第6話 呼吸

『僕は猫である。名前は3つある。』


 お日様の動きからそろそろ夕ご飯の時間だと思っているのに、匂いはもちろん探す声も聞こえない。縁側の下から抜け出して、部屋の中を歩き回って探してみる。畳の上で横になっているのを見かけたので、ご飯の時間だからと近づいて起こそうとする。しかし、どうやら様子がおかしい。いつものおっとりした穏やかな表情ではなく、しかめ面だし呼吸が激しいし。慌てて周りを見るも、この家にはもうこの人一人だけしかいないことを思い出す。いつも話に聞く友達がどこにいるかもわからないし、この時ほど猫であることを恨んだことはなかった。

 言いつけを破り、一人で表通りに飛び出した僕は大きな声で何回も『にゃん』と叫んだ。誰でもいいから助けて!

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