溺れる子犬に石を投げ

sui

溺れる子犬に石を投げ


 ポンとこの世に生まれ出てしまえば、生きる以外に他がない。

 生かされるように生き、生かされていたと知り、生きる事に悩み、生きるように生き、生きているという事を知り、そして死というものを知る。

 そうしてまた、ただただ生きた。



 思えばがむしゃらであった。

 生きろと言うから生きて来ただけ、やれと言うからやって来ただけ、それだけしか出来ない体当たりの人生であった。


 苦しみも当然存在したが、それでもそこには喜びがあった。夢中になれる生き方であった。



 そして立ちはだかる壁というものを見た。



 誰もが当たり前だと言う。当然の事なのだからと言う。

 右を見ても左を見ても誰もが納得しているように思え、きっとそんな事はないのだろうけれども、ただ己ばかりが置いて行かれているような、途方に暮れた気持ちになった。

 当たり前とは何なのか、当然とはどういう事なのか。

 ポロポロと零れ出した何かは、左右から寄り添ってきた諦念と言う名の柔らかさに埋められ、今にも見えなくなろうとしている。


 思えば、手放す事すらしていない。あっと思ったその時にはもう、あの中に落ちて行ってしまった。


 だからだろうか、時折それは浮かび上がって来て、目に触れる度に、恥ずかしいような、痛むような、淋しいような、途方に暮れた気持ちになる。

 プカリプカリと離れた所に行ってしまったそれを今更どうこうする事も出来ない。




 そこに誰かが石をぶつけていく。

 無邪気に、笑いながら、まるで何の感傷も抱かずに。



 己は黙ってその姿を後ろから見ている。

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