第3話 食堂での意外な発見

 食堂に着いた僕は驚いた。食堂とは名ばかりで、まるでしゃれた居間のような空間が広がっていた。ふふっと彼女が僕の顔を見て笑った。


「失礼しました。私が王立魔導学園に初めて来たときのことを思い出してしまいました」


 彼女が咳払いをした。


「ここが王立魔導学園の食堂です。好きな料理を選んでください」

「はい」


 僕はトレイを手に取り、並んでいる料理を選んだ。種類が豊富でおいしそうな料理が並んでいた。しかし、気になることが一つあった。


「あの、値段が書いてありませんが?」

「無料ですので、安心してください」


 驚きのあまり、トレイを落としてしまいそうになった。


「えっ? 本当に無料なんですか?」

「はい、栄養バランスの良い食事を取ることで、異能も成長します」

「異能が成長するんですか?」


 彼女が丁寧に説明してくれた。


「十人のアルカニストで実験したところ、研究結果により、栄養バランスの良い食事を摂取したアルカニストの異能の成長が著しかったそうです」

「わかりました」


 僕は慎重に料理を選び、トレイに盛りつけた。彼女は席に座り、僕を待っていた。僕は彼女の向かい側の席に座った。彼女が僕の料理を見つめていた。


「アイン・ベルガー、それだけで足りますか?」

「えっ?」


 彼女の料理と比較して、一つの疑問が解けた。僕の食事量が少ないわけではない。彼女が大食いなのだ。僕は笑ってその事実を受け入れた。


「足りなければ、取ってきます」


 彼女は手を組み、目を閉じた。


「ガイア様の恵みに感謝します。いただきます」


 僕もガイア様に祈りを捧げて、食事を始めた。食事中に話すのはマナーが悪いので、僕は会話の内容を考えることに専念した。


 *


 食事が終わり、オランシュースオレンジジュースを飲んで一息ついていると、彼女のほうから話しかけてくれた。


「アイン・ベルガー、料理は口に合いましたか?」


 僕は満面の笑みで答えた。


「はい、とてもおいしかったです。これから毎日食べられると思うと幸せです」

「食事中、思い悩んでいる表情をしていましたが、無用の心配だったようで安心しました」


 笑ってごまかした。


「僕だけがこんなに良い思いをしていいのかな、と」

「アイン・ベルガーのご両親はアルカニストなんですか?」

「父さんがアルカニストです。今日は休みを取って、僕の見送りをしてくれました」


 彼女が少し眉をひそめた。


「アルカニストは、王立記念日に休みを取るのは難しいはずなんですが……」

「えっ、そうなんですか?」


 すぐに優しい笑顔に戻った。


「細かい事情があるのかもしれません」


 僕はその一言が心に引っかかったが、深く考えるのはやめにした。


「食事が終わりましたので、そろそろ行きましょう」

「はい」


 僕たちは食器を返却し、食堂を後にした。


 彼女はさらに学園内を案内してくれた。寮や教室、訓練場など、僕がこれから過ごす場所を一通り見て回った。


「そろそろ戻りましょう。アイン・ベルガーのエンチャントリングが完成している頃だと思います」


 僕は彼女に質問を投げかけた。


「皆さんが着ている黒い服は何ですか?」

「王立魔導学園の制服です」


 首をかしげた。


「エレナさんだけ制服の色が赤いのはどうしてですか?」


 彼女は優しく教えてくれた。


「異能には火、風、地、水があります。私は火の異能のカテゴリーリーダーです。ですから、制服の色が違うのです」

「カテゴリーリーダーとは何ですか?」


 少し困った表情をした。


「自分の口から言うのも恥ずかしいことですが、王立魔導学園にいるアルカニストの中から優秀な人が選ばれます」

「わかりました。ありがとうございます」


 本当はもっと知りたかったが、彼女を困らせたくはなかった。


「アイン・ベルガーのエンチャントリングが完成したはずです。学園長のところに行きましょう」

「はい」


 僕たちは学園長室に向かった。


 学園長室に入ると、学園長が笑顔で待っていた。


「アインくん、制服とエンチャントリングを用意しました」

「ありがとうございます」


 僕は学園長から制服とエンチャントリングを手渡された。


「制服には丈夫な生地を使っていますが、穴が開いたり破れたりしたら言ってください。すぐに新しいものを用意します」

「はい」

「訓練場には更衣室があります。アインくん、異能を見せてください」

「わかりました」


 彼女が口を開いた。


「学園長、私も興味がありますので、見学させていただけないでしょうか」

「はい、問題ありません。それでは行きましょう」


 僕たちは訓練場に向かった。この時の僕はまだ何も知らなかった。この後、僕のせいで大変な事故が起こってしまったのだ。

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