第49話 十年前の事情と、ご実家の長男の真実

 ラム、クロエ、リーリエの三人が、三階層のセーフティールームに、沈んだ表情で帰還すると。



「あ、おかえり皆。帰り道、何事もなかったか?」



「「「…………………………」」」


 ランダム生成ダンジョンがご実家の長男、


 繰り返す、Aが、―――


 さて、今しがた帰還した三名の中で最も、何か言いたそうにしていたラムだが――その前に、義妹クロエが義兄ハークの胸に飛び込んで。


「……ぶえぇんっ……ハーク兄さん、死んじゃ、死んじゃ、やだぁ……」


「おっと。オイオイ、大げさだなぁ……このランダム生成ダンジョン内でなら、俺にはのは、クロエが誰より知ってるだろ?」


 ハークがなだめるも、クロエが落ち着く様子はなく。


 さて今度こそ、とラムが本題を尋ねる。


「あの、ハーク師匠。あのあと……四階層でハーク師匠の体が消えちゃって、その帰りの道すがら、アタシはクロエちゃんとリーリエさんから、ある程度は聞きましたけど……改めて、聞いてもいいですか? 一体、どういうことなのか……なぜハーク師匠が今、無事なのかを――」


 弟子たるラムの真剣な様子に、相変わらず妹を宥めながらも、ハークは。


「ん。ああ、そうだな、分かった。アレは、十年前の話だ。

 わが家がランダム生成ダンジョンになった、その時にな」



 ――――――◆十年前の回想◆――――――


 山中奥深くにある、当時は単なる木造の一軒家だった、実家にて。

 冒険者だった両親が、一体どこでなのか保護してきた少女クロエと、長男であるハークが共に暮らし始めて、二年ほど経った当時。


 ハークは八歳、クロエは六歳の頃、事件は起きた。


 東だか西だかの国から、軍隊が派遣されて――クロエが〝いつか世界を滅ぼす魔女〟と予言されたとかで、討伐に来たのだとか。


 ……ちなみに後から聞いた話だが、真実はといえば。

〝既にして聖女を凌駕りょうがする魔力を持っていたクロエを、聖女をゆうする国が面子めんつのために、適当な理由をでっち上げて処刑しようとした〟のだとか。

(※当時の〝聖女〟も七、八歳ほどで、この件には一切関わっていない)


 とにかく、冒険者だった両親の留守を狙われ、突然の不条理にさらされ。

 昔から人見知りだったクロエは怯えるばかりで、魔法など使う余裕もなく。


 兵士は兵士で、年端としはもいかぬ子供を目にすると、大半が躊躇ちゅうちょしていたようだが――恐らく、この件の首謀者に命じられたであろう者から、明らかな悪意のある槍が投げつけられると。


『―――クロエ、あぶないっ! ……う、あっ――』


『ひっ……え? ……ハーク、にいさん? ……うそ、なんで、そんな……』


 妹を庇ったハークの小さな体の中心を、槍の穂先ほさきがあっさりと貫いて。

 騒ぎを聞きつけたのか、飛ぶような速さで駆けつけてきたリーリエが、兵士たちを蹴り飛ばしながら目撃したのは。


フンッ!! 何だコイツら……人間の軍隊、だと? ン、コホン……ハーク、クロエちゃん、何があったの……え? ……ハーク? ……なん、で、そんな……』


『はーく、にいさん……う、うわ、あぁ……ぁ、ああああああっ―――』


『!? クロエちゃん、ッ……この魔力は、一体……―――ッ!!』


 そこからの記憶は、ハークも、クロエも、無い――リーリエが言うには、突如として地形が隆起りゅうきし、大地震を起こしながら変動し。

 ハークとクロエの体を、大地の中へと呑み込んでしまったという。


 次に二人が意識を取り戻した時には、まだの〝ランダム生成ダンジョン〟の内側で。


 ハークの傷は、すっかりふさがっていた――それはクロエが、覚醒した〝異次元の魔法〟によって、ランダム生成ダンジョンに魂を縛ったからだ、という。


 だからこそ、クロエの〝異次元の魔法〟が効果を及ぼすのは、彼女の魔力が循環するランダム生成ダンジョン――即ち《異次元の迷宮》と呼ばれる実家のみで。


 ……そう、ハークに及ぼされた条件を、要約してしまえば。


1.ハークはランダム生成ダンジョン(実家)を離れれば、魂が乖離かいりして死亡する。

(※クロエの魔力が及ぶ範囲、アイテムを預かるなどすれば、ある程度は外出可能)


2.ランダム生成ダンジョン内で死亡しても、セーフティールームで復活する。

(※セーフティールーム=セーブポイントのようなもの)


3.ランダム生成ダンジョン内でも、制限を解除して魂を解放することで、ハーク本来の強さを限定的に発揮できる。

(※さすがに幼い頃から強かった訳ではなく、ランダム生成ダンジョンで経験を積み重ねて強くなった結果。しかし〝異次元の魔神〟との戦闘時でさえ全力ではなく、更にその先が存在する模様)


 これが、ハークとクロエに起こった、十年前の出来事と――それによって生じた、ハークの現況である。


 ―――――――◆回想終了◆―――――――



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