第41話 ハーク=A=スラストの殲滅特化の本気装備(※忖度ナシという名の地獄)

 ――――★鑑定結果★――――


『ハーク=A=スラストの殲滅特化の本気装備』


右手:みなごろしの魔神剣(攻撃力:+120、攻撃が全体化、状態異常:興奮・高揚)

左手:知恵捨ちえすての脇差(攻撃力:+40、勇猛・命知らず特性付与、会話困難)

頭:爆走の角兜ホーンヘルム(防御力:+16、突進力向上、頭突き攻撃力:+50)

体:不可視ふかしの覇王鎧

(防御力:+120、STR:+50、回避率:-20%、恐怖無効、不可視なので見えない)

足:超特急のダンサーシューズ

 (防御力:+1、舞踏スキル付与、超特急効果でAGI:+50だがブレーキ困難)

アクセサリ:トゲトゲの肩パッド(体当たり攻撃力:+30、世紀末感:+100)

      疲れ知らずの鼻眼鏡

   (疲弊による能力低下を抑止、カッコよさ:-50、ユニーク:+50)

下着:太陽のステテコパンツ(防御力:+1、周囲に目くらまし、ほんのり温かい)


(防御力合計:+148)


予備武器:エターナルフォース普通の矢(攻撃力:10+50、氷結・即死効果)


 ――――★鑑定終了★――――



「ウェハハハハハハハハハハハ」


『ワアアアアアッ!? ウッウワッ……ウワアアアアアアッ!!?』(※騎士)


シャ~~~ッシャシャシャシャッッッ」


『ナニコレェ……ネェナニ!? ナンナノコレェェェ!!?』(※彼らは騎士)


「ヒュウ~~~ッ……知恵捨チエステェェェェェッ!! キエェェェェェッ!!!」


『ヒィヤァァァァァン!? コワイヨォォォォォンッ!!』(※騎士だってば)


 傷だらけの騎士団が、元気一杯に悲鳴を上げるのも無理からぬこと。


 突如として現れた、奇っ怪な装備に身をつつんだ何者かが――奇妙な笑い声を上げ、奇声を発して駆け回り、猿叫えんきょうの如き気合と共に両手で剣を振り乱し。


 その一撃ごとに、騎士が百人いても苦戦する魔物たちを、紙屑のように切り飛ばしていく――しかもどういう原理なのか、攻撃が複数体に及んでいるし(※全体攻撃化)


 何より、突然の嵐のような暴威ぼういふるっているのが――(見た目には)半裸に肩パッドの、下半身がなぜか光り輝いている正体不明の男なのだから。ついでに言えば鼻眼鏡で人相にんそうも分からない。というか見た目が心底エゲツない。


 騎士団の人々から見れば、悪夢ナイトメアと以外に形容できないだろう。トラウマ必至だ。


 さて、ハークが爆走してきた火山地帯のえぐれた道を、何とも言えない表情のラムがしずしずと、いつも通りの無表情でリーリエが、ゆっくり追ってきたが。


「……ウン。ハーク師匠の本気装備が、色々と投げ捨てた効率重視なのは理解しますけど……もう少し手心てごころというか、こう……見た目や対外的に、ですね……」


「さすがハーク、たくましくてカッコイイわ……きゅんきゅん♡」


「あっいえアタシもですね、もちろんどんなハーク師匠でも受け入れますけどね? ただまあ、初見の人はビックリしちゃうだろうな~っていう、そういう配慮っていうかですね?」


「ふゅ~ん。……ところでラムさんは元・貴族だったってハークから聞いたけど、あの騎士団、ラムさんの国とは違うの? 顔、隠さないで平気?」


「あ、いえ……鎧とかの紋章を見る限り、西の国っぽいので違いますね。アタシがいた東の国なら、回復役のシスター部隊とかいたはずですし。まあどっちだとしても、アタシもう完全にハーク師匠やクロエちゃんの味方をするって決めてますし、身バレなんて恐れませんけどっ」


 ふんす、と胸を張るラムは、頼もしくもあり――そんな彼女の後ろから、当のクロエが現れる、と。


「ん~、気持ちはありがたいけど……うちの実家の問題だし、わたしが何とかするかな~。ま、ちょっと脅して釘刺すだけだけど~」


「あ、クロエちゃん……でも姿を見せちゃって、ほんとに大丈夫で――」


『ハアハア、助かったけど、何だあの蛮族みてぇなの……――ヒッ!? な、なんだアレ、また新しいモンスターか……まるで魔女みてぇな……!?』


「……あれ? なんか騎士団の人、クロエちゃんを見て怯えてるような……?」


 ランダム生成ダンジョンの主で《異次元の魔女》と呼ばれていても――クロエの見た目は、か弱い少女。屈強な騎士が怯える相手ではない、はずなのだが。


 当のクロエが言うには。


「ああ、今ね~……次元を歪めて、本来とは別の姿を投影してるから。それこそ怪物みたいな魔女にでも、見えてるんじゃな~い? ま、わたしのほんとの姿、知られても得なんて無いかんね~……あ、念のためラムちゃんも山ガール風(※山賊女子)に、リーリエさんも森の賢人(※ゴリラ)に見えるようにしてるよ~」


「身バレしないよう気を遣ってくれるのはありがたいですけど、アタシとリーリエさんの見た目チョイスに悪意ありません?」


「いやいやまさか……ちなみにハーク兄さんの今の装備は、普通に見た目わかんなくてラクチンだね~……おっと、コホンッ……」


 説明しつつ、軽く咳払いし――クロエこと《異次元の魔女》が、声すら歪めているようなおどろおどろしい声で告げる。


『我こそは《異次元の魔女》……愚かなる人間めら、貴様らは今、何をしようとしているのか理解しているのか……?』


『!? な……あ、アレが《異次元の魔女》だと……!?』

『な、なんて恐ろしい……けど、何つーか、その……』

『……すげーセクシーってか、ミステリアスな魅力っていうか……』

『魔女ってやっぱスゲェや。おれは改めてそう思いました』


「《異次元の魔女》さんよォ、なんか自分だけイイ感じに見せてねェですかァ?」


『いやいや、普通ッスよ普通……そしてラムちゃん、山賊女子の雰囲気めっちゃ出てるね~……演技派~』


 それが本当に縁起なのか議論の余地はありそうだ、が――騎士団の副官と思しき人物が、何やら呟く。


『そうか、奴が《異次元の魔女》ならば……団長の言う通り、ここは最深部……そして団員の言葉通り、周囲の状況は幻惑ということか! おのれ、魔女め……だが、これは王命を遂げるチャンス……!』


 彼の憶測は的外れだが、あえて訂正してやる必要も無いと判断したのか、クロエ……いや、今は《異次元の魔女》が構わず続ける。


『フン……貴様ら、愚昧ぐまいなる王めらにそそのかされたのだろう……《異次元の魔女》を討伐せねば世界が滅ぶ、これは聖戦なのだ、などとな』


『!? な、なぜそれを……っ、まるで見てきたかのように、おのれ魔女め!』


 実際にそんなことを口走っていたのは水晶玉で見ていたが、もちろんそれを明かしはせず――もはや対話も面倒と、《異次元の魔女》は結論を放つ。


『が、それは大間違いなのだと知れ――無知の知も解せぬ、蒙昧愚劣もうまいぐれつ増上慢ぞうじょうまんども。我を討つことこそ、世界の滅びに直結するのだと――その証拠を見せてやろう』


「フォーフォフォフォフォファーーーウッ」


 現在進行形でハークが暴れまわっているのを背景にして。

 すう、とクロエが少女らしい小さな手を……ラム達以外には魔女らしい禍々まがまがしい手を、かざしてみせると。



『今、次元を介して異なる空間を、させる―――

 だ』


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