのかというと、高額医療費制度と言うのがあって、私の場合は約6万円。それにプラスして、入院の費用や食事代。薬の代金を含めるとそのくらいかなと思い、8万円を持っていた。

 手術を行う前日。

 検査入院で1日早く、市民病院に入院した。

 持って来ていた荷物をベッドの横に置いてあるロッカーに入れて、親と共に医者と対面する。

 検査入院とは言ったものの、検査はもう尽くしているから、これから行われるのは手術についての説明、同意書へのサイン。それだけだ。

 医者から手術を行うにあたって、結果が出ることもあるけど、出ないこともあること、その他に感染のリスクがあることを説明された。

 こうやって簡単に説明しているけど、本当は飽きるくらい長い話の一角としてそれは話されていた。ここまで説明しないとめんどくさい患者でもいるのだろうか。碌に話を聞かずに、失敗したら責任をなすりつる。そんな人ようの対策だろうな。そこまで事細かくなくてもいいのにと思いながら話を聞いていた。

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