第50話 ハーク=A=スラストの本音―――ランダム生成ダンジョンでの暮らしは

 クロエにすがりつかれたままのハークから説明を受け、ラムが納得したように頷きつつ、先日の出来事を思い出す。


『だって、おれ、―――ウッ』


(そっか……前に〝メタシオータのスクロール〟で十歳になったハーク師匠が言った〝二年前〟の意味って、その事件のことだったんですね……八歳の頃が、ちょうど十年前だったから。……ハーク師匠、クロエちゃん……)


 うつむくラムに、ハークは補足するように話を続けた。


「まあそんな感じでランダム生成ダンジョンが出来てからは、〝異次元の魔力〟が不足なく循環するように階層が作られていって、三階層と五階層に俺とクロエのセーフティールームが出来て……そうして十年間くらい生活を続けて、今に至るってトコかな。まあ俺は死んでも生き返れるとはいえ、当時のコトはクロエのトラウマになっちゃったし……出来る限り死なないよう心掛けてるよ。まあ俺だって、何度も死ぬような体験はしたくないからさ、ハハハ」


「そう、だったんですね……十年前の非道な事件といい、アタシ、ハーク師匠とクロエちゃんに、何て言えばいいか……」


「おっと、ラム、勘違いしないで欲しいんだけど――俺もクロエも、今の状況に、不満なんて別にないんだぞ?」


「…………えっ?」


「実家に魂を縛られてる、とはいえ……クロエが〝異次元の魔法〟で魔力をめてくれたアイテムでも持ってれば、短い時間だけどダンジョンの外にも出られるんだ。その時はリーリエに付いて来てもらったりしてさ。だから俺は、外の世界に関して完全に無知ってワケじゃない。そう、だからこそ……分かるコトもある」


「分かること……ですか? それって……?」


 顔を上げたラムに問われると――ハークは泰然たいぜんとして笑い、答えた。



「俺はさ―――ランダム生成ダンジョンでの暮らし、けっこう好きだよ。それはまあ、大変なコトなんて、いくらでもある。それでも、外の世界で見る何よりも、ココで見るモノは何もかもが刺激的だ。ハマっちゃってるだけかも、とは思うけどな。けど、前にも言った通り……ああ、そうさ」



 その言葉に、眼差しに、一点の曇りもなく。



「俺たちは、自分が不幸だと思ったコトなんて、一度もない―――

 ランダム生成ダンジョンでの暮らしは、面白くて、楽しいからな!」



「! ……ハーク師匠……」


「まあ常にキワッキワでカオスなのは、否定できないけどな。ハハハ」


 軽快に笑うハークに、沈んでいたラムの表情に、いつもの快活さが陽のように差し。


「はいっ、アタシも……わかりますっ。自分がちょっと運がいいから、ってだけじゃなくて……外の世界のどこにも、こんな場所はありませんし、アタシだって楽しいですもんっ。ま、まあアタシにとっては……ハーク師匠がいるから、っていうのが、一番ですけど……はう」


「ん? そうか、俺が何かの役に立ってるなら、何よりだよ。それにうちの実家を、ラムを楽しんでくれてるっていうなら嬉しいな。そういえばいつも元気にツッコんでるもんな、ハハハ」


「いえ別にツッコミを楽しんでるわけじゃ……ないとも言い切れませんけど、うう、我ながら変な趣向しゅこうになっちゃってる気が……」


 ラムは何やらかえりみているようだが、ここで〝ハークの幼馴染〟こと事情通のリーリエが口を挟んでくる。


「それに、ハークが〝完全に生き返る〟ための手がかりも――私達は、ランダム生成ダンジョンにある、と思ってるわ」


「えっ、リーリエさん……それって?」


「ここでランダム生成されるアイテムは、ご存知の通り変なものから、規格外のものまで様々だわ……だからこそ、そうして生まれるアイテムの中に、完全復活アイテムが現れてもおかしくない。十年前にハークの魂に刻まれた致命傷すら、無かったことにするような、ね。それこそ深層には〝別の世界〟からやって来たようなアイテムが生成されることもある……可能性は、無限大のはずよ」


「あっ……た、確かに、その通りです! そっか、そうですよね、じゃあダンジョンを探索していく内に、手掛かりや解決に繋がるアイテムが見つかるかも……!」


 ラムの言葉にも力強い希望が含まれると、ハークが更に先へと話を繋げる。


「ああ。そして今回の〝異次元の魔神〟の暴走で、可能性が広がった……と、俺は思う。クロエでさえ予想外だった事態だからな。……とはいえ」


『……zzz……うぅん、はーくにいさん……しなないでぇ……』


「さすがに疲れたのか、おやすみだからな――話は、クロエが起きてからだ」


「あ、ああ~……考えてみれば王国騎士団を追い返した時点で0時過ぎでしたし、今って深夜ですもんね……いつもなら寝ちゃってる時間かもしれませんし、しょうがないですよね」


 ラムの同意によって、一先ひとま各々おのおの、セーフティールームで休息を取ることになった。

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