第5話 武勇祭の序章
「アイン・ベルガー、食事しながらでも結構ですから、武勇祭について説明します」
僕はおなかが空いていたので、食事を再開した。
「武勇祭では、三対三で試合をします。私たちを含めて十三組のチームが参加しています」
十三組ということは、三十九人いるのだろうか。
「最低でも一日に一試合する決まりになっています」
彼が補足した。
「試合の結果に応じて点数がつけられている。だから、一戦でも多くの試合をしたいんだよ」
点数と聞かされると、まるでテストされているかのような気分だ。
「アインくんが参加してくれて本当に助かったよ」
彼女が真剣な表情で続けた。
「武勇祭は遊びではありません。私たちアルカニストの研鑽の日々を発揮する場なんです」
僕は学園について、まだ何も知らない。アルカニスト同士で戦闘する行為は貴重な経験なのだろう。
「クリス、アイン・ベルガーを守ってください。私が全員を相手にします」
「わかりました。二人のカテゴリーリーダーはどうしますか?」
彼女は顎にそっと手を当て、目を閉じた。彼が口を開いた。
「リーダー、俺がアインくんを守りながら戦います」
彼女が目を開け、僕を一瞥した。
「クリス、心苦しいですが、よろしくお願いします」
僕が足を引っ張っているのは自覚している。おいしい料理が味気なく感じられた。僕が落ち込んでいると、彼が僕の肩に優しく手を置いた。
「俺が無理に誘ったんだ。だから、アインくんが気にする必要はないよ」
もし、僕のせいで二人が危険にさらされたときは……。
僕はテーブルの下で拳を握り締めた。覚悟を決めろ、と自分に言い聞かせた。
食事が終わり、食器を返却し、席に戻った。
「それでは、デュエルパレスに向かいましょう。移動しながら武勇祭の説明を続けます」
僕たちは食堂を後にした。
デュエルパレスに向かいながら、彼女が説明を始めた。
「試合をする闘技場では、仮想空間領域を展開しています。仮想空間領域内で戦闘不能になっても、命を失うことはありません。だから、安心してください」
彼が苦笑いしながら補足した。
「ただし、痛覚はあるから、戦闘不能になった場合、死を体験することになるんだよ」
まるで恐怖を割り切って語る彼の様子に、僕は急に怖くなってしまった。
「私たちは、アルカニストとして悪事を裁きます。これは訓練の一環でもあります。慣れる必要があります」
頭では理解している。しかし、殺すのも殺されるのも怖い。たとえ命を失わなくても、僕の中で何かが失われそうで、気が進まない。そんな風に思うと、体が震えてきた。
「今年の武勇祭では、アインくんは見ているだけで大丈夫だよ。俺が必ず守ると約束する」
彼が親指を立て、白い歯を見せて笑った。
「ありがとうございます」
「固い固い。気楽にいこう」
僕はつい笑ってしまった。彼は父さんと性格が似ている。
「あれ? 俺、何か変なことでも言ったかな?」
「父さんのことを思い出しました」
ふふっと彼女が笑った。
「おいおい、俺はまだそんな年齢ではないよ」
僕と彼女は笑いが止まらなかった。
*
デュエルパレスに到着した頃には、僕の緊張は解けていた。彼女が受付で参加登録の手続きをしていた。彼が僕に耳打ちをしてきた。
「リーダーはフリーだけど、変な気を起こさないほうがいいよ」
僕は彼に小声で聞き返した。
「どういう意味ですか?」
彼は苦笑いした。
「もう少しすれば、嫌でもわかるよ」
「?」
彼女が優しくほほ笑んで、僕たちに顔を向けた。
「お待たせしました。控室に行きましょう」
控室に移動しながら僕は二人に質問を投げかけた。
「点数が高いと何かあるんですか?」
彼女が丁寧に教えてくれた。
「王立魔導学園にいるアルカニストは、アルカニストの卵です。現役で役職に就いているアルカニストの方々のお手伝いができます」
その話には、少し興味があった。
「何をするんですか?」
「主に雑用ですが、希望次第で訓練にも参加できます」
確かに、それは魅力的だった。
僕たちは控室に入り、各々の役割を確認した。この時の僕は彼女のことをまだ何も知らなかった。
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