第20話 摩天楼

『私は猫である。名前は3つある。』


 地面が見えないほど高い建物の屋上に立っている。でも、登った覚えはないから、これはきっと夢だ。いつものとんがり帽子だけでなく、マントまで身につけた魔女が横に立っている。

「夢の中とはいえ、わざわざ来てもらって悪いの。今際の時に師匠が使った術を私が使うということは、ついにその時がきたのじゃ。そなたには及ばないかもしれないけれど、これでも長生きしてきた方でな。こうやって隠れるのは、しきたりというか生き様みたいなもの。もうしばらくはその家にいて良いが、そのうちちゃんと新しい家を探すんじゃよ。吾輩の最後のお願い。聞いてくれるな、タイガー?」

 また置いていかれると言うことがわかった私は、抗議の声をあげながら爪を立てようとした。夢の中なのに触れることもできず、なぜか『声』だってあげれない。ただ、『にゃん』と泣くしかできなかった。

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