第12話
2週間も仕事を休んだこともあり、仕事漬けの毎日を過ごしていた。もちろん仕事は基本的に左手がメインの生活。どうしようもない時だけは右手を使うようにしていた。それ以上に仕事ですることが多くなって、右手は悪化の一途を辿っていた。先輩とかは気を遣って、しなければならないこと、主に右手を使わないといけないことに関してはとても協力的だった。おかげで悪化のスピードが緩やかになっていたに違いない。
2週間経って市民病院に行くと、悪化しているからと、また2週間の休暇を言われた。安静にして治すしかないと。これ以上の安静と言われても、確かに日常生活では安静にして前回も結果が良くなったが、仕事に関しては同じようにはできない。どこかのタイミングで右手を使う機会は必ずやってくる。
食事介助に関しては基本的に1人で行うから、誰かに頼ることはできないんだよな。そこまで誰かにして貰えば、なんのために勤務しているのか。存在意義が問われかねない。
まあ、だから多少は無理してでも介助をしないと、いないのと同じになってしまう。それが悪化の原因だとしても、それ以外に方法はない。
また2週間の休みが始まった。
今回は何をしようか。
外はすっかり寒く、木々は冬の格好をしていた。
庭には6株のアスパラガスを植えている。毎年12月ごろに成長した茎が枯れて、そのタイミングでいつも刈り取って土寄せ(簡単に言えば土を被せることです。しないと徐に根が出てきます。)をしていた。ところどころは枯れているが、まだ全体は枯れていないから、刈り取るには早い。もう少しで本格的に冬が到来する。
冬が近づいてきたことによって、夕方の始まりが早く、前回よりも早くに散歩の時間を設けた。
そろそろ同じコースばかりで飽きてきていたから、違う道を進もうかと思っていたけど、大通りの国道は歩くにはうるさい。あんなうるさいところをずっと歩いてなんていられない。信号待ちでさえ嫌いだ。かといって、国道を越えなければ碌な道に出ない。これだから田舎は不便だ。
違う道も考えたが、諦めていつもと同じ道をコースを変えながら歩いた。
車だったら絶対に入らないような狭い道、徒歩だから余裕で通れる。何もない住宅街に紛れ込んでみたり。歩行者専用通路を先まで行ってみたり、飽きないためにさまざまなことを試した。散歩に関しては飽きるってことはなかったけど、同じ道で同じ店や家を見るのは飽きて、最初の頃よりも歩く距離がぐんと伸びていた。多い時には2万歩を超えることもあった。足が疲れて断念したこともあった。それでも気がついた時には散歩にハマってしまっていた。何より、少しずつではあるが、確実に体重が落ちていたこと。それがハマらせる原因になっていた。
冬だからこの場所は雨は少なく、平地でさらには太平洋側だから雪なんて滅多に降らない。冬で極端に天気の悪い日なんてほとんどない。ただ、今年はラニーニャ現象が起きているから、雪が降る可能性はある。積もれば何年振りかの雪になる。そんな場所だからこそ、冬の散歩も気軽にできた。
そんなわけで、多い日には、昼過ぎから夕方の5時前まで、4時間以上歩いたりしていた。
長時間散歩をすることで、健康体に向かっている気分になっていた。だけど、右手だけはそう言うわけにはいかなかった。
市民病院へ診察に行って、また握力を測定した。休んでから1週間以上経っていて、痺れもマシになっていた。前と同等くらいには治っていそうな気がしたけど、それは、私の勘違いだった。
結果的に言えば、全く治ってない。10キロだった。1番酷い時よりかは、確かに戻っているけど、ほんの誤差のようなもの。回復に向かっているとは到底言えない。
医者は最後の決断の様に私に話した。
「これだけして治らないのだったら、もう手術をするしかないかもしれません。とりあえず今回は、今まで通りの治療を継続しますが、2週間後にどうするかを決めてください」
診察を終えてお会計を済ませて、車を運転して家に帰って、その間もずっ考えていた。手術をするのかしないのか。そう簡単に決められることではない。誰かに相談しても、経験者でなければ的確な回答は得られない。
ならば、客観的に見てみよう。
現状、2週間の休暇は2回行った。1回目は時々使いながらではあったけど、回復傾向にあった。そこから仕事をすることによって、再び悪化した。そして、2回目はほとんど使うことはなかったけど、ほとんど回復していなかった。
医者から手術を提案されるくらい悪化している。これから仕事が始まる。悪化は免れないだろう。これよりひどくなれば、もう逃げ道はなくなる。
同僚たちには仕事を休んで迷惑をかけているから、仕事は早めに復帰したい。手術をするということは、再び長期の休暇を取ることになる。
年休大丈夫か……。
年休の確認は、仕事場のパソコンを使わないとできないから、今はまだ分からない。確か、50日くらいはあったはず……。
2週間後。
僕は覚悟を決めて、市民病院を受診した。
「どうするか決まりましたか?」
「はい」
お互いに固唾を飲んで、緊張感に包まれていた空気の中、私が口を開く。
「手術をすることに決めました」
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