第2話 押しかけ婿は突然に
目の前に、それこそどっかのRPGゲームのように表示された青い半透明のウィンドウをそっ閉じすると、私はまた大木を見上げた。
「あの......ユグドラシル、さん?」
「僕の事はユグドラシルと呼び捨てで構わないよ。ところで君の事はハナと呼んでいい?それともハナちゃんとか......あ、もしかして他に呼び名がある?」
「いや、ハナで大丈夫です」
「オッケー!」
相変わらずこの大木は謎にチャラそうな喋り方でちょっと困惑する。
声はイケボなのに......てかそもそも木が喋る事自体がおかしいのだけども。
「君のステータス画面に表示されてたと思うけど、オーベル様は君の神格を上げて一人前の神にする為にもご自身の代理として君に使命を与えたんだ。僕も代われるものなら代わりたいけど......いかんせん歩けないからねぇ。だって木だし」
「(むしろこの木は喋る以外に何が出来るんだ......)そもそも、なぜオーベル様は私を神様に転生させたんです?」
「うん、もっともな質問だね」
大木の上の方にある葉が一斉に揺れてこちらまで振動が伝わる。
その振動で高いところから葉っぱが落ちてきて少しビビる。
「君がさ、とある人物......いや、とある生物と魂の相性が良かったらしくてね。でも神格化も有りうる種族であるその長命種の彼と釣り合う種族がなかなかいなくて、それならちょうどオーベル様の眷族の枠に空きがあるからその枠で転生させちゃおーってなったって訳だよ」
「............はぁ(何で人物から生物に言い換えたんだろ)。ところで質問なんですけど、魂の相性ってなんですか?」
私の質問にまた大木が揺れて葉っぱが上から落ちてくる。
とりあえずビビるからやめてほしい。
「あ、向こうの世界には人間しかいないから分かんないのか!魂の相性が良いという事は、つまり伴侶......彼的には番として相性が良いという事なんだよ。つまりベストパートナーって事!」
「......べすとぱーとなー」
思わず真顔で呟いてしまった。
理解が全く追いついてないけど、とりあえず私はこの世界で伴侶候補が既にいるって事、か?
いやでもさっき人から生物に言い換えられてたから......まさか人じゃない可能性......?
「あ、噂をすれば来ちゃったみたいだよ」
「え?」
待って、何が来ちゃったの......?
すると突然、目の前の花畑に大きな影が出来、光が遮られた。
そしてどんどん上から風が吹き込んで来て、ユグドラシルの葉や周囲の花が風に巻き上げられていく。
「え、なに!?なになに!?」
「ハナ、落ち着いて。君のベストパートナーが到着したんだよ」
「いやこれ絶対人じゃないでしょ!?」
叫びながら大木にひしっとしがみつき半泣きで叫ぶ。
すると上からユグドラシルとはまた違うイケボが聞こえてきた。
『......我が嫁は人の姿の方が良いのか?』
「ぐはっ!」
「え、どうしたのハナ!?」
あああああああ!
なにこの孕ませボイスぅぅぅ!!
でもこんな時に聞きたくなかったぁぁぁぁ!!
すると先程まで暴風のように巻き上げていた風が止み、上から葉っぱや花びらがヒラヒラと落ちてきた。
大きな影もいつの間にかだいぶ小さくなっており、光もまた差し込んできた。
「......な、なんだったの?」
私が呟いたと同時に目の前にズサッという葉や土を重めに踏みしめる音が聞こえ、そこに1人の大柄な人間が立っていた。
「会いたかったぞ、我が嫁。さっそく夫婦の契りを交わそう」
「..................どちら様?」
□ □ □ □ □
「俺の名はジェグルド。ここから遠く離れた古の森に住む古竜だ」
「こりゅう」
「そう、我が嫁にはドラゴンと言えば分かりやすいか?」
「どらごん」
......うん、なんだか幼児のひらがなで喋っているかのような言い返しでスマン。
ちょっとまだ頭が現実に追いついていないんだ。
それと私は結婚する前に嫁になった覚えはない。
「............」
ちらっと目の前の男を見る。
私の目の前で胡座をかいて座っているのはさきほど上から落ちて......降りてきた大柄なイケメン。
本人曰く、本来は竜体なのだが相手に合わせて人間体にも姿形を変えられるらしい。
いっつふぁんたじー!(ヤケクソ)
日焼けしたような少し浅黒い肌に光が当たってキラキラしている金色の長い髪はウェーブがかかっていて背後に適当に流している。
瞳の色も金色で睫毛はマツエクでもやってるのかと聞きたくなるほど長い。
左目の下の泣きボクロがとってもセクシー。
「古竜は始祖の血を継ぎ長い時を生きる竜と言い換えるべきか。今この地にも竜は数多くおれど、俺のような古竜の血を持つ者は他にいない。人間風に言えば【血統証付きの竜】と言ったところか」
いや、例え方がペットショップの犬猫やないか。
てか、この世界にもペットショップってあるんか......?
「ちなみにその辺の竜と比べても圧倒的に古竜である俺の方が強い。他は所詮混じりものだからな」
「はぁ......」
どうだ凄いだろと言わんばかりに胸を張っているイケメンを見て小さくため息をつく。
「どうした、我が嫁」
「いや、あのですね......えっと、ジェ......ジェグなんとかさん?」
「ジェグルドだ。だが我が嫁にはそんな他人行儀に呼ばれたくない」
「(え、めんどい)......では何と呼べば?」
「それは我が嫁が決めろ」
え......めっちゃ面倒。
とりあえずあだ名呼びしてほしいって事なんだよね?
「じゃあ......ジェグさん?」
「音の響きが悪い」
いや、そっこう却下かよ!
私に決めろって言ったくせにー!
「ぐっ......じゃ、じゃあグルドさん」
「知り合いに似たような名前の奴が居る」
はぁーーーん!?
これも却下かよ!
あと何があるっちゅーねん!!
「えぇ......あと何があるの......」
「何かはあるだろう?」
いや、却下した本人が言うなよ。
なんだこのめんどくさいイケメン......。
「(あーもう!)じゃあ、グンさん!」
「......ふむ、それで我慢しよう」
ヤケクソで適当に叫んだら採用されたらしい......渋々だが。
いやもう誰かこのめんどくさいイケメン引き取ってくれ!
「それで?我が嫁は俺に何か聞きたかったのだろう?」
「......あ。そ、そうだった」
いや、アンタの名前に関するいちゃもんのせいで忘れてたんだよ!......と、叫びたかったが賢い私は自重した。
「ステータス画面とユグドラシル曰く、オーベル様の代わりにこの世界を見て回る任務を私に任されたらしいので、準備諸々出来たら旅に出ようと思うんですけど。グンさんはいつまでここに?」
するとグンさんは泣きボクロが実に色っぽいそのイケメン顔をキョトンとさせると、何言ってんだコイツみたいな顔をして呆れたようなため息をついた。
「何を言っているんだ?我が嫁よ。俺がせっかく見つけた伴侶の元を離れるわけがなかろう」
「は......?いや、そもそも私は貴方の伴侶ではーー」
「竜の
なるほど、つまり魂レベルのストーカーですね。
......いや、魂レベルってなんやねん。
私の中のエセ関西人がちょいちょい出てきて困る。
するとそれまで黙って聞いていた(寝てないよな?)ユグドラシルが面白そうな声音で会話に入ってきた。
「諦めなよ、ハナ。ジェグルドは1000年以上もハナがこの世界に来るのを待ってたんだ。たまたま向こうの神がオーベル様に接触してきて君という魂の存在を知ったのだけど、ある意味これは必然なんだよ」
「必然......」
「そう。伴侶の転生先が別の世界だったせいで伴侶に今世では一生出会えなかっただろうジェグルドが、オーベル様の計らいで君という伴侶を見つけてしまった。きっとこれはそういう事だったんだよ」
いや、どういう事やねん。
とりあえず......うん。
あれだよね、魂レベルのストーカー(自称伴侶と言うか婿)に見つかったから私はもう逃げられないって話かな?
「理解したか?我が嫁よ。では旅に出る前に夫婦の契りを交わそう」
「......ん?え?いや、てかその夫婦の契りって......」
何?と聞こうとしたと同時にいつの間にか迫っていた目の前の男に地面に押し倒され、何が起きたか分からず混乱している私の視界一面にイケメンのドアップが見えたかと思ったら唇に何かが当たった。
「ーーー!?」
なにこの感触............って、え?
ちょっと......ちょっとお待ちになって?
私今あの自称伴侶の竜にチューされてる!?
混乱を極めて固まっていたら何かぬるりとした温いようで冷たい物が口の隙間から割り入るように入ってきて、その冷たい物と共に何か平たくて硬い小さな物体を喉の奥に唾液と共に流し込まれた。
そして若干の苦しさと妙な感覚に、思わずごくんとそれを飲み込んでしまった。
「ーーーっ!!(なになにー!?何が起きてるのぉぉぉ!!??)」
すると満足したのかその冷たくてぬるりとした物は私の唇をぺろりと舐めたように這うと離れていった。
「フッ......これで正真正銘、お主は我が嫁だ。不束な婿だがよろしく頼むぞ?」
「うわぁ~......僕ちょっとドン引きしちゃったぁ......」
ドヤ顔で私を見下ろすイケメン竜改め婿(強制)と、楽しげだがちょっと(いやかなり)引いてるユグドラシルの声を聞きながら、私は意識が遠のくのを感じた。
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