第46話 少女剣士は、クラスチェンジした――――

 ラムを逃がした後、その場にとどまり〝異次元の魔神〟と戦う面々の中。


「―――クロエ、大丈夫か!?」


 ハークが義妹をおもんばかると、クロエは尻餅を突きながらも答えた。


「う、うん、どうにかぁ……でもやっぱ〝異次元バリア〟(※全属性攻撃に対して防御力+200)でも、このレベルの相手には通用しないよ……わたしの魔法じゃ、異次元に異次元をぶつけても効果は薄いみたいだし、神聖や光は使うの苦手だし……ど、どうしよぉ」


「ん、そうだな……結構、ピンチだな。仕方ない……じゃあクロエとリーリエも、退却してくれるか。だ、俺が残ってを使うから――」


「! それは、やだっ!!」


 普段の間延まのびした語調とは違う、強い言葉に――引きつけられたのかは、定かでない。だが〝異次元の魔神〟は、更にクロエへと追撃をかけようとする。


「……ふへっ!? やばっ……わ、わたしが大声、出しちゃったせいで――」


「……――! いや、違う……ついさっきといい、コイツはクロエを一番に狙っている! ランダム生成ダンジョンの主であるクロエが倒れれば、このダンジョンから解放されるコトを理解してるのか……? ッ、とにかく救出を――なにっ!?」


 クロエを救うべく駆けようとしたハークも、隠密しつつ近づこうとしたリーリエも――思いがけぬ邪魔者を叩きつけられる。


 それは〝異次元の魔神〟の闇から解き放たれた、魔物たち――まさか、とクロエが推測するのは。


「これ、って……四階層や五階層の、魔物? まさか〝異次元の魔神こいつ〟、魔物を吸収しながら、支配下に置きながら、上がってきたっての? そんなこと、できるなんて……そんなの、わたしさえ知らな――」


「ッ、クロエ……〝闇の刃〟が来るぞ! どうにか、回避を―――フンッ!」


「! あ……わ、わわっ……」


 放たれた魔物をハークが斬り払いつつ、救出に走るも。

 立ち上がる暇もないクロエが、尻餅を突いたまま後ずさるも。


 間に合わない――〝異次元の魔神〟は、いっそ無機質なまでに、感情もなく。


 振り下ろした――全てを切り裂き分解する、〝闇の刃〟を。


「……あ、これ、やば……死―――」



『いいえ――――そんなこと、させませんっ!!』



「……ふへ? ―――うわっ、眩しっ!?」


 刹那、禍々まがまがしい雰囲気の〝闇の廃村〟に、光がほとばしった。


〝異次元の魔神〟とクロエの間に、何者かが介入し――いいや、何者かではない。

 今しがた〝闇の刃〟を消し去ったのは、ハーク達も良く知る人物。


 その名を、仲間の名を、ハークが声高に叫ぶ――!


「―――ラム! どうしてココに……いや、それより、その装備は―――!」



 ――――★鑑定結果★――――


<装備>

右手:伝説のナイフ(攻撃力:8+100・会心率100%)

  →女神の聖剣

体:軽装の胸当て+剣士のミニスカート(防御力:15+1、かわいさ0+60)

  →女神のドレスアーマー

予備武器:なし→伝説のナイフ



『女神の聖剣』

 選ばれし者のみが扱える、祝福を受けた聖剣。別に誰でも装備できるので、人は誰もが選ばれし者。


※基礎性能(聖剣):攻撃力+90、光属性付与、神聖強化、スキル〝回復の光〟取得

※付加効果:STR・AGI・MAG=+50、スキル〝女神ビーム〟取得


『女神のドレスアーマー』

 女性の前衛職でも扱いやすく、見た目にもこだわりのある意匠が心憎い。


※基礎性能(ドレスアーマー):防御力+30、おしゃれ+100、くっころ+20

※付加効果:VIT・MAG=+50、光属性吸収、闇属性に耐性、バリア強化

      スキル〝祝福の翼〟取得(使用中AGI+50、飛翔可能)

※『防壁のショーツ』のバリア効果を強化:50→150+光・闇属性に耐性付与


 ――――★鑑定終了★――――



 つい先ほどまでとは、打って変わったラムの姿――いや、変わったのは姿だけではない。今しがた〝闇の刃〟を防いだことも然り。


 装備の優秀さだけではない、彼女の立ち姿には、確かな覚悟があった。

〝異次元の魔神〟に向けた背に、一種の威厳すら漂わせるほどに。


 そこには、確かな覚悟があった。



 ―――ケツいや下半身を中心としたバリアを、惜しげもなく展開して仲間を守る姿には、誰もが覚悟を感じざるをえまい―――!!



「―――いえ別に恥ずかしげもなくバリア張ってるわけじゃないですし、そこ注目してほしくないんですけどね!? もっと別に見るとこあるでしょう!?」


「ラムちゃん、誰にツッコんでんの?」


「えっ、誰に……誰に、でしょうね? あれ、う~ん……?」


 ツッコんだ本人が首を傾げるとは、これ如何に――それはともかく、ハークがラムへと問いかける。


「ラム……それはまさか、この四階層で装備を拾えたのか? レアな二つ名どころか、〝女神の〟なんて見たこともないけど……凄まじい力を感じるな」


「! ハーク師匠……はい、もう無我夢中で、アタシにも何が何だかわかりませんけど……でも、だけど、アタシはもう……逃げたくありません。仲間を置いて逃げるなんて、いやなんですっ……だからっ!」


 一声、強く発した直後、ラムはその背に光の翼を顕現けんげんし。



「アタシは戦います――仲間を守るために!

 ハーク師匠の弟子として――みんなと一緒に!!」



 直後には、ラムの姿は瞬時に移動し――高まったステータスのまま、光り輝く剣を振るい、魔物たちを斬り裂いて宝石化させていき。

 圧倒的に力量差があるはずの〝異次元の魔神〟に、怯みもせず――!


「喰らいなさいっ、スキル―――〝女神ビーム〟―――!!

 いえ女神ビームって何なんですかね~~~!?」


 剣先からビームを放ちつつ、ツッコミも繰り出す、彼女はツッコミ剣士……ではなく。


 少女剣士―――でもない。


 今、新たなる装備を身に纏った彼女は。


 少女剣士は、クラスチェンジした――――




 ―――〝女神剣士〟にクラスチェンジした―――!




『…………――――!!』


〝闇〟を纏ってほとんどの攻撃を通さない〝異次元の魔神〟が、〝光〟の力そのものたる光線を受け、衣ががれるように本来の姿があらわになる。


 その光景を見つめ、ハークは一つ頷き、小さく笑った。



「――――鑑定みえたぞ、100%の勝機が。

 弟子のラムが、こんなに頑張ってくれたんだ。

 今この瞬間に、命を賭ける価値がある。


 ――――を、行使する――――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る