第3話 チャラい奴の上司もやっぱりチャラい

「ーーはっ!!」


目が覚めると真上に私を見下ろすイケメンの顔があった。

正確に言えば押しかけ婿(強制)だ。


後頭部のあまり柔らかくなく、どちらかと言うと硬い感覚に、私を見下ろしているイケメンに膝枕されているのだと気付いた。

......役得なはずなのに素直に喜べないのは何故だろう。


「気づいたか?我が嫁」

「え。あ......はい」


ホッとしたように微笑む顔は文句無しにイケメンで美しいのだが、クーリングオフが通用しない人外の婿だと思ったらなんだかスンとなった。


そういうのは2次元だけで間に合ってます。

推しというのは自分に直接関わりのない手の届かない存在だからこそ推せるのです......別にこのイケメン竜は私の推しじゃないけど。



「ところで......グンさん?」

「なんだ?我が嫁」

「えっと......さっき何か平たい物を飲み込まされたような気がするのだけど」

「あぁ、あれか。あれは俺の逆鱗だ」

「は......?」

「逆鱗だ」

「げきりん」


ヤバい。

私の語彙力がまた幼児に戻りかけてる。


「そ......その逆鱗を飲むと何かあるんです?」

「俺の逆鱗を飲み込んだお主は俺と今世で魂が深く結びつき、同じ時を生きる事になる。当然、死ぬ時は一緒だ。そして俺の子を孕めるのもお主ただ一人となる。有り得ぬ事だが、仮に他の者が俺の子種を受け取ったとしても、お主以外は腹の中で受精すらせぬ。それに受精した子種を腹に入れたとしてもすぐに死に絶えるな」

「ひえ」

「そもそも、魂の相性が良くないと逆鱗を飲み込んでもすぐに吐血して外に吐き出されるがな」

「ひえ」


ヤバい。

今度は「ひえ」しか言ってない。

でも内容がヤバすぎて語彙力がさっきより死んで戻ってこない。


てか、なんてもんを私に飲み込ませたんだ!!



「今からでも吐き出したい......」

「そんな事をしたら神と言えどこの世界ではまだ赤子同然のお主はあっさり死ぬぞ?」

「......なぜこの世界にクーリングオフ制度が無いのか」

「くーりんぐおふ?」


さすがに向こうの世界の言葉はそこまで詳しくないのか、聞きなれない言葉に首を傾げるグンさん。

さらりと髪が揺れてなんとも色っぽい。


色々とムカつくが......やっぱ顔がいいな、チクショウ!(ヤケクソ)



「ねぇねぇ、ハナー!起きたなら旅の準備しようよ!と言っても、ある程度オーベル様が持っていく物とか準備してくれたからそれを持って行くだけで良さそうだけどね」


目の前の無駄にイケメンな顔にキレてた私に、ユグドラシルが脳天気な感じに声を掛けてきた。


「荷物ってもう用意されてたんだ?......てか、荷物ってどんな感じなんだろ」

「見てみるー?」


するといまだに膝枕されたままだった私の顔の横に、トサッと軽めの音と共に袋のような物が上から降ってきた。


「おわっ!?」


思わず飛び上がるように起きると、つい反射的にその荷物から距離を取った。


「......ふむ。見た目に反してなかなか量が多いな」


いつの間に荷物に近付いたのか、グンさんが膝立ちで中身を確認するように袋の中を覗いている。

どうやら元の世界でよく見る形の黄色いリュックのようだ。

色々ポケットのような物が付いているので登山用とか......なのだろうか?


「む?......なるほど。この袋の中は空間が歪められているのか。これなら無限に物が入りそうだな」

「わお、テンプレキタコレ」

「......てんぷれ?きたこれ?」


またもや聞きなれないらしい言葉にグンさんは首を傾げている。

見慣れたらちょっと可愛く見えてきた。


......ヤバい。

向こうの世界で拝見する事がないレベルの2次元イケメン顔のせいで、この短時間で絆されかかってるぞ私。

で......でもしょうがないよね、オタクだもの!(ヤケクソ)


「オーベル様曰く、使ってみれば分かるよ!だそうだよ」

「......もしかしてオーベル様もユグドラシルみたいなそんなノリなの?」

「ハナの言う『ノリ』って言うのがよく分かんないけど、僕は元々オーベル様から生まれたようなものだから、似てるのは当たり前かな!」


......なるほど、つまりオーベル様もチャラいと。



『はろはろ~☆ハナちゃん、聞こえてるぅ?』

「......は?」

「あ、オーベル様だ」

「いや、ユグドラシルよりチャラそうやんけ」


突然脳内に聞こえた第三のイケボな声に、一瞬気分が高揚したがすぐにスンとなった。


『あ、これ念話だよ念話~!貴方の脳内に語りかけてますってヤツぅ!』

「............なるほど」

『さっきまで悪い子を折檻しまくってたせいでちょっと忙しくってさ~。やっと時間が空いたから慌ててハナちゃんに念話したんだよね~!もうさ~首だけになっても活きがいい奴が多くて困っちゃうよ☆』

「......ヤバい、怖いし情報量が多い」

『とりあえずユグドラシルから話は聞いてると思うんだけど~ハナちゃんには僕の代わりにこの世界に綻びがないかどうか確認して欲しいんだ~』

「......綻び?」

『そう!』


どうやらオーベル様のお話を聞いて自分なりに解釈したところによると、この世界はオーベル様がもっと偉い神様から任されて守護している世界ではあるのだが、以前オーベル様より力の強い悪い心を持った神様がこの世界に勝手に侵入してきた挙句に悪さをしまくってしまった為に、他の神様に協力してもらって騒動自体は落ち着いたのだがいまだにあちこちにその悪さをした痕跡......という名の綻びが残っているのだそう。

ちなみにそれを残したままだといずれその場所の時空が歪み、異世界からまた悪い奴が入ってくる危険性があるのだとか。


とりあえずヤバいモンがまだありそうだからどうにかしてこいって話......だよね?(アバウト)


『基本的にその世界を守護している神はよっぽどの緊急事態でもない限りその世界で住まう者達と関わり合うのは禁止されていてね~。ギリギリまでお前は手を出すなって言われててさ~。でも何かあってからじゃ遅いじゃん?だからちょうどよく僕の眷族が新たに生まれたから、その子に任せよ~ってなったって訳!』

「つまり面倒事を押し付けた訳ですね」

『そうとも言うかな?てへぺろ☆』

「オーベル様、向こうの世界でもてへぺろは既に死語なんじゃない?」

『え~?マジ~?』


最後の方、オーベル様とユグドラシルのチャラい会話に遠い目になりながら、オーベル様の言った内容を反芻する。


......まぁ、反芻しなくても体良く押し付けられたという事実は変わらないが。


『ハナちゃんにはちょうどよく伴侶として古竜のジェグルド君がいるからさ~二人で仲良くちゃちゃっとやって来ちゃってよ☆現地に着けば僕がその度に説明とかフォローとか念話でするし!たぶん!』

「たぶんかい」

「......相変わらずだな、オーベル」

『あ、そうそう。ジェグルド君も僕やハナちゃん達との念話に参加できるようにしといたから!今更だけど!』

「ああ。さっきから聞こえている」


そういやグンさんがずっと黙っていたと思ったらどうやら今までのオーベル様達との会話を聞いていたらしい。

私と伴侶になったから参加出来るようにしたのかな。


「俺も我が嫁の行く場所について行くが、我が嫁にとって危険になりそうだと判断した場合は即座にその場から彼女を連れて離れるぞ」

『オッケ~オッケ~☆それで大丈夫だよ。僕だって可愛い僕の眷族が危険に晒されるのは嫌だからね~。だからハナちゃんも無理はしないでね!』

「はい、無理もしませんし何かあったらそっこう逃げます」

『あはは、その意気だよ~☆』


私の返しになんだかお気に召したらしいオーベル様がご機嫌な声で笑っている(っぽい)。


......そういや、私の謎のスキルとか肝心の袋の中身とか、あのチャラさのせいで何も聞いてないな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る