第4話

 暫く装具を使って仕事をしていて、楽にできることもあり、一日中装具をつけていた。数ヶ月前にサポーターを着けて、手首が動かなくなったばかりだと言うのに、楽さばかりを追求し過ぎて、仕事だけではなくて昼食時も着けていた。

 結果は分かりきっていた。

 前回病院に行って2週間。薬がちょうど無くなった時に、病院に受診に行くと、自分が思っているよりも、手首が動かなくなっていた。また同じことをしてしまった。と思い過ぎて、そのことを医者に伝えることを忘れたが、まあ、何とかなるだろう。と、楽観視していた。

 それが原因だった。

 前回同様、手首のストレッチを取り入れると、手首から手のひら全体にかけて激痛が走った。思わず「痛っ!」と叫んでしまうほどの激痛だった。

 幸いにも、その痛みは長続きすることなく、手首を一直線に真っ直ぐ保っていたら痛みを感じなかった。手首が固定されていた、と言うより、もう伸ばすことができなくなっていた。

 装具をつけ過ぎていたことによる弊害で、手首は悪化の一途を辿っていた。だからと言って、装具は外すことはできない。物を持ったり、何かをするときはできるだけ左手を使って、右手は文字を書く以外には使わなくした。それと、痛みを感じながら、少しずつではあったけど、ストレッチを毎日欠かさず行った。日に日に手首の可動域が広がっていっているのが実感していた。このペースでいけば、2ヶ月くらいで手首は元に戻るだろうと。だが、1週間くらいから、どれだけストレッチを続けても、一向に治ることはなかった。一番ひどい時よりかは曲がるが、些細な差でしかなかった。

 丁度前回の受診から2週間が経って、医者に手首のことを話した。得られた回答は、私が考えていることと同じだった。ストレッチを行なって、可動域を徐々に増やしていくことだった。ただ、1人では難しいだろうと、リハビリを提案してくれた。

 私の通っている整形外科は、2階にリハビリ施設を併用していて、理学療法士や作業療法士が毎日のようにリハビリを実施していた。リハビリを受けているのはほとんど高齢者で、若い人はいなかった。

 そんななか、小型化したショベルカーのような機械の横に案内された。普通のショベルカーとは違って、先端はアームではなく、タブレットのような板が3枚ほど観音開きに付いていた。その隣にはごく一般的なパイプ椅子があり、椅子に座って手を太腿ふとももの上に広げて置くように言われた。言われた通りにすると、タブレットのような板で手を囲い、ショベルカーで言うなら運転席付近に付いていたダイヤルを回して「20分このままで」と言われた。担当の理学療法士が席を外してから10秒くらい経って、タブレットのような板から熱を感じた。それも、あったかい。と言えるくらいの温度ではなくて、だからと言って熱いわけでもない温度。正直手だけではなく、太腿にも当たっていたから、身体は暑かった。

 それよりも、20分時間を潰す方が大変だった。担当の理学療法士からはスマホを触ってもいいと言われていたが、スマホを使っても特にすることがない。それと、最初のポジションを間違えて、身体が痛い。それでも暇を潰すためにスマホでランキング上位のニュースを片っ端から読んでいた。普段なら20分なんて息をしているだけで過ぎるのに、何故かこの時だけは普段の5倍くらいの体感だった。短いニュースばかりを普段から読んでいるせいか、興味のある分野は見尽くしてしまった。こんなことになるのなら、昨日読むのを辞めておけばよかった。と後悔しながら天井を眺めていると、ピー! ピー! と大きな音を隣の機械が鳴らした。初めてでタイマーもなく、時間も計っていなかったから、突然鳴り響いた大きな音に、私は身体を反応させ、周りを見渡して他に驚いている人がいなかったことを確認して、恥ずかしくなった。そんな私の元に、セッティングをしてくれた理学療法士の方が、近寄って機器の操作をし、鳴り響いている音を止めた。

 

「今日はこれで終わりです。また1週間後に来てください」

 

 そう言われて、リハビリの紙を渡された。それを1階の受付けの人に渡して、精算額を計算されるのを待った。田舎で整形外科の数は少なく。腰や足、いろんなところの関節を痛めたご老人が多くいるこの整形外科で、リハビリだけの人もたくさんいて、精算が思っているより長かった。30人は座れる待合室で、ほとんどの席を埋めていて、診察待ち時間が90分もあったことから、このほとんどの人は診察を待っているのだろうと思っていた。それは違うかった。ほとんどが精算待ちだった。次々に老人が精算に呼ばれて、席を空けていく。まだかまだかと待ち侘びた私の精算時には、さっきまで埋まっていた席がガラガラになっていた。待ち時間はざっと30分。おかげでスマホの電池残が38パーセントになっていた。この後はまた処方箋薬局しょほうせんやっきょくで薬を受け取らないといけない。10時半に病院にやってきたと言うのに、気がつけばお昼時を過ぎて、1時前になっていた。今日は長かったと思いつつ。こんな時間まで診察をしているなんて、飛んだブラック企業だなと思った。

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