第五章 ランダム生成ダンジョンを制覇せし者、ハーク=A=スラスト最大の謎とは

第39話 王国、本腰入れてきたってよ。――その時、ランダム生成ダンジョン住まいの人々の反応は――!?

 ランダム生成ダンジョンから見れば外側の世界、まさに一階層への入り口の目前に――冒険者ではなく、騎士や兵士で構成された部隊が陣取じんどり。


 誰もが剣や槍をたずさえ、物々ものものしい雰囲気を隠しもせず、整列していた。


 先頭で一際目立つ、特に豪奢ごうしゃな鎧兜を身に付けた団長と思しき騎士が、剣を振り上げ。


 夜の闇を切り裂くように、威勢よく叫ぶのは――――


『討伐すべきは世界を滅ぼさんと目論もくろむ《異次元の魔女》――誉れ高き王国騎士団よ、この聖戦をもって世界を救うのだ! いざ、突撃――ッ!!』

『『『オオオーーーーーーッッッ!!!』』』


 ときの声を上げながら、王国騎士団とやらが今、超高難度ランダム生成ダンジョンへと潜っていく――……。


 ◆        ◆        ◆


 というようなダンジョン入り口の様子を、ハーク達はセーフティールームにて、クロエの用意した〝異次元の水晶玉〟を通してリアルタイムで眺めていた。


 この事態に、ラムが焦りと、同時にいきどおりの感情を声で表す。


「ま、まさか王国の騎士団がダンジョンに……っ、でも《異次元の魔女》を討伐って、何てことを……クロエちゃんが世界を滅ぼそうなんて、考えてるわけありませんっ! ハーク師匠、何とかしないと……!」


「ああ、重装備が約百人ってトコか。軍じゃなく中隊規模なのは、入り口やダンジョンの狭さを考慮に入れてのコトかな。それでもアレだけいれば、一階層すら攻略できない、ってコトはなさそうだ。数の力があなどれないのは、俺もダンジョン探索中に魔物に囲まれた時に思い知らされてるよ。ハハハ」


「いえ笑ってる場合ですか!? さすがに騎士団まで入ってきちゃったら、大変なんじゃ……このままじゃ、クロエちゃんに危害が……!」


「ん~、そうだな……これもダンジョンの入り口が固定化された影響、ってヤツなんだろうけど。外部から、準備を整えて侵入しやすくなる、っていうか。まあ、それでも……」


 ラムの危惧に、けれどハークは少し考えつつ、クロエと対話する。


「……二階層の途中まで、ってトコかな?」


「ん~……三階層まで辿り着ければ、褒めてあげていいんじゃな~い?」


「いやぁ、今はダンジョンもちょっと異変が起こってるっぽいからな。魔物も凶暴化してるし、難しいと思うぞ」


「う~ん……じゃあ二階層の半分も、無理そうだねぇ……気の毒に」


 のんびりとお茶でもしそうな義理の兄妹に、ラムが呆気に取られつつ問う。


「えっ……えっ。……えっと、王国騎士団って言ったら、その国でも最高戦力だと思うんですけど……ハーク師匠たちから見れば、そんなものなんですか? というか、もうこの時点で限界が測れちゃうんです……?」


「まあ伊達だてに、この実家で十年も暮らしてないからさ。さすがに鑑定スキルは実際に見ないと使えないけど、あの程度なら使う必要もないよ。……とはいえ、だ。ダンジョンにしか見えないのは確かだろうけど、うちの家でバタバタ死なれちゃ夢見ゆめみも悪い。彼らのほとんどは、国の王侯貴族やらにそそのかされて、真実なんて知らないだろう……帰りを待つ家族もいるだろうし、丁重ていちょうにお帰り願おうか」


 もはやハーク達にしてみれば、王国騎士団といえど敵という認識すら無いらしく、となっているようだ。


 もう一つ、とハークが更に付け加えるのは。


「それに、がな……彼らからすれば、虚を突いて夜襲をかけてきてる、って認識なんだろうけど。ランダム生成ダンジョンの仕組みを知らないとはいえ、最悪としか言いようがないよ」


「えっ、時間って、今はで……あっ」


「ラムも気付いたか。ま、その辺の様子は実際に体験してもらって……大いにガックリきてもらうとしよう」


 少しだけもったいぶった調子のハークに、義妹にして《異次元の魔女》と恐れられるクロエが、珍しく立ち上がった。


「ん~、しょーがないにゃぁ~……んじゃ、今回はわたしも行こっかな~。ダンジョン深層の異変も気になるし、はさっさと解決しちゃお~」


「え……く、クロエちゃんも? でも、クロエちゃんを……というか《異次元の魔女》を狙ってきてるのに、出向くなんて危険じゃ……」


「だいじょぶ、だいじょぶ。わたしの装備の〝異次元バリア〟、危険度A以上の魔物でもないと破れないし~。それに十年前のことといい、いい加減……狙われるの、うっとーしいからさ~……」


 いつものダウナー気味というか、間延まのびした口調は、崩しはしないが。



「もう二度と、手出しできないよう―――あげなくちゃね―――」



「…………!」


 その静かな声色の中には、《異次元の魔女》と恐れられるほどの威容と魔力が含まれており、友人であるラムでさえ恐れに震える。


 ……と、方針が定まったところで、ハークが改めて口にするのは。


「よし、それじゃまず、王国の問題はさっさとケリをつけて、その後にダンジョン深層の異変を解決しよう。特に深層の異変は、イヤな予感がするからな……久々に、本気装備で行くとしよう――」


「えっ……ハーク師匠の本気装備ですかっ? わ、わあっ、なんだかすごそうです、一体どんな……え? ん、あれ……? ん、んん……?」


 言うが早いか、ハークは既に、セーフティールーム内の倉庫(※異次元仕様)から装備を取り出していた。


 が、なぜだろう――ラムは、取り出される装備を見るごとに、思わずほうけ、呆気あっけに取られ、呆然ぼうぜんとしつつ。


「………………えっ?」


 ただただ、唖然あぜんとするばかりだった。


 ランダム生成ダンジョンがご実家の長男、ハーク=A=スラストのとは。


 一体―――どのようなモノなのだろうか―――?

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