第42話 王城と《異次元の迷宮》二階層が融合した!

『『『―――――――――は?』』』

『『『ほへっ?』』』


 先ほどまで迷宮内にいた騎士団が、揃って呆気あっけに取られ。

 どこからともなく現れた、見も知らぬ貴族らしき人物たちが、ほぼ同時に頓狂とんきょうな声を上げる。


 いや、どこからともなく現れたのは、自分達のほうなのだと――共に飛んできたラム(※見た目、山賊風)はすぐさま理解した。


「ここって、まさかクロ……ごほん、《異次元の魔女》さんが言ってたように、西の国の王城? 窓の外から、街が見下ろせる……でも、アタシ達どころか騎士団全員まで、こんな簡単に、一瞬で転移させるなんて……」


「ルーーフルフルフルフルフッ」


「さっきから師の笑い声が独特すぎて戸惑う! って、あっ……そういえば、階層と同期・連結させる、って……う、うわ……うわぁ~~~……」


 ハークの戦闘は続いている、それが意味するところは、ラムの反応通り――二階層の地形が白の壁や床に融合したような歪さで、魔物はそっくりそのまま、連結され。


 今この瞬間、西の国の王城は――と化していた。


『な、なんじゃコリャア……あっ、貴様ら騎士団、いつの間に帰還した!? オイ副官、説明せい!』

『いえその、自分にも何がなんだか……もう理解が追いつかず……?』


『ええい、団長はどうした! これは責任問題だぞ貴様――』

『タスケテ………』

『キョアァァァーーッ!? なんか半分、岩に埋まっとるゥゥゥゥ!!?』


『きゃ~~~~っ!? なになに、なんなのこれ~!?』

『こ、こんな所に何で魔物が!? だれか、助けて~!』


 騎士団も、王侯貴族と思しき連中も、何だかもう〝状態異常:大混乱〟だが。

 それにしてもこんな夜遅くに、彼らは城内で何をしていたのだろう。


 悲鳴を上げて逃げ惑う美女や、豪奢な食事が並ぶのを見て、ラムなどはもちろん、先ほどまで迷宮で戦っていた騎士団の兵士たちも、一様いちように眉をひそめる。


 と、中でも一際目立つ華美かびな衣装を纏い、をかぶった男が――美女を左右にはべらせたまま、威厳をみなぎらせるべく声を張り上げた――


『ムムッ、無礼者めが! 貴様ら、余を誰と心得る! 余こそえある唯一国(※西オンリー)の、世界の覇者たる王で―――』


「ホーッホッホッホッホ……ホアッチャァァァァァッ!!」

『GuruOhhhhNh!?』


『ヒャアアアアアンッ!? 魔物コワァァァァイッ!!』(小汚い王様ボイス)


 ――が、威厳はハリボテだったようで、情けない悲鳴と共に一瞬でげ落ちてしまう。左右の美女もそそくさと逃げ出していた。


 さて、ハークが蹴り飛ばした魔物が転がってきただけで、腰を抜かしてへたり込む王には目もくれず――《異次元の魔女》は宣告する。


『曇った眼で、愚劣ぐれつなる頭で、蒙昧もうまいなる脳で――少しは理解できたか、人間ども。これは親切に警告してやったにすぎぬ。わた……我を滅ぼせば、《異次元の迷宮》の影響は世界に広がり、世界はこのような混沌カオスと化す。我はそうならぬよう、迷宮に魔力を封印してやっている……それが真実だ。この浅愚せんぐの極みたる王は、それに気づきもせず我を討とうと命じたのだろう。功名でも求めたか?』


『っ、なな、なにを……者ども、悪辣あくらつなる魔女の言葉になど耳を貸すな――』


『騎士団に戦わせている最中、遊び惚けて享楽きょうらくふける者どもを見て――今しがた迷宮で戦い、実情を体験している騎士団どもよ。我が誇る最強の兄さゲホゲホ戦士に命を救われた貴様らは、何を信じる』


「ファールファルファルファルファル」(※元気に暴れ狂う半裸の長男)


『王命だ聖戦だと、くだらぬ巧言こうげん甘言かんげんに惑わされず、少しは己の頭で考えてみせよ。何を信じるべきかは、見たままに明白ではないか』


 敵であるはずの《異次元の魔女》――その言を信じるなら〝世界を救っている〟かもしれない存在の言葉を受けて。

 騎士団の兵士たちは、選択した――その場に剣や槍を投げ捨てながら。


『『『―――やってられっか!!』』』

『おれらが必死で戦ってる最中、なんのうたげしてやがんだ……大怪我してる仲間もいんだぞ、ふざけやがって!』


『つか、しょっちゅう国の資金難とかほざいて強制徴税して、やってることがコレかよ……前々からこういう噂は聞いてたが、冗談じゃねえぞクソが……!』

『退位しろ! 聡明って評判の第一王子に王座を譲れ!』


『退位!』『退位!』『譲位だ』『譲位しろ!』『タスケテ……』『『『譲位!!』』』


『グ、グヌヌッ、貴様らァ……ウ、ムウッ!?』


 自身の王国騎士団に牙を剥かれ、へたり込んで追い詰められた王が――がさっ、とその手に何かを掴む。


 それは〝魔法のスクロール〟――つい反射的に、ラムが声を上げた。


「え。……あ、あれは前に見た〝のスクロール〟? 何でこんなタイミングで……って、あっ、しまった!?」


『! ほほう、この巻物は〝アルメキオラ〟とか言うのか……ククク、何か魔力の流れを感じるぞ、マジックアイテムの類か? ええい、もはやどうにでもなれじゃ……今すぐコイツを使ってくれるわ!』


「う、あ……ご、ごめんなさい、皆さん――」


 ラムがいるよりも、早く――追い詰められた王は、ヤケクソ気味に立ち上がり。



『―――〝アルメキオラ〟ァァァァ!!』



 声高に、その魔法名を唱え上げた―――次の瞬間。


 全てが。


 全てが――――弾け飛んだ。



 ――――が、――――



『えっ』(※キング)

『『『えっ』』』(※お城の王侯貴族さん)

『『『えっ』』』(※騎士団の皆さん)


『『『オエッ』』』(※美女の皆さま)


 何が起こったのか、誰一人として、即座に解することなど出来ず。


『……………………』

『『『『『…………』』』』』


 斯様かようにも不憫ふびん仕儀しぎ相成あいなった王を初めとして、誰もが呆然と立ち尽くし。

 やがて、全裸で立ち尽くしていた王が、助け舟を求めるように臣下の一人へと、声をかけようとし――


『…………オイ』

『! ………ふいっ』(※スキル〝気まずい目逸らし〟発動!)


『……………………』


「ウェハハハハハハハハハ」(※半裸で戦い続ける長男の笑い声)


 誰一人。

 誰一人として―――全裸で立ち尽くす王に、関わることを避けている。目を逸らし、視界に入れることさえ拒んでいた。


 ―――王の存在ごと、見なかったことにするつもりだ―――!


 全裸の王様は、何とも言えない表情で、ただただ立ち尽くすだけの、前衛的すぎるオブジェと化して。


 なんか、その……エラいことになった王城で、《異次元の魔女》が話をまとめる。


『……えーと、まあそういうわけなので……《異次元の魔女》を殺したら世界は滅びます、そこのアホな王様みたいな目に遭うかもです。だから、あ~……もう《異次元の迷宮》に手ェ出さないように。わかるね?』


『アッハイ。わかりました』


『ウィ。……んでわ、わたゲッホゲホ我らは帰るんで。あ、騎士団の人らはこのまま城に置いてくんで、感謝するように。《異次元の女神》と称えてもよいぞー』


 最後のほうは《異次元の魔女》というよりクロエのが出ている気はしたが。

 何はともあれ、同期・連結させているという〝異次元の魔法〟を解除し。


 ランダム生成ダンジョン住まいのお歴々れきれきが帰還する最中――少女剣士(※山賊女子仕様)ラム=ソルディアは、ぼんやり考える。


(さっきの王だかのキモチワルイ姿は、幸い良く見えませんでしたし、全力で記憶から消去するとして……〝アルメキオラ〟、〝アルメキオラ〟か……よーし、その名前だけは、しっかり覚えておきましょうね~)


 ラムはラムで、何か得るものがあったらしいが――深く追求するのは避けることとする――!

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