第43話 異変は四階層に在り――いざラストミッションへ

 今や《異次元の魔女》という呼称がしっくり来る、クロエの《異次元の魔法》によって、元の火山地帯である二階層へと舞い戻ってきた一行。


 今ごろ西の国の王城も、元通りの姿となっているのだろう……全裸で立ち尽くす王をえて。


 さて、危険な二階層とはいえ、ハークが大暴れしてくれた(いやもう本当に)おかげで魔物の姿もなく――二刀流状態だった剣をそれぞれさやに納め、放った言葉は。


「ウェハハハ―――おっと、ふう、とりあえず何とかなった、なっ♪ ひと段落ってトコだ、ろっ♪」


「あっ良かったですハーク師匠、会話が通じるようになって。いえもう本当に……でも何でを踏んでるんですか? 落ち着かないんですけど……」


「ああ、〝超特急のダンスシューズ〟のせいで、ブレーキが利きにくくて、なっ♪ 〝疲れ知らずの鼻眼鏡〟があるから平気だけ、どっ♪ なかったら、死ぬまで踊り続けてるかもな、ハハハッ♪」


「怖すぎる……それもう呪われてません? 性能はいいのかもしれませんけど、もう捨てちゃいましょうよぉ……」


 笑っている場合ではない気がするハークに、ラムも心配しつつツッコむが――そこで口を挟んできたのは、義妹たるクロエ。


「まあまあ、そこでわたしの出番よ、ふひひ……さあハーク兄さん、そろそろ装備、変更しちゃうよ~?」


「ああ、頼むっ♪ 疲れは知らないけど、珍妙な笑い声を上げっぱなしだったし、喉ブッ潰れそうなん、だっ♪」


「ハーク師匠の現状が思った以上にキワッキワだった! え、でもクロエちゃん、何をするつもりで……えっ?」


〝装備を変更する〟と告げた、クロエの言葉通り――《異次元の魔法》が発動し、ハークを魔力の奔流が包み込む、と。



 ――――★鑑定結果★――――


『ハーク=A=スラストの深層攻略用・対強敵装備』


右手:点滴穿石てんてきせんせきの忍者刀(攻撃力:+40、AGI:+20)

(付加効果:命中率:-90%、クリティカル時は必中、弱点特攻:攻撃力10倍)

左手:冥界のバンクル(防御力:+5、闇耐性、無効=恐慌・即死)

頭:耐雷のサングラス(防御力:+1、耐性=雷・感電・麻痺)

(※頭装備なので視界を阻害しない。いわゆる「メガネメガネ……」状態)

体:陽炎かげろう魔獣革鎧ビーストレザー(防御力:+40、AGI:+10、回避力向上&敵の命中率低下)

足:天使のウイングブーツ(防御力:+10、浮遊可・ダメージ床を無効化)

アクセサリ:冷却のロングマフラー(熱耐性・寒冷耐性?)

      叡智えいちの片眼鏡(思考力アップ、スキル〝叡智ビーム〟使用可)


(防御力合計:+56、回避重視、状態異常対策重視)


予備武器:エターナルフォース普通の矢(攻撃力:10+50、氷結・即死効果)


 ――――★鑑定終了★――――



「―――ふう。どお、ハーク兄さん……兄さんが前もってセットにしてた装備で、深層攻略用の一番いいやつにしてみたんだけど~……」


「大丈夫だ、問題ない」


「ならよかった~。ふへへ、わたしがパーティーにいる時だけしか、コレできないんだから~……重宝ちょうほうしてね~?」


「もちろんだ。そうでなくっても、大事な妹なんだからな。よしよし」


「ふぁ……ふ、ふひひ……♡」


 ハークの言葉と気軽なナデナデに、ご満悦まんえつな《異次元の魔女》クロエだった。

 と、装備が一瞬で変わったハークに、ラムもラムでほうけた声を漏らす。


「わ、わあっ……その装備、何だかすごいですし、か……カッコイイ……♡ ……いえ本当、カッコよくて良かった……本当に良かった……サングラスと片眼鏡でメガネ・オン・メガネなのはちょっと気になりますけど、さっきの殲滅特化装備のインパクトに比べれば、些細なことですね……!」


 見惚みとれるより、何やら安心感が勝っている気はするラム、だが――〝叡智の片眼鏡〟(思考力アップ)をクイッと指先で持ち上げたハークが、改めて問題提起する。


「さて。……さっきの王城での件だけど、気付いたコトがある。わが家で……即ちランダム生成ダンジョンで起こっている異変について、結果的に気になる点が浮き彫りになった。すなわち……〝アルメキオラのスクロール〟の件だ」


「! あっ……ご、ごめんなさい、ハーク師匠……アレがあんな変な効果だったからよかったものの、もし危険度の高い魔法だったら……アタシが短慮で口走っちゃったせいで、みんなを危険に……」


「いや、責めたいワケじゃないぞ、ラム――反省は必要なのかもしれないけど、結果的には気付けたコトがあるんだからさ。まず……俺が十年も暮らしてきて、同じ名前の魔法のスクロールが出たコトなんて、本当に数えるほどしかない。つまりあんなタイミングで、同名のスクロールがランダム生成されるなんて……可能性がゼロではないとはいえ、あまりに低すぎるんだ」


「ふえ? でも、実際に……あのあの、偶然じゃないとしたら、それって?」


「つまり、あの〝アルメキオラのスクロール〟は――俺たちがなんだと思う。それが深層の魔物にくっついて来たのか、何かの要因でワープでもしてきたのかまでは、分からないけどな」


「えっ、えっ……ええっ? でも、五階層にあったアイテムにしても魔物にしても、0時に消えず、しかも浅い階層にまで来ちゃうことなんて、あるんですか?」


「普通なら、無い――だからつまり、普通じゃないコトが……十年も暮らしてきた俺やクロエでさえ体験したコトのない異変が、間違いなく起きてるんだ」


 真剣な口調でハークが言った、直後――突然、リーリエの声が割り込んでくる。


「―――うん、ハークの言う通りよ。今さっき、この辺を探索してきたけど」


「きゃあリーリエさん!? ず、ずっと黙ってるなー、って思ってたら……いつの間にか別行動してたんですね。パーティーとして行動してても神出鬼没って、なんだかなぁ……って、ハーク師匠の言う通り、って……?」


「ええ、ラムさん。帰ってきたばかりの二階層だけど――三階層でも見たような、四階層以下で見るような魔物が、この階層にも上ってきてるわ。明らかに、何かが起こってる証拠ね」


 リーリエの報告によって、情報はととのったと――ハークが述べるのは。


「深層での異変……追いやられるように浅い階層へ上がってくる魔物。逆に五階層が静謐せいひつを保ってた、って事実をかんがみるに……異変の所在は、確定したな」


 ラム、クロエ、リーリエと、一人一人の顔を見て、ハークは結論を出す。



「間違いなく四階層に、何かある――それを解決しに行こう。

 それが今日の、俺たちのラストミッションだ――!」

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