第6話 聖女の笑み

 1

「あんた……どうやってこの隠れ家を見付けたんだい」

 西の魔女が驚愕した。

 西の魔女の前には二ヶ月前に学園で別れたジュエルがいたのだ。

「ウォン、ウォン」

「ホウホウ」

 犬のホクトと梟の不苦労はジュエルとまた会えて嬉しそうだ。


 ジュエルは、西の魔女に「オババ様! 青い怪鳥……知ってますよね」とニヤリと笑った。


 ジュエルは、冒険者組合で人探しの依頼を出した。師匠であるオババ様『西の魔女』に関する些細な情報でもいいから報酬を出した。


 冒険者組合は国境を越えて大陸全土にある。基本的に冒険者組合は、国に関係なく中立を旨としている。あくまでも建前であるが……

 大陸全土の依頼は、国内の依頼より割高になるため依頼は多くない。

 あるとしたら、特例で国境越えの護衛任務は、物流や要人警護の関係で一部を国が負担する場合もあるため多少は安上がりである。だが、やはり個人での依頼は各支部や国の税なり手数料なりがかかり高い。

 だが、ジュエルは西の魔女の情報収集を金に糸目をつけずに行った。


 すると、獣人連合国とグルドニア王国西に位置するズーイ伯爵領の国境沿いの村で、二ヶ月に一回ほど、犬と梟をつれた薬師が薬を卸しにくるという噂を聞いた。

 何より、その薬の効能が素晴らしいため商人を経由してその村を中心に交易が行われているとのことだった。


 ジュエルは急ぎその村を目指した。

 ただ、周りからは反対された。戦時下におけるこの時に何故わざわざ敵国の国境沿いに行かねばならないとダイヤモンド家や神殿、学園はこぞって反対した。


 ジュエルは、気にしていなかったが今やジュエルは学生の身とはいえ、他国でも有名な騎士道に理解ある何者にも差別のない本物の『聖女』なのである。


 噂とは耳を澄ませているものには、早いものだ。数日後に獣王からジュエル宛に小包が届いた。

 何故に敵国の王からと、騎士団や魔術師団の検閲の元に、中身が開封された。

 中身には三つ編みにされたたてがみだった。

 鑑定結果は『獣王のたてがみ』だった。

 これには、王宮や騎士団、貴族が驚いた。


『獣王のたてがみ』とは、獣王からの親愛の証であり。もし、このたてがみの所有者に何かあれば、事情を顧みずに獣王みずからそのものを八つ裂きにするという守護と宣誓の証だ。


 なかでも、現獣王のガルルは『牙の魂』と呼ばれ、嘘かまことか一人で数百からなる魔獣大行進を退けた。獣王の中の獣王である。


 間違いなく厄災級と言われる竜や大迷宮の主、南の機械帝国ジャンクランドの機械人形『巨帝ボンド』と化け物達と肩を並べても見劣りしない。


 尚、グルドニア王国の歴史を紐解いても『獣王のたてがみ』を貰った人物は建国王アートレイ・グルドニアのみであった。

 更に、そのたてがみを身に付ければ大抵の魔獣は恐れをなして近付かない魔物避けの効果もある。

 ジュエルは、『獣王のたてがみ』を手に取った。


「獣くさっ! 」


「「「……」」」

 皆は静かになった。


 そんなこともあり、ジュエルは御付きの従女と現地の冒険者、国境沿いに至っては獣王親衛隊が呼びもしないのに距離をあけて秘密裏に警護していた。


 ちなみに魔女の隠れ家は迷いのまじないがかけられていたが、ジュエルの匂いを感じたとったホクトが「ウォン」とまじないを解除した。


 魔女はホクトを睨んだ。ホクトは尻尾をブンブンと振り、ジュエルに撫でられていた。


「ホウホウ」

 梟の不苦労が魔女を慰めた。


 基本的に世捨て人だった魔女からすれば、ジュエルの来訪は迷惑極まりなかった。


 2

「わたしゃ、行かないから自分一人で行きな」

 初めは迷惑極まりなかった弟子をあしらっていた魔女だった。

 だが、魔女は片付けが絶望的に出来ないことを知っていたので、ジュエルと御付きの従女は本気を出した。

 隠れ家は勿論のこと、薬草を管理する小屋や、肉を燻製する小屋、倉庫等々を一週間かけて整理整頓した。

 ジュエルにも分からない薬草の仕分けは、ホクトと梟(不苦労)が教えてくれた。今さらだが、二匹は特別なようだ。

 一つ関心したことは、調剤室はとても綺麗だったやはり、魔女は職人だった。

 さらには、ジュエルの《異空間》には魔女が好物とする食材を多く持ってきた。従女が毎日三食腕によりをかけた。

 ジュエルは初めて《異空間》が役に立ったと思った。

 ジュエルは神にありがとうといった。


 ここまでされたら、流石の魔女も対価を支払わなければならなかった。


 何故なら元々、『青い怪鳥フェリーチェ』の話をしたのは魔女なのだから……


 ジュエルの冒険が加速する。

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