第37話 『絶対的なすごろくゲーム』で遊んでみた!

 さて、ダイニングの広いテーブルに、正方形のボードを設置し、取り囲む面々。


 ハーク、ラム、クロエ、リーリエ――セーフティールームに住まう総勢四名が、ボード内のマス目の内、スタート地点に自分のコマを置いて待機する。

 そう、今より始まるのは、前に二階層で拾ったアイテムの一つ。


〝絶対的なすごろくゲーム〟である―――!


 今にもゲームを開始する直前、ラムがクロエと対話を交わす。


「さて……最近ちょっとゲームとかで遊びすぎでは? って気もしますけど……楽しいのでヨシとしましょう。今回はすごろくゲームだから、四人で出来ますしっ。さあ、ゲームとはいえ真剣勝負ですよ……!」


「んふふ、いいね、わかってんじゃん~……ルールはサイコロ2つ振って、合計の分だけ進めるみたいだね。最大12マスか……にしても、マス目になんも書いてないの気になるね? 罰ゲームでもあったら、おもしろいのに~……」


 自ら進んで追い込んでいく辺り、ゲーマー思考なクロエだが――とりあえずゲームを始めよう、とハークがラムにうながす。


「それじゃ、最初はラムだったな……サイコロは、コレか。〝絶対的な〟の意味はまだよく分からないけど、まあゲームだし気楽にな!」


「は、はい! うう、とはいえ最初は緊張しちゃいますね、こんなことでまでLUKを発揮しなくても……と、とにかくラム=ソルディア、いきます!」


 やや緊張気味に、ラムが二つのサイコロを同時に振り、ボード内のスペースに転がすと――出た目は。


〝6+6=12〟――いきなりフル出しやがったこの過剰LUK少女剣士。


 これには《異次元の魔女》クロエさんも苦笑い――!


「ちょいちょい~……空気読んでよラムちゃ~ん。まあぶっちゃけ、予測してたケド。かっこ笑い」


「かっこ笑いやめてくださいよアタシは予測できないんですよこういうの。ああもー、とにかく駒を動かして……へっ!? え、アタシの駒、勝手に動いて……な、なんですかこの高性能。ツイスターゲームの時も思いましたけど、妙なとこで手が込んでますねぇ……」


 驚きながらもツッコミが止まらないラムだが、そうしている間にも駒は移動し――12マス目まで動いた、その時。


 ボードの真ん中から、座るハーク達の目線ほどの高さに、ブンッ、と文字が表示され――それを反射的にクロエが読み上げる。


「ふへっ!? び、ビックリしたぁ……え、なに……〝プレイヤー1に、局所的豪雨が襲い掛かる〟……?」


「え。なんですかそれ怖い。まあゲームの中の話で……――ふぎゃーーーっ!? 室内なのにいきなり土砂降りの雨が!? いーやーっ!?」


「「「…………えっ」」」


 ハーク・クロエ・リーリエが呆気にとられるのも当然、室内、ましてやセーフティールームにも関わらず――どこからともなく降り注ぐ雨が、ラムをずぶ濡れにした。


 雨が収まる頃には、セーフティールームゆえに軽装だったラムは、服が透けてしまい際どい格好となったが……妙に紳士なところのあるハークはすぐさまタオルを用意し、彼女に差し出す。


「大丈夫か、ラム。これで体を拭くといい。風邪、引かないようにな」


「は、はひ……ありがとうございます、ハーク師匠ぅ……て、ていうか、あの、このゲーム……まさか、まさか……」


「ん、ああ……そうだな。どうやらマスを移動すると、表示される文字と同じコトが起こるらしい……多分〝絶対的な〟強制なんだろうな。さっきタオル取りに行った時に気付いたんだけど、扉が開かなくて出られなくなってるし。恐らくゲームをクリアしないと、閉じ込められっぱなしになるんだと思う」


「……と、とんだデスゲームじゃないですか!? しかも出る文字の結果によっては、とんでもないことに……ハッ!? つ、次は……クロエちゃん?」


 見ればそこには、クロエの青ざめた顔が――二つのサイコロを持つ手は、カタカタと震えていた(※超高難度ランダム生成ダンジョンのラスボス)


「……ふ、ふひひっ、まあまあ……面白くなってきたじゃん?(震え声) べ、別にビビってないし、ただの騎士ナイト震い(※武者震いのようなもの)だし……み、見さらせぇ……《異次元の魔女》のリアルLUKぅ~……!」


「ああっ、クロエちゃんがへっぴり腰と震える手でサイコロを……結果は!?」


 結果――〝2+3=5〟。……お、おう。


 そして、表示された文字は。

〝プレイヤー2を、幻想の蔦が絡めとる〟


「―――ふぎゃーーーーっ!?」


「お、おおーっと!? どこからともなく現れた無数のつたがクロエちゃんを絡めとって、中空で縛り上げたァ――!?」


「いやラムちゃん解説してないで助けてくんない!? いっいだだっ……へ、変な方向に縛られて、関節がギリギリいってるぅ……!?」


 クロエ自身の運動不足も原因の気はするが、いわゆる亀甲縛りの状態でぶら下がって身悶えているクロエは、ちょっぴり艶めかしい。やったぜ。


 それはそれとして、ハークは義妹の危機を救おうとする……が。


「……うーん、幻想の蔦だからなのか、そもそもゲームのルールなのか……第三者には触れないみたいだな。どうしようもなさそうだ」


「そうなんですか……でもハーク師匠、この状態じゃクロエちゃん、サイコロ振れなくないですか? 次の番、どうしましょう?」


「次の番までに解放されないようなら、そうだな……サイコロを口で飛ばすとか」


「いや二人して呑気に分析してないで、早くゲーム進めてくんない~!?」


《異次元の魔女》のもっともなツッコミが入ったところで、次の順番――そこまで沈黙を保っていたリーリエが、いつもの調子で言葉を放つ。


「ん……次は私の番ね。それじゃ……」


「! り、リーリエさん、サイコロのことで言っても難しいかもしれませんけど……き、気をつけてくださ――」


「えいっ」


「躊躇も恐れも一切ない! ブレなさすぎじゃないですかリーリエさん!?」


 ラムのツッコミ通り、この珍妙なデスゲームに対しても物怖ものおじしないリーリエだが――彼女の出した目は〝4+5=9〟となかなか好成績。


 されど、ボード上に表示された文字は。

〝プレイヤー3は二階層に飛ばされる〟――瞬間。


「あら。二階層に、って……―――――」


「えっ。……リーリエ、さん……えっ? ……あれっまさか今、本当に二階層に飛ばされたんですか!? ほぼ部屋着みたいな装備じゃ危険ですよ、助けに行かないと……うわーっハーク師匠の言った通り扉が開きません~っ!?」


「落ち着くんだ、ラム。リーリエは優秀だからな、実力を信じよう。……でも心配なのは確かだし、そうすると……さっさとゲームを終わらせてしまうしかない」


「! た、確かに……わかりました、急ぎましょうっ。では次は……ハーク師匠、お願いします!」


「ああ、任せておけ! いくぞ―――フンッ!」


 そうして、パーティーのリーダー格にして、ランダム生成ダンジョンがご実家の長男が、二つのサイコロを振ると!


〝1+2=3〟…………はい。


 ラムなどはガックリきている気はするが、それはともかく、浮かび上がってきた文字はというと。


 ――〝プレイヤー4に、突然だがニンジャが襲い掛かってきた!〟――


「えっ。……あのハーク師匠、ニンジャってなんです――」


『―――ニィィィィィィン!!』


「きゃあああああああ!!? なんですか誰ですかランダム生成モンスターですか!? どこから出てきたんですかコレェ!」


『スーシー! フジヤーマ! ハラキーリ!!』


「しかも不思議とパチモンを感じる! あっ、ハーク師匠、危ないッ――」


 ラムが危惧するも、正体不明のニンジャは容赦なく襲い掛かり――しかしそこはさすがのハーク、武器もない部屋着の軽装でも、フィジカルと格闘で渡り合う。


「ハッ! ……ラム、早くサイコロを! こうなったらキミが頼りだ……俺がコイツを食い止めている内に、どうにかクリアしてくれ!」


「……ふえっ!? え、でも……あっ!? ゴールまで残り12マス、また6が二つ出れば、確かに……で、でも二連続なんて、上手くいくはず……」


『ニンニンニィン! サムラ~イ! スーキーヤーキィー!!』


「っ。こ、このままじゃ、ハーク師匠がニンジャだかよく分かんない変な敵に……っ、ええいっ、ままよっ! ですっ!」


〝ハークVS突然のニンジャ〟が繰り広げられるのを背景に――ラムがサイコロを振る、と。


「あっ! やっ………やだ、そんな………」


 出たのは〝6+5=11〟――――ゴールまで1マス足りない。


 無慈悲にラムの駒が、ゴールの一歩手前まで進み……浮かび上がってきた文字は。


 ――――〝プレイヤー1は、1マス進む〟


「………えっ? あ、あれ、1マス……えっ、それって――」


「―――やったわね、ラムさん。おめでとう、ゴールみたいよ」


「きっきゃあああああああっ!! えっちょ……り、リーリエさん!? あれっ、二階層に飛ばされたんじゃ!? どうやって戻って……」


「普通に歩いて。あとセーフティールームから出るのは無理みたいだけど、入ることはできたわ。……ハーク、ただいま」


「喰らえィニンジャ! アイエエエエ! ……おっ、リーリエおかえり。今日の二階層の様子はどうだった?」


「なんか密林みたいになってたわ」


 なかなか際立った状況で、されど呑気のんきに会話する二人――と、ラムがゴールしたおかげか、突然のニンジャは消滅し、クロエも拘束から解放される。


 中空から投げ出され「ふぎゃっ」と声を漏らすクロエを始め、プレイヤーたちの目の前に表示されたボード上の文字は。


〝ゲームクリア、おめでとうございます。またのご利用を〟


 その表示から、少し間をおいて――〝絶対的なすごろくゲーム〟は消滅した。


 ……そうして、突然のデスゲームをいられた四人の中から。


 結果的に危機を救ったラムが、代表して本日の教訓を述べる。


「……と、とりあえず、ランダム生成アイテムは、何でもかんでも使っていいわけじゃなく……もっと慎重になるべき、ですね……」


「……い、異議いぎなしぃ……」


 ラムの結論にクロエが同意し――最近はちょっと調子に乗って遊びすぎていたので、今後は少し慎重になるという方針が定まった。


 嗚呼、これがランダム生成ダンジョンの厳しさ、超高難度の恐ろしさ―――

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