第48話 喪失の果てに、ラム=ソルディアが叫んだのは。

「ハーク兄さんっ……うええっ……兄さぁん……!(状態異常:嘆きの慟哭)」


 もはや危険も過ぎ去った、四階層の〝闇の廃村〟――魔物もそのほとんどが、既に倒された〝異次元の魔神〟に食い尽くされていたのだろう。


 今はただ、超高難度ランダム生成ダンジョンの主にして《異次元の魔女》である、クロエの泣き声が響くばかりだ。


 目の前で起こっている、信じがたい光景に――クロエにすがりつかれ、力なく倒れ伏すハークの姿に、ラムは呆然として立ち尽くす。


「……な、なんで……どうなってるん、ですか……?(状態異常:茫然自失)

 冗談、ですよね……ハーク、師匠?(状態異常:現実逃避)」


 けれど、これは紛れもない事実――倒れるハークに、リーリエが座り込み、膝枕しつつ語り掛ける。


「……ハーク、頑張ったわね。疲れたでしょう……もうこれ以上、無理なんてしなくていいわ(状態異常:幼馴染の労わり)」


「っ……り、リーリエさん、何でそんなに落ち着いてっ……ハーク師匠が死んじゃったなんて、そんなのアタシ、信じませんからっ!(状態異常:儚い希望)」


 ラムが叫び、クロエが泣き続け、リーリエが静かに目を閉じる――そんな仲間達に、最も低い位置から、掠れた声が聞こえてきて。


「……皆、ありがとな……ラム、キミも頑張ってくれて、助かった……〝異次元の魔神〟をたおせたのは、皆のおかげだ……」


「! は、ハーク師匠っ……な、なぁんだっ、やっぱり無事じゃないですか! もう、心配させないでくださいっ……(状態異常:不確かな安堵)」


「実家の問題、何か起こる前に、解決できて……良かった。命を賭した、甲斐かいがある……」


「……な、なに冗談言ってるんですか、ハーク師匠ったら……ほら、早く起きて……肩、貸しますから……一緒に、帰りましょ……?(状態異常:一縷の望み)」


「それじゃ、皆……後は、任せた。ちゃんと、無事に帰還するんだ、ぞ……。

 ……………………――――――――」


「ハーク師匠? ……ハーク、師匠……?(状態異常:届かぬ願い)」


 消え入りそうだった声が、まさに儚く消え失せて。


 うっすらと開いていた目も、閉じてしまった。


「う、うあぁんっ……ハーク兄さぁんっ……やだよぉ……ぅあぁぁぁんっ……(状態異常:鮮明なるトラウマ」

「ハーク。……あなたのおかげで、皆も助かったわ。本当に、ありがとう……安らかに、おやすみなさい(状態異常:安らかなる葬送)」


 クロエが泣きじゃくる声と、リーリエの静謐せいひつな声に、見送られ。


 立ち尽くしていたラムが、ずしゃ、とその場に膝を突き。

 そのつぶらな眼から、大粒の涙を流して。


「ハーク師匠っ……こんなの、嘘ですっ……目を開けてくださいっ……

 ぅ、う……うわぁぁぁぁんっ…………(状態異常:悲痛なる哀哭あいこく)」


 ついには大きな泣き声を上げ……そして。



「…………状態異常の補足が騒がしい!!(状態異常:ツッコミ)」



 最後に、ラムの大きな声が響いた、その直後。



 ハーク=A=スラストは――――死亡した。




※注釈:状態異常の補足は瀕死のハークが呟いていました。

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