第2話 革命神器ヴィクトリア 始動編

ヒーローは現実には存在してはならない。

妄想の中だけならともかくもし実在するとしたら…

許されるはずの些細なミスを許されない大罪だった事に仕立て上げられ、死刑相当の罪すら犯していない人間達が死ななければならない極悪人だった事にされ理不尽に命を奪われる。

何より理不尽なのは自称ヒーローによる虐殺が正当化される事だ。

かわいそうな犠牲者にすらなれない。

「死んで当然のクズ共がくたばって清々した」

「自分はあの悪人に苦しめられていたんだ。助けてくれてありがとうヒーロー」などとのたまう人間まで溢れかえる始末だ。

これ程までに凄惨な尊厳破壊が存在するだろうか。

いや存在しないだろう。

だがそんな理不尽がまかり通ってしまった。

「メアリ!ジェシカ!死んではなりません!目を開けなさい!」

肉片まみれのこの場所においては珍しく五体満足の死体に無意味に叫ぶ天使の女。

彼女の名はマティエル。

「生意気な目をしているなぁ…きひひ…まるでボクらの事を悪者扱いしてるような目だ…」

目の前にいる女は「無能災害累計死傷者77億人(全員悪人)〜褒められて伸びるタイプの僕は無能を卒業してクズ共を根絶します!〜」の作者であるガネット。

仲間を引き連れて天人共和国アマルシアにて革命を起こした。

そして数え切れない程の命を奪った。

その手に持っている武器は革命神器と呼ばれるものだ。

窮地に追い込まれた人間が自分の精神力を武器の形に変質させる事で生まれる武器という言い伝えが残されているが真相は定かではない。

「何をしたのか…分かっているのですか…!?今貴方が殺した人達は全て私の子供達です。優しくひたむきな子供達です…誰一人…死ぬべきではないのですよ…!?それを…貴方は…」

天使マティエルは慟哭した。

彼女はアマルシアを統治する天使の女王で彼女の手腕によって人と天使が手を取り合うこの国が築きあげられてきた。

国民を我が子同然に扱い時に厳しく時に優しく接する彼女は天聖女様と呼ばれ慕われていた。

全てが順調だった。

この日が来るまでは。

「違う違う、お前は許されない事したみたいに言ってるけど全部正しい事なんだよ。ボクが今倒したクズ共は何の罪の無い人々を殺しかけた直前だったんだ!被害者は数日前に避難させたから結局未遂で済んだ。だけど苦しみと罪は消えない。第2第3のターゲットを見つけられても困るし見て見ぬふりする奴らごと纏めて処理したんだよ!ほらな、ボク何にも悪くないだろ?」

この女。ガネットはいつも通り理解不能な言い訳をする。

嫌がらせをされたせいで上手く行かなかったから責めるならそいつらにしなよ…

困ってる人を助けていたから間に合わなかったんだ…え?助けるなって?それ助けた本人の前で言いなよ、迷惑だから助けを求めず死ぬべきだったって…などと事ある毎に彼女は言い訳を繰り返していた。

「ガネット!!いい加減にしなさい!!何が不満だったのですか!?どんな不甲斐ない人間でも…悪趣味な小説を書いていても…いくら支離滅裂な言い分けをされても優しく接してきました……同じアマルシアの一員として共に助け合ってきたじゃないですか!?」

アマルシアではただ成果を出せないだけでは酷い扱いは受けない。

まだ成長過程というだけだからだ。

だがいつまでも言い訳し続ける人間は改善点の指摘を聞き入れないが故にいつまで経っても成長する事はない。

ただ未熟なだけの人間と違って彼らは蛇蝎の如く嫌われる。

当然である。

だがマティエルはそういった人間を見捨てず教育し続けてきた。それが惨劇のトリガーになるとも知らずに。

「傷つく仲間を減らせるならなんだってやって見せるよ。いつだってヒーローの戦う理由は守るためさ………………けどね……」

発言の一部分だけ小声になり聞き取れなかった。

マティエルは武器を振りかざし戦った。

絶対に負けてはならない戦いだった。

なぜなら正しかった事になるからだ。

「死になさい!地獄に落ちるのです!」

愛しい我が子の命を理不尽に奪った自称ヒーローの虐殺が。

そして彼らが死ぬべき存在だった事になんて死んでもされたくなかったからだ。

「殺せなければ!そうでなければ……」

生き延びる確証なんて無いがもし生き延びる事ができたらこの国を作り直そう。マティエルは革命の原因をこうだと考えた。

弱者に優しくしすぎたと。

彼女の中に弱者への憎しみが芽生えた。

「死に絶えなさい!!役立たずの癖に嫌がらせには全力を尽くす…弱者共おおおおおおおおおお!!!」


それから10年の月日が流れた。

最悪の虐殺者ガネットを討伐したマティエル。

あまりにも多くのものを失い深く傷ついたにも関わらず、彼女は止まらなかった。

まず行き場の無いもの達を集め。失った人工を埋めた。

そして徹底的な教育を施し仕事のための力を身に着けさせた。

最初は革命の件もあり懐疑的な視線も集まったが最終的には彼女の慈愛を皆が実感するまで時間はかからなかった。

そして何より重要なのが法律。

もうあんな悲劇を繰り返さない為に…生まれた…生まれてしまったのだ…

【弱者管理法】が…

内容はこうだ。

・本来アマルシアは人となりで区別はしない国だが、かの虐殺を二度と繰り返さない為に不穏因子の管理を目的とした法を設ける事。

・アマルシアにおいて弱者とは未熟な新人なら誰もが受けるであろう改善点の指摘を勝手な理論で拒絶し、それ故に成長しない者を指す。

虐殺者ガネットもこの条件に当てはまる。

・故に該当人物には監視者を設け四六時中監視される義務が発生する。

指示通りに生活すれば緩和も有り得るので反省して業務に励む事。

・それでも尚改善の余地が見られなければ相応の処分を行うので留意する事。

以上だ。

虐殺の生存者が再発を防ごうとするのは当然の事だと、当時の国民は思った。

実際にこの法律によって危険人物の監視を徹底した事でほぼ全ての悪事を未然に防ぐ事ができ犯罪は激減。

治安は世界で五本の指に入る程向上していた。

「マティエル様は最高です!たった十年でアマルシアを再興させるなんて!ここ程住みやすい国は存在しません!」

「マティエル様万歳!アマルシアに栄光あれ!」

「ふふふ…皆さんのがんばりあってのアマルシアです。今日の働きも期待していますよ…」

「マティエル様って美しくて優しいし、間違いを許さない正義感まで持ち合わせてる理想の存在だよな!」

「天聖女様の微笑む姿を見たら瀕死でも24時間働けちまうよ…普通はな…」

理想的だった…表面上は…


……

………

違う…ガネットさんは悪い人じゃない…

落ちこぼれのディーを…助けてくれたんだ…

幸福な人間は悪事に手を染めない。

罪を犯すのは現状に不満がある人間だ。

少なくともアマルシアではそう言った認識がまかり通っている。

故に隠蔽はいともたやすく成功する。

国民は夢にも思わないのだ。

優秀であるが故に何不自由無い生活を送っている人間が、横暴さを指摘された程度の事で人を殴る事があると…首を絞める事があると…

だから性根の腐ったアマルシアの国民達は社会的地位の低い人間を見つけては徹底的に虐げる。

終わったら適当に隠蔽すれば、それだけで完全犯罪の出来上がりである。

「あ…あが…苦しいよ…離し…てぇ…」

ディーは今まさに命の危機に瀕していた。だがその苦しみはすぐに終わる。

「子供の首を絞める事にしかその両手を使えないならそんなもの必要ないだろう?もちろんその命も」

ユディが現れたからだ。

彼女は男の両手を剣で削ぎ落とした。

「も。もうしないからゆるぷげらっ」

綺麗な外見とは裏腹に汚れきった心を持った邪悪な人間は命乞いするもすぐさま頭を吹き飛ばされ二度と他者を傷つける事ができなくなった。

「こいつに苦しめられてたんだよね?もう大丈夫だよ、地獄に落としたからさ」

「あ、あなたは…」

「ボクはガネット…ガネット=リィメシア…君を助けに来たヒーローだよ!」

笑顔で名乗るユディに対しディーは何処か悲しげな雰囲気を感じ取っていた。


「ディー=イルブレス!もう少し早く運んでこれないの!?他の子はもっと優秀なのよ!」

「ご、ごめんこれでも無理して運んでるんだけど…」

「だったらもっと無理しなさい!それと何度も言ってるけどね?言い訳は成長を妨げるの!分かる…?無理してるから遅くてもしょうがないなんて二度と言わないで!」

「はぁ…言って分かってくれればもう少し優しくできるのに…」そう言って去る同期の天使

結局ディーの扱いは落ちこぼれのままだ。

だが何もしていないという訳では無い

行き場の無い人間を受け入れるアマルシアだが実質的には優秀なものにしか人権が与えられていないというのが現状だった。というのも…

「ろくに仕事もできていないのに何をしているのですか…?小説…?」

「や、やめてくれ!生き甲斐なんだ…奪わないでくれ…」

「【ユニークスキル【友情覚醒】を持つおれゴミ扱いされた前パーティでは最弱だったが追放されておれを認めてくれる仲間を見つけて最強になる〜おれを追い出したパーティメンバーの故郷がボスモンスターに襲われてるだって?おれを追放した報いだ後悔しやがれw】…?」

「生き甲斐ですか…?なるほど。こんなものを生き甲斐にしているから成長しないのですね…?」

そう言って原稿を破り捨ててしまう天使

「あ…ああ…あああああああ!!」

「読書は嗜みます。あなたの駄目な所を挙げて差し上げましょう。追放ものなんて類似コピーが溢れかえっているジャンルを何故わざわざ選んだのですか?

タイトルの時点で分かります。

この小説にはオリジナリティがない。

はっきり言ってオリジナリティがあって面白い作品以外は書くだけ無駄です。

軽く調べただけで六桁は出てくる小説の内容を混ぜ合わせただけのゴミなのですから破り捨てられて当然です。

そして何より…自分は何もしていない癖に気に入らない人間を陥れる内容の小説を書いていると言う事…他者に対する悪意が散見されますね…虐殺者ガネットと同じです。これは完全に黒でしょう。貴方達!首輪と手錠を持ってきてください!監視対象10-SAYに「処置」を与えますよ!」

「くっクソ…!さっきから言わせておけば…小説をさんざん馬鹿にした上に首輪だと!?許せねえもうこんな国おさらばだ!その前にお前をぶん殴って…ぐぁぁ!!」

「お喋りが過ぎますね。それが貴方の敗因です。この数秒の隙に不穏因子制圧用銃で脚を撃ち抜く事ができないわけないじゃないですか」

「ひ…酷い…」

「実は腕を撃つ事は禁止されてるんですよ。作業に響いちゃいますからね。脚だけで止まってくれて良かったです。逃がしはしませんが歩けなくなっても私がお世話しますから…♡」

「お、お前に罪悪感は…ねぇのかよ…殺してやる…!」

「罪悪感…?犯罪も犯してないのに…?

でもそうですね…貴方が国内で最も役に立つ存在になったら私の命くらいなら上げましょう…殺してくたさい…♡マティエル様もその方がお喜びになるでしょう…最も、絶対できないから言ってるんですけどね…」

なお彼女の理論は追放ものの小説が好きな人間が山程いるという事実を度外視している時点で破綻している。

需要がある時点で面白くないものではなく自分には合わないものに過ぎないのだ。

それに本当に類似コピーが溢れかえっているなら1作品だけしか読まれないはずだ。

実際には1つ1つの作品が多数の人間を楽しませているのだからこの理論も間違っている。

最もそれらの事を提示しようものなら読者全員を弱者認定するだろうが。

アマルシアでは自分を認めない人間への敵意が籠もった小説と言うのはガネットの件も相まって攻撃の対象になってしまうのである。

実の所整合性など二の次でただ気に入らない人間を形成する全てに対して揚げ足取りをしたいだけなのだ。

これが現アマルシアの裏の顔である。

優秀でない人間は弱者という言葉の名の下に自由も尊厳も何もかも奪われる。

天使達の監視対象に対する扱いは地獄そのものであった。

このような非人道的行為に及ぶ天使は彼女だけではない。

マティエルの思想に染まり大半の天使は狂ってしまったものの何事も例外は付き物である。

アマルシア周辺の人気の少ないはずの廃墟で変わり者の天使と人間達が集まっていた

「お仕事頑張ったね!ご飯の時間だよ〜」

「メリールちゃん!寂しかったよ…でも励ましてくれる君の事を考えたら頑張れたんだ!」

「えへへ〜♡それほどでも〜…所で計画は順調?」

「監視対象者避難作戦だよな?詳しく説明すると長くなるから後で纏めて話すけど一言で言えばあと一歩って感じだ。来週頃には実行に移せるぜ!」

「このままアマルシアにいてもどのみち生きる術はない皆を助けたいってメリールちゃんの優しさに、ここにいる人達は救われたからね。私達も力になれて嬉しいよ」

「ただいま…皆、あっちの仕事をカモフラージュにしながら作業するの下手すぎてまた怒られちゃった…」

ディーが未だに落ちこぼれ扱いされている理由がこれである。

本当に必要な事を隠れて行っているからだ。

「ディーちゃん!お帰り〜無事で良かったよ〜」

「でもほんっと許せないよね〜こんなかわいくって優しいディーちゃんを事ある事に怒鳴りつけるなんて」

「ね…ねぇ…相談なんだけど準備ができてるなら早めに逃げてよ!多分だけどバレかけてるから…そしたら殺されちゃうよ!救える人数を増やせたとしても皆に犠牲になってほしくない…代わりにディーが頑張るから…」

「むぅ…それ私達もおんなじ気持ちなんだけど…」

「ご、ごめん…」

「はっきり言うね…この中の誰か1人でも死んじゃうなら私も死ぬから!…これでディーも生きるしかなくなったよ♡残念だったね?」

「えぇ!?」

「諦めなディー、メリの奴一度こうと決めたら絶対曲げない頑固娘でよ…その頑固さに俺等は救われたってもんよ!なぁお前ら?」

「メリールちゃんは天使だよ!種族じゃなくてあり方がね!」

「違いねえ!カカカ!」

(十年前…ディーはガネットさんに助けられて命を救われた…でもガネットさんはディーが人質になったせいで………だからディーの命1つで救えるものは全部救い尽くしたいのに…)

ここで文句の1つでも言ってしまえば二度と戻ってこないような気がして何も言い返せなかった。


次の日…1月9日、今日は新生アマルシア建国日の記念式典が執り行われる日である。

「アマルシア様の演説が始まるぞー!」

「なんて美しく気高い姿なんだ…!さすが天聖女様…」

「あの大虐殺から十年。アマルシアはあの日失ったものを補い尽くす所かそれ以上に成長していきました。それも全ては皆様の頑張りのおかげ…そして迷惑な人間を区別・管理する弱者管理法のおかげです。それによってアマルシアではほとんどの犯罪を未然に防ぐ事ができました。今ではアマルシアは最も理想的な国とまで呼ばれています。ですが満足してはいけません。何故なら最近不穏因子が増え始めたのですから…貴方達、連れてきなさい!」

「はい!」

荷台に乗せて運ばれて来たのは脚を削がれた弱者達だった。

「うぅ…助けて…誰か助けてくれよ…」

「俺達が何をしたっていうんだよ!」

「黙りなさい!マティエル様の御前ですよ?」

そう言って1人の弱者の胸を銃が撃ち抜いた。

「は?」

弱者は死亡し、周囲の弱者は狼狽える。

「私の判断で弱者を処分してしまい申し訳ありません。罰が必要ならなんなりと」

「構いませんよニノ、黙るべき時ですら騒がしく喚き立てる弱者達を黙らせる方法として最適な方法なのですから…」

「役立たずで醜い弱者共に容赦ない姿…美しい…」

「あのままなんの制裁もなく生かし続けてたら殺人に手を染めて何の罪も無い人々の命が失われるかもしれないと思うとそれだけで恐ろしくなるな。これだから反省しない弱者は嫌いなんだ。」

「彼らの罪はろくに働きもしないにも関わらずある内容の小説に熱中していた事です。該当が複数存在しますがその内の1つを上げるとすれば…」

「【ユニークスキル【友情覚醒】を持つおれゴミ扱いされた前パーティでは最弱だったが追放されておれを認めてくれる仲間を見つけて最強になる〜おれを追い出したパーティメンバーの故郷がボスモンスターに襲われてるだって?おれを追放した報いだ後悔しやがれw】」

「!?」

ディーは驚いた。

この場に真っ当な感性を持つものがいるとすれば、彼らも衝撃を受けていただろう。

小説を読んだだけで…たったそれだけの事で罪!?そんなの横暴すぎる…

「ううっ…タイトルが気持ち悪すぎて吐き気が…申し訳ありませんアマルシア様…下がらせて頂きます」

「心配は無用です。タイトルを読んだだけで気持ち悪くなるだろうと予測して事前に代役は用意していますから」

「うわぁ…弱者っていうのはこんな気持ち悪いものを好むんだ…害虫の方がマシだよこんなの…」

「こんなん読んでたら普通死にたくならない?ならないから弱者なんだろうな」

「該当作品には自分を認めない人間が、本当は優秀だった自分を追い出した事を理由に破滅する展開が一致しています」

「こんなものを好んでいる弱者達に告ぎます…恥を知りなさい…!」

マティエルは涙を流しながら怒る。

「嫌いな人間が酷い目に合う妄想をどれだけしたとしても現実は変わらないのですよ…?気に入らない事があるなら妄想に逃げるのではなく…現実を変える努力をしなさい!(なおこの条件だとガネットも当てはまるのだがあくまで否定したいだけで整合性など二の次である為誰も指摘しない)弱者ではない真っ当な人間はちゃんとそれができている…その真っ当な人間というのは貴方が…嫌っている人間も入っています!自分が変わる努力をしようともせず自らの手を汚さない方法で陥れようとするなんて…彼らにも家族や友人がいるのですよ!?貴方達に人の心はないのですか!?

私は国民達の事を家族同然の存在として愛していますが貴方達弱者は嫌いです。だって破滅させるのでしょう?気に入らないからと言って。破滅するべき人間がいるとすればそれは貴方達です!全身に天罰烙印をします!ありったけ持ってきなさい!」

「はい!直ちに!」

「死にたくても死ねなくしてやるからな!覚悟してろよ弱者共!」

天罰烙印とは天使の技術で改造され温度や与えられる痛みを爆造させた強化版烙印である。

(烙印とは鉄製の印を焼いて罪人に押しあてる刑罰用の道具の事)

弱者の癖に民を気持ち悪い小説で怖がらせた事は大変罪深いので全身に天罰烙印を押し付けられる事になった。

炎や雷を纏った天罰烙印によって恐らく数分もすれば廃人と化すだろう。「ぎゃああああああああああああああ!」

「やめてくれえええええええええええ!」

「ぐげああああああああああああああ!」

「弱者の癖に無実の俺達を陥れる妄想なんかするからだ!ザマーミロ!」

「はははは!これだから弱者処刑は面白いんだよなぁ!どんな娯楽よりもよっぽど笑える」

「こんな何の約にも立たない事する暇があったら真面目に働けないの?」

「弱者ってバカしかいないんだからできるわけないじゃん、弱者は私達とは別の生き物だって」

「あははそれ言えてる!害虫以下なんて言われてるくらいだしね〜」

「恐らく存在しないと思いますが…弱者達がかわいそう…もしくはこんな仕打ち酷すぎるから辞めるべき…などとのたまう輩はいませんね?今回の件で理不尽に苦しめられた者達の痛みは天罰烙印の力を超越しています。弱者達の罪に相応しい程の刑罰と言うのは残念な事に存在しないのです」

アマルシアのほとんどの国民は無実の人間を弱者呼ばわりした上で虐げていいと本気で思い込んでいる。

改善点の指摘を拒絶する成長性皆無な無能をかつてのマティエルは優しく扱ったがそれ故に弱者達が付け上がって凄惨な虐殺に手を染めたと…彼らは本気で思い込んでいるのだ…

否…かつてのアマルシアにおいても弱者に対する扱いは地獄そのものであった…

そもそも彼らは無能などではない。気に入らない人間を弱者扱いして虐げる国民達によって本来の実力を発揮できなくなっているだけであり実際は優秀なのだ。

その嫌がらせが無ければガネットは言い訳なんてしなかっただろう。

おまけに嫌がらせをしている者達が手柄を奪い取り失敗の責任を押し付けてしまう。

隠蔽されているがこの国に置いて真の無能は弱者扱いされていない国民の方である。

手柄を横取りするせいで気づかれないが、嫌がらせばかりでろくに仕事をしないからだ。

「まだ弱者処刑は終わっていませんよ?最も罪深い弱者が残っているのですから…小説の作者を連れてきなさい!」

「はい!」

「ひっ…!」

出てきた弱者は脳を巨大な蜘蛛型の機械から出る針に抉られていた。足を削ぎ落とされた代わりに機械の足が無理矢理刺さっており、手には鋭利な刃が刺さっており全身から流血が止まらない。

そんな怪物のような弱者が出てきた事によって国民から恐怖の悲鳴が聞こえた。

「ロシテ…コ…コロ…」

「貴方達に問います…弱者が憎くないですか? 仕事を与えれば、人並み以下しかできず、改善点を指摘すれば責任転嫁したり被害者面して激昂すらしてしまう。

間違いを認めないからいつまで経っても成長する事すら無い。

仕事は録にできない癖に気に入らない人間に対する嫌がらせには全力を尽くす…

その嫌がらせに私達は苦しめられてきました。

ですが苦しめられたと同時に邪悪な弱者に打ち勝ってきたのも私達です。

ですが他国はどうでしょうか?管理法さえなく弱者に対抗する手段を持たない彼らはただひたすらに奪われていきます。

繰り返しいいますが弱者は禄に仕事はできない癖に嫌がらせには全力を尽くします。

するとどうなると思いますか?

結果を出せないから迷惑な無能扱いをしただけなのに無能扱いしていた人達を陥れようようとするのです。

彼らが何の罪を犯したと言うのですか!?

虐殺の生存者だけでなくこの国へ訪れた難民にも弱者の被害にあった人間は多いと聞きます。」

「そ、そうだ!弱者共のせいで俺たちは苦しめられてきた!アマルシアだけじゃない世界中の弱者が報いを受けるべきなんだ!」

「弱者を皆殺しにすれば弱者に殺された弟も天国で安らかに過ごせるはずだ!彼らは死ぬべきなんだ!世界平和のために!」

「その通りです…ですので…このような刑罰はどうでしょう?これからこの弱者鎮圧兵器【ストロンガー】を弱者達に装着します。これを付けた弱者は命令に逆らえなくなります。命令内容はこうです。【弱者を見つけ次第引き裂いて喰い殺しなさい】」

「ヤ…ヤリタクナオイシイイイイイイイ!!!!」ぐちょぬちゃぐちょぬぷっパリゴリッ

もう既に廃人と化している弱者はもはや抵抗すらせずに喰われて死んだ。

「この【ストロンガー】を世界中に弱者駆除の為に配布し1人でも多く弱者を減らしていこうと思います。友好関係のある国とは既に了承も取れていますのですぐに成果が表れるはずですよ」

「ウマイ!オレノドクシャ!ウマオエエエエエエ!!!!!」

血の涙を流しながら弱者を喰らい嘔吐する弱者。

途端に爆笑が巻き起こる。

「最高かよ!あの憎き弱者が弱者を喰い殺して吐きやがった!美味いのか不味いのかはっきりしろよw」

「アマルシア様はこのストロンガーで世の中に蔓延る弱者共を根絶するつもりなのね!最高だわ!もうこれで弱者と共に犯罪が消えるはずよ!」

「こんなに笑える弱者処刑は生まれて初めてだぜ!家族を皆殺しにされた日には2度と笑えないと思ってたのに不思議なもんだな!」

「やめ…やめて…なんで皆笑ってるの…?」

弱者の味方である事をディーは隠さなければならなかった。

「人を陥れる事が許されないなら皆がやってる事はなんなの…?」

全てを救うために時間をかければ仲間を失う事になるかもしれないとディーは思っていた。

「弱者の皆何かより…よっぽど陥れてるんじゃないの!ねぇ…おかしいよ…」

「おかしいのはてめぇだクソ天使」

実際、その考えは正解だったのだ。

メリールの命を犠牲にしてでも、自分の命を捧げてでも救えるものだけでも救うべきだったのだ。

ディーは殴り飛ばされた、隣にいた天使によって。

「……っかはぁ!」

「マティエル様〜やっぱオレのアイディア大成功だっただろぉ?弱者をテキトーにぐちゃぐちゃにしてたらバカ弱者が釣れるってさ〜、怪しかったバカ天使を見張ってて正解だったわw」

「ターシュ、ご苦労様です。口は悪くてもきっちりと仕事はこなす。まさに模範生と言っていいでしょう」

「だろだろぉ!オレって最高だろ!どうせちょっと揺すれば死ぬほど余罪が見つかるぜ?」

「あ…あぅ…」

「例えば弱者を庇ってるやつらの名前とかさ〜そしたら一網打尽にできるだろ?そしたら俺は弱者による大量虐殺を未然に防いだ英雄として崇められてもいいはずだ!」

「う…うぅ…」

「おい?唸ってないで何か言えよ!弱者庇ってんだろ?」

「なんで…こんな事がで「なんで‘’なんで‘’なんて言えんだよ?」

「!?」

「加害者の癖に被害者面するやつ、マジで気持ちわりぃわ…許されるなら京回殺してんのによぉ…尋問で仲間ん場所割れた後の楽しみって事にしてやるよ。弱者に人生めちゃくちゃにされた奴ら集めて流血させながらレイプし…

彼女はその言葉の続きを言えなかった

「は…?」

「何が…起こったんだ!?」

頭と胴体が分かたれたものが喋れるはずがないからだ。

「まったく自称強者ほど救うに値しないものほどないのに…まだ粋がっているのかしら?」

幼い体躯とは裏腹に彼女は美しかった。

外見だけではない…生き方そのものがだ。

革命神器を用いて最低最悪の暴力レイプ女を打ち倒した。

この場にいる全てが、おぞましい怪物にしか見えていなかったディーの目の前にそんなものが現れてしまったから…

「綺麗…」

ディーはそんな事を口にした。

「この国で最も美しいのはあなたよ…だから守りたいと思ったの」

「あ、あの…貴方は…」

「あたし…?あたしの名前はレパード=リィメシア…正義のヒーローよ」

悲しげな雰囲気を纏った笑顔は誰かを想起させた。

これが全ての始まりだった。

救いの光が降り落ちて尚絶望的な状況。

ディー達はここからどう活路を切り開き弱者達に救いを齎すのか。

続きはまた別の機会に…

続く


「おもしろかったー!ねぇねぇ、ディーちゃんとレパードちゃんはこれからどうなるの〜?」

「寝る前の読み聞かせは一冊までって約束でしょ?また明日になったら読んであげる」

「う〜気になるよ〜!」

「カナリアは元気ね、まぁいいわいつも通り歌を歌ってあげる。貴方の大好きな歌よ」

「わ〜い!あおはねのうただ〜!」

「〜♪〜」

優しさの籠もった歌を母が歌うとカナリアは徐々に瞼を塞いでいく。

「すぅすぅ…」

「貴方は気づいてないみたいだけど、この歌はレパードさんが作ったものなのよ…ふふっ、この街に彼女達が訪れているって知ったら驚くかしら?」

こうして夜は更けていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る