第45話 少女の逃走、発見、危機―――そして覚悟。

「はあ、はあ、はあっ……っ、くうぅっ……!」


 ほんの少し前、ハーク達と四人パーティーで進んできた道を、今は一人で戻っている少女剣士・ラム。


 ハークの指示は的確で、ラムは実際に足を引っ張ってしまっていただろうと、それは本人も良く分かっている。


 だからこそ、ラムは悔しかった――自らの力不足が、仲間と共に戦えないことが。

 超高難度ランダム生成ダンジョンの熟練者たるハークをして、全滅の可能性すら考慮に入れなければならない、そんな強敵との戦いに。


 何の役にも立てず――ただ一人で逃げ、大切な仲間の無事を祈ることしか出来ないことが、ラムは悔しかった。


 後方からは〝異次元の魔神〟の揮う〝闇の刃〟が、廃村の如き四階層を切り裂く異音が、立て続けに響いている。


「っ。ハーク師匠、クロエちゃん、リーリエさん……本当に、大丈夫なんでしょうか……どうか、どうか無事で………あっ?」


 仲間達が交戦している方向へ、ラムが振り返った瞬間――見えたのは。

 三階層へと戻る道から、一つ逸れた道に落ちる、〝剣〟と〝鎧〟のような何か。


 ランダム生成によって生み出された装備品だ――四階層に落ちているなら、もしかすると強力な武具かもしれない。


 けれど、横道に入ってそれを拾いに行くのは、ハークからの〝逃げろ〟という指示に背くことになる。一瞬だとしても、指示に背いて良いものか。そもそも拾えたとしても、鑑定ができない以上、どんな装備なのかも分からないのに。


 けれど、それでも――もし〝仲間達の助けになれるなら?〟と。


 そんなことを考えてしまったラムは、反射的に、横道へと逸れてしまう。


 けれど、ああ、けれど、だ――やはりそれは、誤りだったのかもしれない。


「―――――えっ?」


『―――GyyHahhhh………』


 ラムが〝剣〟と〝鎧〟に到達する以前に―――待ち構えていたかのように。

一つ目の巨人サイクロプス〟が手を伸ばしていた。


 鑑定してもらうまでもない、新米冒険者であるラムが、敵う相手ではない。

 数秒後には、少女剣士の細身は、巨人の豪腕に呆気なく握り潰されるだろう。


 そんな未来が鮮明に浮かび、ラムが唖然と開いた口から、ぽつりと。


「……ごめんなさい、ハーク師匠、みなさん……アタシ、なにひとつ役に……」


 悔恨の声も、言い切らぬ間に、その時は訪れた。


 そう―――それは。


『――――ヌゥンッッッ!!』


『GuPaOhhhhNh!?』


「……………………。

 ………………ふえ?」


 ラムに伸びていた豪腕の持ち主は、何者かの体当たりで吹っ飛ばされた。


 一体、何者なのか――いいや、少女は知っている。

 その巨体を、その出で立ちを、その声を――ラム=ソルディアは、知っている!



『危ないところでしたが―――お元気そうで、何よりです。お久しぶりですね、お嬢さん』


「……あ、ああ、あっ、あなたは、まさかっ……

〝賢者のバーサーカー〟(性別:メス)さん!? ど、どうして――!?」


『さて、自分にも良く分からないのは相変わらずですが……あなた方が五階層に訪れたあの日、〝異次元の魔神〟に異変が起こったようで、五階層の魔物もランダム生成による消失が発生しませんでした。まあ〝異次元の魔神〟は周囲の魔物を吸収しつつ、浅い階層を目指したようですが……自分は隠れて難を逃れ、何が起こっているか知るべく階層を上がり、そして今に至るというのが現状です』


「ぉ、おぉ……ご、ご丁寧にありがとうございます……で、でも、こんなこと言うのも、おかしいかもですけど……消えなかったなんて、よかったで――」


『おっと、お嬢さん。お言葉は嬉しいですが……魔物は〝一つ目の巨人〟だけではありません。悠長は命取りかと。さて、事情に無知な自分ですが、それでも分かることはあります……お嬢さんには何か、為すべきことがあるのでは?』


「! そ、そうでしたっ……この〝剣〟と〝鎧〟を! っ、んんっ……!」


 今の内に、とラムが屈み込み、落ちていた武具を拾おうとする――が、どちらも地面に鋼の糸で縫い付けられたかの如く、微動だにしない。


 それは、予想できていたことだ。五階層でも同様で、三階層でも一部の装備品しか持ち上げられなかった。四階層で拾うことなど、不可能なのが当然。


 だが。


「っ、ッ、ッッッ……う、ううう~~~っ……!!」


 だが、今、やらなければ。

 ただ、守られるだけの存在ではなく。


 少しでも、仲間の役に立つために――彼らの仲間として、相応しくあるために。


『――――――…………ゃぁ……』


「! 今の声、クロエちゃんの……ッ、っっっ~~~……

 う、ううう~~~っ……うううううっっっ!」


 悲鳴を上げる仲間を―――救うために―――!



「―――うあああああぁぁぁっっっ!!!」



 今、少女剣士ラム=ソルディアは、四階層で―――

 ランダム生成の〝剣〟と〝鎧〟を拾い上げた―――!!

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