第10話
リラックスなんて到底できなかったから、もう何も考えずに無心。たまたま視界の先に大きな窓があったから、国道挟んだ隣に位置しているマンションをずっと眺めていた。もちろんマンションだから動くことはなく。昼前の時間だからマンションにはほとんど人はいないのか、何の動きもない。そんなただのマンションを眺めていても、電流が流れ込んでくる感覚だけは消えることはなく、電気が流れてくるたびに意識をそちらに向けられていた。
どんなデータをとっているのか、女性は無言で肘の手前から手首まで様々な位置に受話器のようなものを当てては離してを繰り返していた。
正確に時間を測っていたわけじゃないけど、検査の時間は30分くらいだった。長くもなく短くもなく、不思議な体験だった。
電気を流されたせいか元からなのか、右手を痺れさせながら階段を降りて、今度はCT室に向かった。CT室の前には待合のソファーが置いてあって、各部屋の前に4箇所座れる場所があるのに、何故か全て埋まっていた。CT撮る人多すぎるなと思いながら、CT室とは反対の壁にもたれかかって、席が空くのを待った。CTを撮るだけだから、人の入れ替わりは激しい。思っているより早くに部屋の前の席は空いた。それも目の前。ここしか空いてないから仕方ないけど、こんな真ん前に座るのはなんかやだな。
そう思いながらソファーに座ると、中から青い服を着た検査技師の男性が出てきた。その男性は、私の名前を呼んだ。さっき座ったばかりなのに、もう順番が来てしまったのか。というか、僕の隣の人はずっと座っているけど、この人は何者なの。何でここにいるの。
その答えは私がCT室に入る前に解決した。私の入るCT室の4つくらい先にあるMRI室から、大声で患者の名前を呼ぶ女性が現れた。その声を聞いて、私の隣に座っていた人が、慌てて立ち上がり「そっちだったか」と呟きながら、歩いていた。お年寄りだったから、分からずに適当に空いているソファーに座ったってことだった。どこにでもよくある話だ。こうはなりたくないと思いながらも、私が歳をとっている頃にはもっと技術が進歩して、機械の操作ばかりになっているんだろうな。もうそうなれば、さっきソファーに座っていた人みたいに何も分からないまま適当に操作をして、ミスというか、間違いばかりを犯しそうだ。
変なことを考えていたせいで検査技師の男性が言っていることを聞き逃した。何のことを言っていたのかさっぱりだが、荷物の類、服のことだろう。撮るにあたってスマホはもちろんカバンに入れている。最近は寒くなってきて長袖を着るようになったから、脱ぎやすいように暑かったけどパーカーを着てきた。準備は万端だ。さあ、私は何をすればいい。
とりあえず荷物を置いて上の服を脱ごうとしたら、「腕だけなので捲るだけでいいです」と。パーカーを着てきた意味がなくなってしまった。しかも袖を捲るから、パーカーは失敗だった。腕が上手く捲れない。検査技師の人は肘くらいを撮りたいのに、肘の真上に袖があって、私もずれないように押さえながら、第1回の撮影に挑んだ。
結果は、撮り直しだった。それも邪魔だから服を脱いで。
パーカーの下は半袖のシャツだったから、何もすることなく肘の撮影を行った。2回目は上手く行ったようで、CTの撮影は終わった。今度は、もう一度整形外科に戻り、結果を聞いて今日のところはそれで終わりだろう。
この待ち時間が何よりも長かった。
結果はもうすでに出ているだろうから、医者に持っていくのが遅れたとか、そんなものではない。単純に今日は人が多すぎる。
Eコーナーに受付票みたいなものを提出してから、45分ぐらい経ってようやく私は呼ばれた。この時にはもうすでに12時を過ぎていた。
中に入ると、パソコンの画面をまじまじと見つめている医者に遭遇する。
「CTの結果は悪いところはないかな。神経の伝達速度も、特に問題はないかな、本当に
結果を見て医者は余計に頭を悩ませた。
「人差し指とか小指も痺れはあるんよな。うーん……でも、そうやな、併発しているんかな」
検査結果を眺めていると医者はどんどん自信を失っていた。
「
仕事を2週間休むことの是非をこの後問われたが、二つ返事で頷いた。
医者の指示だから休むことも仕方ない。と、内心はウキウキの状態だった。ここまでの長期の休暇は、高校の夏休み以来4年ぶりだから、ルンルンの気分だった。だからと言って、旅行とかは行けないから、家で何かをしながら過ごすしかない。何か……。右手を使えない状態で何をしよう。読めていない漫画も溜まってはいるが、片手で漫画を読むのは非効率で読みづらく、イライラしてしまうから一度試して以来読んでいない。時間はあるから再挑戦をしてもいいけど、漫画が途中になるのは先が気になって悶々とするから、できればしたくないな。
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