親友への隠し事

ぐす、ぐすっ。



白い空間にオレンジの光が窓から入り込んだ。彼の泣き声だけがその部屋に響いていた。



 ◆

海が転校してきたあの日から、俺たちはさらに仲を深め、卒業時には学年1の仲良しタッグになっていた。



お互いにお互いを深く信頼し、悩んだ時も辛い時も協力して乗り越えた。



どんな弱さも克服した。2人だったら余裕だった。



「これは………なんてことだ。もっても2ヶ月、というところ、、でしょう。」



スマホのチカチカした画面。そこに映っていたのは母親とのメッセージ。



「お母さん。」



「海、どうだった?」



「もって2ヶ月だってさ。」



「そう。」



いつも、画面越しでも伝わってくる愛が溢れる温かい母からのメッセージは、その日はなんだか少しだけ冷たく、切なく感じた。




母としばらく会話をした後、無意識のうちに開いていたメッセージ画面。



相手の名前は、薫。



あの日、俺があの学校に転校してきた初日。1番最初にできた友達が、この薫。そして、今でもずっと親友なのがこの薫。


お互い彼女もおらず、時間があればいつも2人でどこかに遊びに行ってた。時間があれば、お互いに高めあうこともした。弱さを共有して、悩みだって全て打ち明けた。悩みを隠さないって約束した。



そうだ、時間さえあれば。永遠に続くと思ってた楽しい時間にも、実は制限があったことに気付いた。



気付くには、あまりにも遅かった。



薫との最後のメッセージは、昨日の深夜のなんの他愛もない会話。土日はいっつも起きるのが遅い薫は、今日も「おはよう」のメッセージに既読をつけることはなかった。



「おはよう」で途切れてしまったメッセージに、俺はもう一つ、今医者に説明されたことを送ろうと考えた。しかし、俺は文章だけを打って送信ボタンを押すことはしなかった。



「俺には無理だ。こんなの、送れるわけがない。」



送りたくなんてなかった。送れなかった。送った方がいいのはわかってる。わかってるけど、わかっててもこのボタンは押せない。



俺がここでもし持病のことを話したら………


余命宣告を受けたなんて言ったら………



俺たち2人の関係は明日から、今日からどうなる?



全部が崩壊するかもしれない。少なくともいつものしょうもない下ネタだとか、クソ上司の悪口なんて話せなくなる。


すべらない話ごっことかも、何も出来なくなる。飲み会だってやりたくたってあいつは俺の体を心配してやらなくなる。



「あいつのことは誰よりもわかってる、全部わかってるから、言えねえよ、こんなこと。」



「………海さーん。お会計どうぞ。」



アナウンスで呼び出され、受付に向かう。今日の分の会計を終えて、俺はやっとの思いで外に出た。



「はあ、やっと終わったぜ。待ち時間長すぎなんだよー」



あまり残りの人生のことを考えたくはなかった。現実から逃げるような、そんなイメージ。俺はいつもの通りに過ごしたいだけなんだ。



ヴーヴー



「ん、スマホ、電話か?って………」



電話をかけてきたのは親友の薫だった。



「寝てたんじゃ?しかも、何だこのタイミング………」



いつもなら嬉しくてすぐに出た電話を、何となくスルーしてしまった。だからといって着信拒否をすれば相手にバレてしまうから、ずっとスマホのバイブを止めることはしなかった。



しばらく経つと、自動的に電話の画面が消え、電源も落ちた。だけど、すぐに薫からのメッセージが来た。プッシュ通知を見るだけでは相手に見たことはバレない、プッシュ通知を長押しして俺はそのメッセージを見た。



「なあ、なんか隠してることないか?」

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