第38話 異変 ★章ラスト

 セーフティールームから出れば、そこはもう三階層。

 普段は穏やかな構造で、積極的に襲ってくる魔物は、非常に少ない。………。


 


「――リーリエ! まだ来るぞ、次の魔物は〝危険度A〟ってトコだ……弱点は頸椎けいついかケツ、背後を取って狙ってくれ!」


「了解よ、ハーク。命ごと、あえてそのケツ頂戴する。―――ゴオォォォッ!!」


『OaaaaaaaNhnnn!!』


 美麗びれいなるエルフがいかつい気合と共に放った矢が、魔物のケ……臀部でんぶを的確に射抜き、一瞬にして宝石化させる。


 が、ひと息つく間もなく、次の魔物、またその次、と現れ――ようやく殲滅せんめつし終えた頃には、周囲には見たこともないような宝石がき詰められていた。


 その宝石の一つ一つに、魔物の危険性と比例するような、膨大な魔力と価値がめられている……が、それに目をくれる余裕もなく、ラムは震える口を開いた。


「ふ、ふわわっ……す、すごいです、ハーク師匠、リーリエさん……で、でも三階層なのに、こんなに危険なモンスターが、しかも大量に出るなんて……ランダム生成ダンジョンって、こういうこともあるんですね――」


「―――いいや、ラム。これは、明らかに異常だ」


「ふえっ?」


 意外な返事に目を丸めるラムへと、ハークは冷静に説明した。


「十年の間、更にクロエの引っ越し直後でさえ、内部構造はともかく……こんなに攻撃的な魔物が湧くコトは、一度としてなかった。何より、さっき倒した魔物たちの中には、何体か……四階層でしか見たコトのない魔物が混ざっていたんだ。〝イフリート〟や〝羅刹〟なんていう、二つ名抜きでも危険な魔物だよ」


「えっ……そ、それって、どういうことです……?」


「憶測でしかないけど――四階層か五階層で何かが起こっている、ってコトだと思う。本来なら魔物が別階層へ移動するコトは無いんだけど、その本来を覆す何かが。だから四階層の魔物が、三階層に上がってきたんだろうな。……リーリエ、前にラムやクロエと五階層に行った時、何か気付かなかったか? ほら、〝死のツイスターゲーム〟とか拾ってきた時にさ」


 ハークに問われ、リーリエは少しだけ考え――答えを返す。


「言われてみれば。……いくら五階層とはいえ、魔物の気配があまりに少なかったわ。いいえ、ほとんど感じなかった、と言っていい……だからこそアイテム収集も簡単だったけど、今にして思えば異常ね」


「―――確定だな。二人とも、セーフティールームへ戻ろう」


 言うが早いか、リーリエは既にセーフティールームへの道を先導し、ハークが周囲に注意しつつ歩きだすと……ラムが小走りで付いていきつつ尋ねる。


「あ、あのっ、ハーク師匠は、何が起こってるか予想できてるんですか? それでこれから、どうするつもりで……?」


「いや、明確な答えがあるワケじゃないけどさ。判断は、早くしないとな。それにラムが前に気付かせてくれたコトもある。ほら、ダンジョンの入り口が固定された件とかさ。……実際、どうも外の世界は、きな臭いカンジがするし……まあそれはクロエの調べで、受け売りなんだけどな。ハハハ」


「えっ。外の情報とか、そんな簡単に分かっちゃうんですか? きな臭い、って……一体、何が起こって……?」


 元々細かい部分まで気になるタイプのラムは、心配そうだが――ハークはいつもの調子で、安心させるように笑いかける(※〝おもてなしのバンダナ〟装備)



「もしかすると、今から数時間の内に、ランダム生成ダンジョンの――俺の実家の状況が一変いっぺんする、何かが起こるかもしれない。でも、心配ないさ。わが家の長男として、俺が必ず何とかする――安心してくれ、ラム」



「! は、はいっ、ハーク師匠……アタシ、なにが起こってるのかなんて、全然わかんないですけどっ……ハーク師匠を信じることは、絶対ですっ!」


「ははっ、ありがとな、ラム。それじゃ改めて……セーフティールームへ戻って、クロエと一緒に対策をろう」


 促しながら殿しんがりを務めるハークに、ラムも守られつつ、先導するリーリエを追う。


 一体、超高難度ランダム生成ダンジョンに何が起こっているのか。

 あるいは十年の安定をくつがえし、状況を一変するかもしれない。



 最大の事件が――ハークのご実家、最大の事件が――始まろうとしている――

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