第8話

 MRIの結果を聞くのは、撮った日から6日後のことだった。

 

「MRIの結果を見つからに何かあるってことはなさそうだな。やっぱり手根管症候群しゅこんかんしょうこうぐん肘部管症候群ちゅうぶかんしょうこうぐんを併発しているのだと思う」

 

 普段と何も変わらず、いつも通りの薬を出されて終わった。

 その次の日だった。

 仕事場の先輩に私と同じ、手根管症候群しゅこんかんしょうこうぐんを発症していた人がいた。今はもう治りきっていて、病院にかかっているとかではないけど、市民病院に手の専門家がいるらしく、その人に見てもらって治したらしい。市民病院……。もし、市民病院や赤十字病院、大学病院に何も持たずに行くと別途で5000円以上取られる。(当時は5000円以上でしたが、令和4年の法改正により7000以上に変わってしまいました。)かと言って一番の難関である紹介状を貰うのはリスクが高い。紹介状を書いて欲しいなんてこっちから言えば、医者は間違いなく機嫌を損ねる。そしたらこの整形外科にはもう2度と行けないかもしれない。まあ、他にも整形外科はあるからそっちに行けばいい。けど……言って書いてもらうまでが地獄と化しそうだ。

 プライドだけが無駄に高い医者はどこにでもいる。悪い人ではないのだけど、セカンドオピニオンを極端に嫌う人は歳を重ねている人ほど多い。(個人の感想です。)医者と多く関わっていると大体どんな人がそういうことを嫌うのか分かってくる。私の通っている整形外科の医者は間違いなくこのタイプだ。相当覚悟を決めないと私自身も言えない。

 今の診察はマンネリ化しているというか、毎度毎度同じようなことを繰り返している。症状を軽く聞いて診察は終わり。そして処方箋を受け取って受診を終える。薬も多めの2週間分を毎回処方していた。この流れなら、何かあっても2週間は受診しなくてもいいから、言うのなら薬をもらうタイミングだ。薬をくれないのだけは生命線に関わる問題だから、ここだけはしっかりしないと。

 近いうちに医者にこのことを伝えねばならないけど、この悪化している状態で放置されるのだけは勘弁だ。

 受診のタイミング的に次の受診が一番最適だ。この気を逃せばまた2週間後になる。長引けば長引くほど言いにくくなるし、早めに言わないと、このままノロノロしていると年が明けてしまう。

 私は覚悟を決めて通っている整形外科の医者に市民病院を受診したいことを伝えた。医者の反応は予想している通りのものだった。話した瞬間のあの怒った様子。ああ、これ2度と来れないな。そう思った。

 医者は多分だけど、私の診断には何も問題はない。治らない原因は手の使いすぎだ。って言いたかったんだと思う。ふんわりとではあるけど、そんなことを言われた。これだから言いたくなかったけど、言わないと多分治らないから、言うしかなかったんだ。

 機嫌を損ねた医者は嫌々ではあるが、紹介状を書いてくれた。話はそこで終わって、受診の日程や書類の一式は、事務をしている女性に代わった。事務の女性は普通に優しく対応してくれた。市民病院側の医者が月曜日と水曜日だけしか診察をしておらず、その二択になった。どちらかを選べと言われても、介護の仕事は休みの日なんて決まってないのだから選べない。とりあえず来月の日程を見て、休みが多い日を選ぼうと、カレンダーを見てみると、水曜日が一番休みが多く、月曜日なんてそもそも休みの日が存在していなかった。受診の日程は水曜日になった。

 市民病院の初めての受診。

 大学病院とか大きな病院に共通しているけど、毎回人の多さに驚かされる。朝早くに行ったのに、もうお会計を待っている人がいるって言うのもおかしな話だ。

 こう言うところは機械化が進んでいて、受付するのにATMより小さい機械で勝手に受付を済ます。但し、それは再診のみ。

 初診、紹介状をお持ちの方。と書かれている有人の受付の列に並ぶ。ただでさえ人が多いのに、なんで初診と紹介状を持っている人がこんなに沢山いる。列は30人くらいいて、もう少しで外まで並びそうなくらいいた。その割に混雑が解消されるのは早かった。割と間違えて列に並んだ人や、機械をうまく使えないお年寄りが列に並んでいた。次から次へと人がはけていき、行列を作ったのが嘘のように私の番くらいには後ろに誰もいなかった。

 受付を済ました私は、2階のEコーナーに行くように言われて、エスカレーターを使い2階に行った。その正面にFと書かれた受付を見つけた。Fは循環器内科と血液内科と消化器内科だった。専門性の高い診療科だから、下ほど混んでいなかったから、どこもこんなものだろうかと、廊下の角を曲がると、待合室の椅子全てを埋め尽くして溢れ出した人が立って待っている光景がそこにはあった。それがまさかの私の目的地であるEコーナーだった。Eコーナーは、私の目的地でもある整形外科と小児科、産婦人科、珍しいリウマチ・膠原病内科、お年寄りの多い泌尿器科が一緒になっていた。よく見ると待合室のほとんどがお年寄りだった。

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