第47話 ハック&スラッシュ

 ハークが口にした〝最終手段〟という言葉に、翼を収束させて地に降り立ったラムが反応する。


「ハーク師匠の……最終手段、ですか? ただでさえ強いのに、奥の手まで持ってるなんてっ……な、なんだか凄そうで――」


「――――だめっ、ハーク兄さん! やめてぇ!」


「ふ、えっ!? く、クロエちゃん? 珍しい大声で……急にどうしたんです?」


 ラムが驚きと同時に尋ねるも、クロエは青ざめた顔をするばかりで。


 そうこうしている内に、ハークは何やら、深く腰を落として忍者刀を構え。


「ふう。………―――し、する」


 ぽつり、不明瞭な言葉を漏らすと。

 彼の姿は、もうそこにはなかった。


 次に、ハークの姿があったのは―――〝異次元の魔神〟の真後ろで。



「鑑定、強制看破―――左腕上部―――弱点浸食ハック



 リーリエをすら凌駕する敏捷性AGIで、目視すら不可能なほどの剣速で。



「――――――――スラッシュ


『………―――!?』



〝異次元の魔神〟の左腕上部を、的確に斬り裂いた――魔神が反射のまま反撃を繰り出そうとするも、既にハークの姿はなく。


 言葉だけが、周囲に響く。


「右肩口、弱点浸食ハック――――スラッシュ


『…………!』


「背筋、第二頸椎、弱点浸食ハック――――スラッシュスラッシュ


『! !! ……、……!!?』


 ハークの言葉が響くごとに、斬撃が一閃ごとに、〝異次元の魔神〟の体を宣言通りに刻んでいく。


 新米冒険者であるラムから見ても、圧倒的、ずば抜けた力量――彼女の口からは、思わず感嘆と畏怖いふが入り混じった言葉が漏れる。


「す、すごいっ……こんなことが出来るなんて、最初からハーク師匠だけでも大丈夫だったんじゃ……でも、何でこんなに強いんで――」


「―――あれはハーク本来の強さよ、ラムさん」


「きゃああっりっリーリエさん!? う、うう、相変わらず心臓に悪いですね、隠密EX……って、ハーク師匠の本来の強さ、というのは……一体?」


 いつの間にか背後に立たれたラムが、胸元を押さえつつ何とか尋ねると、リーリエは相変わらず淡々とした口調で説明する。


「弱点の強制看破を超えて、本来は見えない弱点すら炙り出し、強制浸食して弱点を作り出す……恐らくEXに達する鑑定スキルを持つハークだけの異能。そして、このランダム生成ダンジョン内で常にかけられている制限を解除して、本来の実力を解放した今のハークは――STRもAGIも間違いなく255超えの限界突破。武器〝点滴穿石てんてきせんせきの忍者刀〟(※弱点特攻で攻撃力10倍)は、弱点を穿うがつ彼の特性を最大限に発揮できる武器なの。すごいでしょ?」


「そ、それはっ……すごいです、そんなの無敵じゃないですか! でも制限の話なんて、初めて聞きましたけど……どうしてですか? あの強さがハーク師匠の本来のものなら、別に制限なんて……」


「制限を解除すると、よ」


「…………………………」


 リーリエが、あっさりと告げた言葉に。

 ラムは、すぐには理解できず、沈黙し。



「………………は、い?」



 ようやく漏れた声も、不明瞭なものだった。


 何の冗談だろう――冗談にしても、タチが悪い、と。

 けれどハークの義妹であるクロエが、青ざめた表情で俯いているのを見て。


 それが冗談だと、ラムは言い切れなかった。


 ただ、今は。


 限界を超越した身体能力で、廃屋はいおくを足場の如く、所狭しと跳躍するハークが。



「胸骨、弱点浸食ハック――――スラッシュ

 鑑定見えたコア弱点浸食ハック――――


 ――――スラッシュ――――」


『! …………――――』



 あっさりと、露出させたコアを、斬り裂くと。

〝異次元の魔神〟は断末魔すらなく――今までどんな魔物を倒しても、見たことがないほど大量の宝石を、周囲にまき散らしながら。


 消失した―――即ち、ハークの、及びパーティーの勝利である。


 そうして、簡潔なまでに決着をつけたハークが、ラム達の眼前に降り立つと。


「戦闘終了、皆、お疲れ様。

 ……………――――――」


 気が抜けそうなほど、穏やかに告げた直後。



 ――――ハークは、その場に倒れ伏した。

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