第3話 聖女の覇道

 1


 学園に入学していつの間にか一年が過ぎた。


 ジュエルは西の魔女の指導もあってか、僅か一年で大抵の薬は作れるようになっていた。


 採取可能な薬草は自分で見分けて採取できるようになった。それだけではなく、魔女からは自分で素材を採取して一人目前という定義から、魔術も習うようになった。

 ジュエルは、幼少より魔術の家庭教師もつけていたが、魔女の指導は命がけの指導だった。魔女の助手には、ホクトという犬と不苦労という梟がいた。ジュエルは初めに目を疑ったが「あんたより賢いよ。兄弟子たちだね」といわれた。

 実際に、ホクトと不苦労は採取において魔獣の索敵や、戦闘、薬草や素材を見分ける能力全てにおいてなんなくこなした。


 なぜか、戦闘訓練も行われた。


 ジュエルは西の魔女と愉快な動物たちの甲斐もあってか僅か一年で銀級冒険者になった。十一歳で銀級冒険者とは、剣の天才といわれた伯爵家令息キーリライトニング・オリアに並ぶ記録だった。


 ジュエルは、忙しい日々を送りながらも冒険者組合での《治癒》も継続した。いつの間にか《回復》も発現した。魔女が「知識量とあんたの変人的な努力が才能を上回ったね。こりゃあ、研究対象だよ」といっていた。

 ジュエルは魔女にも気に入られて門外不出の『体力回復飴』と『魔力回復飴』の作り方を教わった。材料の希少性に加えて魔力消費量が多く【コストパフォーマンス】が伴わない薬だったが、有事の際やのった戦闘、体力のない病人には治療の上で有用だとのことだ。


 この二つの薬の作成には困難を極めたがジュエルは「この飴はホワイトデーに献上するには最適だわ」とバレンタインデーを貰ってもいないのにお返ししようとした。

 おかげで、二つの飴は作成に成功した。


 これには、魔女も驚いた。


 魔女も酒を飲みながら興がのって教えたに過ぎなかった。

 魔女の歴代の弟子でもこの飴を会得したものは数えるほどしかいない。大体にして、ジュエルはおかしかった。

 まず、睡眠時間が一時間しか寝ない。

 常に、薬草を生成しながら、資料を読み漁って「お姉さま、お姉さま」とまるで呪詛のようにブツブツとフラワーの名前を連呼していた。ジュエルは、疲れがあると自身に《回復》を発現して、さらに自身の作成した滋養強壮剤を水のように飲んでいた。

 さらには古来の治療法でゴムチューブの先端に中が空洞の針を使用した。点滴なるものを簡易キャスターの棒につけて学園内では過ごしていた。


 学園内では闇落ちした聖女と噂が流れた。


 心配した教員が、ダイヤモンド公爵家に連絡した。当主は「もう一度いうが、各種関係機関に……」と言いかけたときにジュエルが、ドンと机に自作の『体力回復飴』、『魔力回復飴』に各種の薬を置いた。

 控えていた執事長が《鑑定》をかけてその効能に驚愕した。

 さらには、その場で父である当主に《回復》をかけた。ジュエルの《回復》は的確に当主の内臓や体の各所を癒した。既に、ジュエルの《回復》はきっかけさえあれば大陸でも数人しか発現できない《癒し》の域に達していた。


「私の覇道を邪魔しないで」


 ジュエルはまるで父親をゴミでも見るような目で見た。


 父は心が打ち砕かれた。


 魔女がジュエルに「なにがあんたをそこまで、狂人的に突き動かすんだい」と聞いた。


「推し活ですわ」


 ジュエルは当たり前のことをいった。


 ジュエルの御付きの侍女が、それよりもまずフラワー様と縁を持てるようにご学友との交流をとったほうがいいのではないでしょうか、とはジュエルの努力に水を差すようで口が裂けても言えなかった。


「ホウホウ」


「ワォン、ワォン」


 ホクトと梟(不苦労)が呆れるように鳴いた。




 2


「よし、私からはもう教えることはないよ。合格さね。お嬢ちゃん」


 魔女から合格をいわれた。魔女は最後までジュエルの名前を呼ばなかった。この魔女の派遣は極秘裏の臨時顧問だったので、対外的にはここでの一年間は何もなかった。ジュエルの自主的な薬学同好会活動となっている。ジュエルもそのことを十分に理解していたので、魔女のことを『おばば様』といっていた。


「身体を大事に、推し活とやらはほどほどにがんばんなね。ジュエル、《睡眠》」


「ホウホウ」


「ウォン、ウォン」


 最後に名前で呼んでもらえたジュエルは安心したのかそのまま眠った。


 その後、学園では魔女とホクトに梟(不苦労)に会うことはなかった。


 ジュエルは初めて泣いた。




 3


 ジュエルはいままでの不摂生を身体が調整するかのように三日間の眠りについた。


 ダイヤモンド公爵家が寄子としている貴族令嬢たちが、義理で見舞いに来たが、侍女が「ただの過労です」というと普段の異常なジュエルを目にしている皆は納得した。そのようにして侍女は、久方ぶりの睡眠を邪魔しないように部屋には誰もいれなかった。


 その代わりに見舞いに来てくれたご令嬢には近日中にお茶会を開くのでと招待状を送った。予想だにしなかったのは、何故か三学年上のグルドニア王国第二王子デニッシュ・グルドニアに招待状が渡ってしまった。


 お茶会当日、ジュエルは出たくないと侍女に反抗した。侍女がジュエルに「もうフラワー様は十の月が過ぎれば学園をご卒業してします」と進言した。


 ジュエルは、そのことをすっかり懸念していた。侍女から「デニッシュ殿下は学園生活でフラワー様に親しい間柄です。今日のお茶会が上手くいけばご紹介いただけるかもしれません」ジュエルのテンションは爆上がりした。


 冷静に考えれば、王族に男爵令嬢を紹介してもらうという序列的になにか違うような気がすると後になって侍女も思考した。

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