弱さ
「は?え、?」
焦った。戸惑った。とにかく意味がわからず、思考が停止していた。俺の病気のことを知っている母にも家族以外にはこのことは伝えないことを言っておいたはずだ。だから、薫が知っているというのはありえない。
でも俺の耳にはしっかりと薫の声で、「何か隠してることないか?」と聞こえた。ただここで焦っても仕方ない。
もしかしたらまだバレていないかもしれない。やわな小さい希望に夢を見るほど、このことだけはどうしてもバレたくない。
「海ってさ、体の調子とかどうなんだ?元気か?なんか心配でよ、」
「なんだよ元気だよ元気wへいきさ。」
「でもよ、海………」
「最近近くの病院に頻繁に行ってないか?ほら、この前お互い始めた他の人の位置がわかるアプリ、あれあるだろ?あれ見てたら、見るたんび海が病院に居るんだよな。だから、何でかなって。」
俺は全てをこの瞬間に察した。2ヶ月前ほどから、whoooというアプリが流行り出して俺たちも始めたんだった。
相手の位置が正確にわかるのがこのアプリの特徴。俺の位置はいついかなる時も薫にはお見通しだったってわけだ………
まずい、これは。
はっきり言って、かなりまずい。
「なあ、なんか体の調子が悪いとかだったら教えてくれよ!お互いに隠さず相談するって約束しただろ?だから、なんかあんだったら話してほしいんだ………!」
約束、俺はこの言葉に引っかかった。
◆
「お互いに、お互いの弱さを認め合って支え合う。これが俺たちのルールだ!よろしくなっ!覚えとけよ!薫!」
「もちろん!忘れないさ!」
ずっと小さな頃から約束を破ることは絶対にしてこなかった。約束を破ることが俺は何よりも大嫌いで。でも、そんな俺がこんなに簡単に約束を破ってもいいのか?本当にそれで俺は、
後悔しないのか………
「俺さ、実は病気で。もって残り2ヶ月なんだよ。」
恐怖や不安などはもはやなく、逆に冷静にこのことを説明した。薫にはたくさん相談をした、だから今だってやけに冷静になっちゃうんだろうな。
◆
親友、海から告げられたこと。それは、俺にとっては到底受け入れきれないような事実だった。
それに、1番驚いたのは何よりもそれを伝える海がいたっていつも通りで冷静なこと。もっと前から察していたことなのか、だからこんなに冷静なのか、そう考えると俺はこの状況で海に対する怒りが込み上げてきた。
「ごめ、」
「謝んなよ、なんで、そこじゃねえよ………」
「え?」
「病気になったことを謝るんじゃない、余命宣告を受けたことを謝るんじゃない。そうじゃなくて、大事なのはなんで俺に言わなかったかだろ………」
「言えなかったんだよ、言いたくなかった。言ったらいつもの薫じゃなくなると思った。」
「でも言ったじゃんか、お互いの弱いところは全部隠さず相談しようって………」
「俺ばっかり助けてもらってさ、いじめからもなにからも、全部、助けてもらったのに」
「俺のことはもういいんだ。どうせ死ぬんだ。だから、俺とはいつも通り関わってくれよ。」
「俺だって!!!!俺だってさあ…………海みたいになりてえよ、人のこと助けられるヒーローみたいな存在に。」
「だから、最後くらい俺をヒーローにさせてくれよ。全部、思ってること話してくれよ。どうせなんて言葉使って、自分を捨てないでくれ、そんなの海らしくねえんだよ!!」
「死のうと思ってたよ。俺の病気が治んないってわかった時から。だって死ぬんだ、生きてても、俺は薫の親友でいられない、なら早く死んでも同じだろ!!」
「死んだら終わりじゃない、死ぬのが最後じゃない。海が助けてくれたあの日のことをずっと覚えてる。それと同じ、海のことを俺が忘れるわけない。」
「でもそれが悲しい、悔いのある死であったら俺はその悲しみと一緒にきっと海のことも忘れようとするよ。」
「忘れようとする、?」
「悲しいことは全部、忘れろ。海が昔言ってたこと。耐えられないことは俺は忘れようとしちゃうんだ。」
「だから、俺の中でずっとヒーローでいてくれ、悔いのないように今を生きてくれよ!!」
「ヒーロー………」
「俺は弱いところだらけで傷だらけで、まだまだ海に甘えるよ。だからどんな時も俺のことを助けてくれ。」
「これからも俺の弱さを、ずっと守り続けてくれ。」
弱さ 学生作家志望 @kokoa555
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