第40話 まあ騎士団も頑張ったと思うよ、ウン。だからまあ、なんだ、アレだ、ドンマイ(軽め)

『―――ウオオオオオオオオオッッッ!!!』


 今この瞬間、騎士団長と思しき人物の大剣による一撃を最後に。

 二階層の魔物を倒し――少なくともその周辺は、制圧できた模様。


 ここまで既に半数以上の重・軽傷者を出し、王国騎士団の死力をほぼ尽くし、草原のような二階層を進んできて。


 ようやく掴み取った勝利に――団長と、その副官とおぼしき者が、満足げに対話する。


『グワッハッハ……我ら王国騎士団の力を見たか! 冒険者などとは違う……たとえどのように恐ろしい魔物といえど、国の力には敵わぬのだ!』


『ハッ! し、しかし団長……既に半数以上の怪我人が出ております。どうにか死者は出しておりませんが……この迷宮、一体どこまで続くのでしょう? 王命での《異次元の魔女》討伐任務とはいえ、一時撤退も視野に入れるべきでは……』


『ええい、腑抜ふぬけたことを抜かすな! フンッ、それに安心せよ……この草原の如き異様な迷宮には困惑したが、この広さを考えよ。山中にあるダンジョンとはいえ、これほどの広さを内包ないほうするダンジョンであれば……良くて三階層が限度。いやいや、もしくはこの二階層がやもしれんぞ!』


『おお、なるほど、さすが団長……御慧眼ごけいがんです! 言われてみればその通りですね、迷宮内の空間が異次元にでも繋がっていれば話は別かもしれませんが、そんな話は世界のどこでも聞いたこともありませんしね~!』


『グワハハ、そうそう! 異次元にでも繋がってない限り、どんなに深くても三階層以上はありえんわ~!』


 ………………うん、そうだな!!


 さて、熟練の冒険者でも一階層すら踏破不可能だった超高難度ダンジョンを、一気に二階層の途中まで踏破した高揚感のためか。


 騎士団の兵たちは、怪我人ですら、今がこの世の春とばかりに盛り上がっている――何せ今しがた倒した魔物たちが変貌した、無上の価値を秘めた宝石も、その辺りに山のように散らばっているし。


『ウオオーッ! 見たか、おれたちの……人間の勝利だァ――!』

『超高難度ダンジョン、何するものぞ! 王国の力に敵うべくもないのだ!』

『このまま《異次元の魔女》を討伐し、王のお言葉通り世界を救うぞォォォ!』


 確かに、それは王国の誇る騎士団の功績だ。この超高難度と知られる迷宮で、ここまで善戦し、踏破を成し遂げるなど。

 ……少なくとも外の世界の人間としては、大いに誇っても良いだろう。


 ………さて、その時ちょうど。



 ―――――を迎えたようで。



『ワッハッハ………えっ』

『『『……………はい?』』』



 今しがた、勝ち誇って大笑していた彼らは、何を目の当たりにしているだろう。

 草原から、パッと見る限り――、迷宮内で。


『……アレッ? 夢でも見てんのか、目がおかしくなったかな……なんか、さっきまでと……風景、めっちゃ変わってんだけど』

『アッレェ……さっきまでイイ風が吹いてたのに……ムワッと暑い、ってか熱いんですけどォ……?』


『……イヤ待て! これはもしかすると……魔女の幻惑魔法では!?』

『な、なるほど! さっきからおれの足鎧グリーブ、いきなり流れてたマグマでジュージュー焼かれてる気ィすんだけど、気のせいだなウン!』


『そ、そうだよ、幻術に決まってらぁよ……だって、じゃないと、なぁ?』


 何を、目の当たりにしているのだろう。

 つい先ほど死力を尽くし、ようやく魔物を倒して脅威を退けた、彼らが。


 何を、目の当たりにしているのか―――それは。


『……GuRuruUhhh……?』

『Nnh……?』

『GaRururu……ナンヤコイツラ……Uhhhhh……』


『『『――――――――』』』


 元気一杯、傷一つない魔物たちが――「?」と一様に、怪訝そうに首を傾げ、絶句する騎士団の様子を窺っている。


 それがランダム生成の結果と知らない彼らにすれば、絶望を通り越し、もはや何も考えられない状態だろうが(状態異常:空虚)


 それでも副官は、団長へと指示を求める――!


『だ、団長! これはさすがに、異常ですっ……急ぎ撤退しましょう! 犠牲は出るでしょうが、全滅よりはっ……口惜しいですが、すぐ指令を――』


『タスケテ……』(※左半分、岩に埋まった団長)


『ウォアァァァ!? ドゥワァーーンチュオォーーーンッ!!?(※団長、の意)』


 ああ、これはもう無理ですね……(状態異常:諦観)


 ついでに迷宮の構造が変化した影響で、辺りに散らばっていた宝石も消滅している。彼らの奮戦は、その証拠ごとランダム生成のつゆと消えてしまった。


 そもそも迷宮の構造が変わっているのだから、帰り道も不明――そんな状況で、余力もほとんどない騎士・兵士たちに、出来ることといえば。


 泣き笑いの如き、何とも言えない微妙な表情で、様子を窺っている数多あまたの魔物たちへと……。


『……あ、ども……へへっ、お元気そうで何より……んじゃあっしら、この辺で失礼させていただきやすんで……』


『『『―――GaaaaOhhhhhh!!!』』』


『イィィィヤァァァ! ユゥ~ルシトゥエーーーーーンッ!!?』

(※騎士団おじさんの甲高い悲鳴・命乞いの意)


 逆に話が通じたら、それはそれでどうするつもりだったのだろう。

 興味は尽きないが、彼らを襲う現状に、それほど猶予ゆうよは無いらしく――


『ウッウワァァァァ! も、もうコッチはヘトヘトだってのに、こんなのどうすりゃイイって……』

『とっとにかく逃げろ! 逃げ、逃げ……出口どっちだよ!?』


『っ……まだだ! 戦い続ける限り騎士の誇りはせぬ、諦めるんじゃなイィィヤァァァタスケテェェェ』


 傷だらけの騎士団の周囲には、傷一つない魔物が数え切れぬほど取り囲み。

 三頭の狼、炎の巨人、マグマのゴーレム、なんか既に溶けている雪だるまの精霊、雷を吐く怪鳥―――ランダム生成のため種族も属性も不揃いな、けれど危険性だけは度を越した魔物たちが牙を剥き。


 程なくして、騎士団は、哀れにも全滅することとなるだろう。


 ―――、という話だが。


「――――……………………ハハ」


『う、う……? も、もうダメだな……幻聴まで聞こえてきやがった……』


「――――――…………ハハハハ」


『……ッ!? いや、幻聴なんかじゃねぇ……なんだコリャ、魔物の声か……?』


「―――――――ハハハハハハハ」


『ど、どんどん近づいてくるッ……幻聴じゃねぇ、魔物でもねぇ……人か!? 冒険者か!? 救世主か!? 誰だ、誰だ、誰だッ―――アレはッ、まさかッ!?』


 外の世界の騎士団からすれば、知らなくとも当然の声。


 だがしかし、このランダム生成ダンジョン内に住まう者ならば、誰もが知る。


 それは、その存在は―――!


『アレはッ、人間―――えっ。……人、間……?』


 果たして、外の世界の人間からは、どう見えているのだろう。


 さてさて、突如として介入してきた、謎の人物の出で立ち(※装備)とは――?

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