第4話 聖女のパフォーマンス

 1


 ジュエルのお茶会は結果的に成功したが、デニッシュとは馬が合わなかった。


 お茶会には男性一人ではとデニッシュの従者である伯爵家の令息キーリライトニング・オリアが参加した。他の令嬢はダイヤモンド家の寄子の家であり、初めこそ皆、王族相手に緊張していたが、紳士であるキーリが上手く話しを回した。


 皆が、緊張も取れたころにジュエルとデニッシュがフラワーの話になった。最初こそ、フラワーの良さを褒め合っていた二人であったが、途中からどっちがフラワーの愛が深いかということで何故か亀裂が入った。


 周りからすれば国のトップと貴族序列一位の戦いを止めることなど出来なかった。


 侍女とキーリは二人して頭を痛めていた。


 ジュエルはこの一件でさらに火が付いた。


 今のジュエルは冒険者として稼いだお金と薬師として薬を卸したお金がありそれなりにお金持ちだった。正直にいえば、貴族令嬢のドレスであればオーダーで百着程度作れる資金はある。

 だが、今回のデニッシュとの一件でジュエルは負けたくなかった。

 ただのドレスではダメだと思った。

 ドレスとしての美はそのままに、防御性や状態異常や呪いにも耐えられる大迷宮のドロップ品並みの装備としてプレゼントしなくてはといった使命感がジュエルを突き動かした。




 2


 その翌日に、ダイヤモンド家に呼ばれてジュエルは面倒ながらも実家に顔を出した。そこには、何故か宰相と神殿長がいた。


 二人はジュエルに「神託を授かりましたよね」と聞いてきた。


 ジュエルは一体何のことだが訳が分からなかった。


 話の成り行きとして獣国との小競り合いが水面下ではあるが十年近く続いている。そのために騎士団の軍備費を賄うために、微々たる額だが国民からの税を上げた。さらには、今年は作物の不作により穀物の値段が二~三倍になった。そんな中で、高位貴族の脱税や横領が相次いだために、国民の不満が爆発しそうだとのことだ。


 そんななかで、聖女であるジュエルが学園に入学してから言葉は悪いが悪魔憑かれたような生活を送っている『狂人者』という噂を聞いた。これはもしや、グルドニア王国が他国より大規模な集団術式を受けているのではないかという結論に至った。


 だが最近になって不眠不休の戦いの末に聖女が自力で《解呪》に至り三日間の眠りの末に神との会話をなさったという噂を聞いた。


 ジュエルと御付きの侍女は困った。


 確かに、これまでのことは侍女からダイヤモンド家に報告はしていたが何故にこのようなことになったのだろうかと。どうやら、先のお茶会での一件でデニッシュとの論争でジュエル負けん気を発揮した。

 デニッシュがあまりにも、同級生であるフラワーとのマウントをとってくるためジュエルは入学してかたのジュエルに対する自分の愛を語った。その時の会話が参加していた貴族令嬢たちの耳に都合のいいように変換され、そこから噂が噂を呼んで家同士から社交界での話題になりどういうわけか聖女が神託を授かったということで落ち着いてしまった。


 これについて父である公爵は大いに泣いて喜んだ。


 元々、ジュエルの聖女の肩書は人気取りの為に大人たちが押し出したものだったのだ。父は娘がダイヤモンド公爵家や神殿の権威のために幼いころから努力したことを知っていた。娘には辛い運命を辿らせてしまったが、ついにその努力が実ったのだ。


 泣きながら喜んでいる父を見てジュエルも流石に勘違いですといえなかった。


 だが、三日間の睡眠でジュエルは確かに夢を見たのだ。


 笑う剣をもった騎士が長き戦いによって厄災といわれた海の竜を倒し、聖なる騎士になった夢を……そしてそこにはフラワーによく似た巫女とブリキの人形がいた。神々が彼らを祝福していた夢を見たのだ。


(何か言わなきゃダメよね)


 ジュエルは腹を括った。


 ジュエルは真剣な顔になった。


「皆の者、頭をたれよくお聞きなさい。今から神託を授ける」


 その場にいた者は跪拝した。




「グルドニア王国に大いなる災いが訪れるその時、剣を……剣を剣帝の元に、そのものこそ大いなる災いを切り裂くものなり」


 ジュエルはポーカーフェイスを貫いたが心の中では「やってしまった」と叫んでいた。


 そのジュエルのその場しのぎは後に、剣帝を決める『剣の宴』といわれ国民が注目するイベントとなった。


 優勝したものには、建国王アートレイ・グルドニアが使用していた二振りの剣『巡剣満月』、『絶剣満天』と剣帝の名誉をかけた戦いが行われた。


 当時の学園二大巨頭といわれたデニッシュとキーリの決勝戦は後に語り継がれる伝説となる。


 ちなみに、ジュエルは神託の代金として少なくない資金を得た。


 ついに、今世最大のドレス作りが始まろうとしている。


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